11.青い兎
翌日、いつも通りエレーナ様が公務に出かけた後、あたしは町へ出かけていた。
「……何故、私が貴女の買い物の助言など? 殺しますよ?」
「ちょっと、リネちゃん。そんな物騒なこと言わないでよ〜。別にエレーナ様を口説き落とそうとしてる訳じゃないんだからさ〜」
「……そんな真似したら、抹殺します」
常に後ろを歩くリネちゃんと、雑貨屋を物色していた。散々悩んだ挙句、リネちゃんに助言を求めたら、こんな感じの反応だったし。めっちゃトゲトゲしてるんだけどっ!
「リネちゃん、いつも文句も言わずにそばにいてくれてるんだから、あたしのこと、嫌いじゃないんでしょ?」
「……嫌いです。どちらかと言うと、大嫌いですよ?」
グサッ! 大嫌いって言葉は、さすがに傷付く。
「で、でも、いつもそばに居てくれるじゃん?」
「……エレーナ様から、護衛するよう言われているので仕方なくです。魔力ゼロなんて、本来死んでます」
エレーナ様…… 優しい。
仕方ない、自分で決めるか。服は、高そうなのいっぱい持ってそうだしなぁ。アクセサリーも、大きなブローチや、キラキラのイヤリングしてたもんなぁ。あれはきっと、魔導具だと思う。科学者の勘。
そうなると、何ならいいのか……
「あ……」
見つけた。髪留めなんかいいかも。この紅い宝石みたいなのが付いているのはどうかな? 65,000ロストっ!? かはっ! 買えないじゃん。前回と同じ狩りをあと4回もこなさなきゃ無理とか、ないわー。
などと、考えていると黄色い蝶の髪飾りを発見。これ、いいじゃんっ! てか、異世界でも蝶がいて、髪飾りになってるとか、ウケるんだけど。
「……その色はエレーナ様に相応しくありません」
「そうなの?」
「……エレーナ様には、そのようなお転婆な色は好ましくありません。こちらのような気品に溢れる色が相応しいです」
そういって、リネちゃんが提示したのは青い兎の髪留め。青い兎って、昭和のアイドルかよっ! などというツッコミを入れつつ、リネちゃんから受け取り、マジマジと精査する。確かにこれ、いいかも。でも、値段はおいくら万円? ゲッ…… 28,000ロスト。
「リネちゃん、これ、凄くいいけど…… あたしの予算じゃ買えないよ」
がっくりしているあたしに対して、リネちゃんはこう告げる。
「……半分、私が持ってもいいですよ?」
「マジでぇぇぇぇっ! 助かるよぉぉぉぉっ!」
そんなわけで、エレーナ様へのプレゼントを手に入れ、あたしたちは屋敷に帰る。
◇◇◇
いつものように夕食の席。クソおじがいなければ最高なんだけど、今はどうしようもないから我慢我慢。そう自分に言い聞かせつつ、目の前で疲れた表情のエレーナ様に声をかける。
「エレーナ様」
「何でしょうか、ぴかりん?」
あたしは立ち上がり、エレーナ様の隣に立つ。不思議そうな顔をしているエレーナ様の前に立ち、じゃ〜んっ! と青い兎を飛び出させる。
「プレゼントですっ! リネちゃんと二人で買いました。よかったら、使ってくださいっ!」
「まあ…… 素敵な髪留め……」
エレーナ様は大きく見開いた目をパチパチさせた後、満面の笑みを浮かべてそれを受け取った。胸元に寄せて、ギュッと握りしめている。
「ありがとうございます。プレゼントなんて、何年ぶりでしょうか。あまりに嬉しくて…… ありがとうございます、ぴかりん。それから……」
エレーナ様は涙声でそう語り、潤んだ瞳をリネちゃんに向け、尊死しちゃうほどの少女のような笑顔を浮かべる。
「リネット、いつもありがとうございます」
その直後、扉の脇に立つリネちゃんは、顔を真っ赤にして照れていた。ガチで好きなんだな〜。なんて思っていたら、フンッと鼻を鳴らす音が雰囲気をぶち壊した。クソおじめ……
「では、食事の続きといたしましょう、ぴかりん」
「は、はい!」
そこからはいつもの無言の食事になった。
◇◇◇
風呂を済ませたあたしは、髪を乾かすために、必死でタオルドライしていた。
「あ〜もうっ! めんどくさいっ!」
毎日これだけで、軽く1時間は取られている。ちなみに、この世界も365日、24時間制なんだって! 偶然にしては出来過ぎてる気がするけど…… まあ、深く考えると知恵熱出そうだからスルーしよっと!
それにしても、エレーナ様はよく平然としてるよね。自分でやってるのかな? あ、そっか。リネちゃんがやってるのか。それでも、時間はかかるよね〜。何とかできないかな〜……
ハッ!
先日のハンド扇風機っ! あれを元に改良すれば、ドライヤー作れるんじゃない? しかも、これ、絶対売れるよっ! 町にもたくさん、髪の長い女性いたしっ!
大興奮のあたしは、テーブルに座り、ぐちゃぐちゃとメモを書き散らす。もしかしたら、億万長者になっちゃうかもよ〜☆
◇◇◇
明くる日、朝食には髪飾りを付けたエレーナ様の姿があった。ヤバ、めっちゃ似合う。尊みぃぃぃぃぃ〜っ! 照れくさそうにするエレーナ様に向かって、鼻息荒く微笑んでみせた。リネちゃんもホゲ〜ッとしてる。
そんな朝食の後、あたしはリネちゃんと、町外れの寂れた工房を訪れていた。え…… 秘密の研究所って看板出てる、ウケるんだけど。
「ごめんくださ〜い」
あたしの声は、こだまする。シーン……
「あれ? いないのかな?」
「わっ!」
「ひゃっ!」
突然、背後から驚かされて、あたしは尻もちをつく。
「ケラケラ。そないに驚くとは思わへんかってん、堪忍な、ぴかりん」
「めめめ、めっちゃびっくりしたんだけど、ミラちゃんっ!」
そう。ここは、ミラちゃんの魔導具研究所なのだった。




