39 完璧なスタイルを持つ女ァ! 美崎花!
――事のあらましはこうである。
一週間後の決戦に備え、彰は部屋をパイ塞化するなど、準備を着々と進めていた。
それに対して瀬川はどういった準備を行っているのか、気になって彼の部屋を訪れた。
すると、何故か美崎が瀬川をボコボコに殴り倒していた。
以上が今日の出来事だ。
……おかしくね?
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「あら、ゲボ――ライタじゃない。いつからそこに居たの? 今、私は取り込み中であまりライタに構う事が出来ないんだけど」
「今のセリフだけで突っ込み所が多数あるんだけど……とりあえず、どういう状況か説明プリーズ求めてもいいか?」
俺は靴を脱いで瀬川の部屋に乗り込み、瀬川に馬乗りになっている美崎の横まで移動する。
うわ、瀬川の顔がいつもの二倍の面積になってる。ヤバいだろこれ。
「そうね、どう表現していいか分からないけど……一言で表すなら、害虫を黙らせに来たのよ」
「瀬川の評価は虫レベルにまで落ち込んでるの!?」
「た、助けてくれェ、ライっち。急に咲花が部屋に上がり込んできたかと思えば、殴りかかって来たんだァ」
美崎の下から、掠れた瀬川の声が聞こえてきた。
(咲花――美崎が部屋に上がり込んで、殴りかかってきたか……美崎なら意味もなくやりそうなことなのが怖いよなぁ)
美崎に知られたら怒られそうな評を下しながら、俺はとりあえず美崎から話を聞くことにした。
「で、瀬川が何かしたのかよ。まさかお前が意味もなく瀬川を殴ったとは思わないしな。というか思いたくないからな」
「当たり前じゃない。私だってそんな酷い事はしないわ。基本的には8:2って所ね」
「それ例え2の方が気まぐれだったとしても問題だからな!?」
「嘘よ。7:3よ」
「7の方なの!? もしかして事の重大さに気づいて8から7に変えたの!?」
恐るべし美崎花。可憐な名前とは裏腹に心が凄まじく荒んでる。
「まぁお前の気まぐれ度はいいとして……結局何が問題なんだよ」
「前々から言いたいことはあったのだけれど、そうね。今日に限定すれば、騒音被害による鉄槌って所だな?」
「騒音被害?」
「どういうわけか、朝から『お尻! プリケツ!』って声が私の部屋に何度も聞こえてきたのよ。そんな事をするのはこの寮でもこいつしかいないもの」
「あー……」
美崎の説明を受けて、俺は大体の事情を理解した。
瀬川の奴、一週間後の為の準備にと、朝からケツがどうのと部屋で騒いでいたっぽい。その声が隣である美崎の部屋まで届き、この状況に繋がったわけか。
そりゃ美崎もキレるだろう。だからと言ってタコ殴りにするのはアウトだが。
「で、今の話に何か言いたいことはあるか、瀬川」
「い、いやァ、オラァ一週間後の戦いのために準備してただけだ」
一応瀬川の言い分を聞いておこうと話しかけたが、どうやら俺の理解で間違ってないようだ。
「人に迷惑をかけたならそれは準備じゃなくてただの迷惑行為だ。人の迷惑になるような事はするな。以上、分かったか?」
「あ、あァ」
ちょっと怪しい感じだが、瀬川は頷いてくれた。とりあえずこいつはこれでいいだろう。
問題は――
「ということだ美崎、許してやってくれ」
未だにマウントポジションを解除しない美崎の事だ。
ていうかこれ以上瀬川殴られたら、多分こいつ死ぬ。
「イヤよ。私の気が済まないわ」
未だに殺意が籠っている美崎の声に、瀬川が「ヒッ」と声を震わせた。情けないなこいつ……
「そう言わずに、俺に免じて許してくれよ」
「あなたの顔にどんな価値があるのか知らないけど……それなら、条件があるわ」
「……条件?」
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「あ、ありがとうなライっち。助かった」
「ん? ああ。気にすんな。それよりもあの女を怒らせないようにしろよ」
「あァ。二度としねぇよ」
その言葉を最後に、俺は瀬川の部屋を去る。
外に出ると、太陽が俺の瞳に届いて――俺は目を細めた。
「はぁっ……」
その溜め息は、空へと消えていく。
どうやらこの話、思ったよりも面倒な事になりそうだ。




