10.ロスト
あたしは森にいた。そして、目の前には魔物と呼ばれる存在――
「あかんっ! リネット、そっち頼むでっ!」
「……畏まりました」
そう告げると、リネちゃんはとんでもない速度で走る。走り方は、所謂忍者走りだった。ヤバ、ウケるんだけど。物理的に腕を振った方が速度が出るはず。だけど、そんなの関係ないスピードで動き回る。
「ぴかりんは、そっちの奴を引きつけたってやっ!」
疾風の靴を使い、高速で移動しながら、魔物の気をそらす。そこに、ミラちゃんがカードを投げつける。
「おおきに、ぴかりんっ! チェックメイトやっ!」
ボンッ! カードが当たった魔物は爆散する。その横では、二本のナイフで魔物を切り刻むリネちゃんの姿がある。
「これで依頼の分は終わったな、久々の狩りやから少し緊張したで」
そう言いながら、魔物の爪や皮を剥ぎ取る。さらに、心臓がありそうな場所に手を突っ込んでいる。
「あかん、こっちはなしや。リネット、そっちはどうや?」
「……ありました」
リネちゃんはキラキラした石を、ミラちゃんに見せている。
「よっしゃ。小魔石5個、十分な収穫や」
こうして、あたしたちは、帰路につく――
てか、いつの間にか、異世界物のド真ん中、王道中の王道。なんなら、世界的に有名なモンスターハンティングみたいなことしてるんですけどっ!
どうして、こうなったかと言うと――
◇◇◇
「どうしたらいいの?」
きっかけはこの一言だった。すると、ミラちゃんは笑顔を浮かべた。
「王国素材組合の組合員になって、素材集めで資金を貯めるんや」
ヤバ、めちゃめちゃクエスト受注じゃないですか。
「登録は簡単やで――」
そのまま、王国素材組合の窓口に連れて行かれて――
「はい、登録は以上となります。ご活躍をお祈り致します」
ロボットのように淡々と話す受付の方から、黒い、中心が赤く光った腕輪を貰った。これが組合員証だという。腕にはめると、黄色に変わるという話だったけど、あたしのは赤いままだった。
「魔力ゼロの影響やろな。それは、生存確認灯。せやから、素材集めには何の問題もない。ちなみに、無くしたら、再発行できんから気ぃ付けや」
「……何で私まで」
無理やり連れて来られたのは、あたしだけじゃなかった。リネちゃんも、一緒に登録を済ませる。
「うちだけやと、ぴかりんのフォローまで手が回るか分からへん」
「……どの口が言ってるの? 魔導具なんて使わず、魔法を使えば、こんな仕事、すぐでしょ? 私まで巻き込まないで」
「それは言わん約束やろ? うちは錬金術師や。魔導士やない。せやから、不安なんや。な?」
フンと鼻で笑うリネちゃん。もしかして、二人ってあんまり仲良くないのかな? なんて、勘ぐってるあたしを無視して、ミラちゃんは掲示板を眺めている。
やっぱ戦いたくないなぁ。
何となくのトラウマに引っ張られているのは分かってる。28歳になってもまだ引きずってるのはおかしいかもだけど……
「やっぱ、戦いたくないとか言ったら怒る?」
勇気を出したあたしの質問にミラちゃんは振り向いて、笑顔を見せる。
「最初はみんな、怖いもんや。せやけど、慣れる。安心せぇ」
その後、あたしはミラちゃんの秘蔵だという癒しの杖と疾風の靴を預かる。靴は履いた瞬間、重力が変わったように身体が軽くなった。杖は、その名の通り、癒しの効果があり、軽傷なら治せるそうだ。事実なら凄くない? 身体が軽くなってる時点で凄いけど。
「ほんなら、東の森に向かおか。靴は直前で履いてな。夕暮れまでには帰るで」
そして、半ば強引に狩りへと連れ出されるのだった。
◇◇◇
話は戻して、狩りからの帰り道。
「どやった、ぴかりん?」
「どうって?」
「狩りや。意外と楽しいんとちゃうか?」
……意外だった。確かに悪くなかった。
「でも、あたしはほとんど何もしてなかったし」
「ええんや。治癒術師は、他の仲間が傷つかなきゃ何もせん」
それと、あたしはここで今、生きているんだって、初めて思った。
「それにしても、リネちゃん、めちゃくちゃ強くない?」
「……」
「そらそうや。王立暗殺学校で首席やからな」
「何それ、エリート中のエリートじゃん」
「せや。本来、そんな看板あったら、メイドなんてやらへん」
「エレーナ様への愛、か」
「……殺しますよ?」
「あ、ごめんごめん」
「すまんすまん」
刺激的な一日は、あっという間に過ぎて、ミラちゃんとは素材組合で別れて、屋敷に戻る。
初めてお金を手にしたけど、ロストという呼び名の石ころ。町を散策してた時から、何か不吉な名前だなぁと思ってた。でも、この世界ではあたしの知る意味じゃないのかもしれない。
ちなみに、15,000ロスト稼いだ。レストランで食事が2,000ロストくらいだから、日本円と購買力的には同じくらいかな?
それから、小魔石を2つ。今回、借りた疾風の靴の使用感から、魔導具の可能性を感じて、研究意欲も爆上がり。これがバッテリーなら、工夫次第でいろんなことができるはず……
楽しみぃぃぃぃぃぃっ☆
夕食では、いつも通り、疲れた様子のエレーナ様がいた。せっかくお金を稼いだし、エレーナ様に何かプレゼントしよう。
何がいいかなぁ〜?
「ぴかりん? わたくしの顔に何かついていますか?」
「え? いえ、いつも通りお美しく女神でありますっ!」
「そうですか、なら良かったです。ふふ」
ヤバヤバ、プレゼント何が似合うか考えてたら、見つめ過ぎちゃった〜、テヘペロ☆




