34 オレはおっぱいを知りたいんだ
「あー疲れた。もうほんとキツイ。このまま布団と同化してしまいたい……」
俺は布団――実際には二弾ベットに敷いた敷布団に――へダイブし、体中の疲れを布団に移してしまおうと試みる。
が、例え体の疲れが取れたとしても、心の疲れは中々取れる物ではない。そもそも体の疲れも取れてないし。
普段なら彰に「ホコリがたつだろ」と注意される布団ダイブだが、生憎彰は今部屋にいないため、その注意が届くことはない。
そもそも、元を辿ればこの疲れは彰が原因なのだ。これくらいは許されてもいいだろう。
そんな事を思いつつ、俺はぼんやりと今日の出来事を回想していった。
――俺が『友達になってくれ』と言ったあの時。結論から言えば、七瀬の返答はYESだった。特にそれによるざこざとかも起きずに、俺と七瀬はめでたくお友達となったわけだ。
まぁ、友達になるのにこんな手順を踏む必要なんて無いと思うが――これならこれでいいや。と思う気持ちもある。結果オーライ……とは少し違うかもしれないが、まぁ似たようなものだろう。
で、どうして俺が部屋に一人で帰宅したのかというと……彰が『ちょっくら買い物してくる』と言い、七瀬がそれに付いていくということなので……俺一人で帰って来たというわけである。
それにしても彰と七瀬の若夫婦でお買い物ですか。仲が良いこって。
(いや、実際には好意を寄せているのは七瀬だけか……彰が好きなのは七瀬の胸であって七瀬そのものではないからな)
そう考えると急に殺意が湧いてきたな。今度アイツをぶちのめそう。
などと考えていると――急にスマホが鳴り出した。
「えっと……なんだ、噂の彰じゃねえか」
俺のスマホの画面には、『おっぱいバカ』と映し出された人からの着信だった。無論、彰の事である。
「何かあったのか――もしもし、彰? どうかしたのか?」
「ライタ! 助け――助けてくれえっ!」
通話を繋いだ途端、俺の耳に届いたのは悲痛な彰の助けを求める声。え。なに。怖いんだけど。
「おいどうした。漏れそうなのか? あ、いま家でトイレットペーパー切らしてるから買っといてちょ」
「それどころじゃねえんだよ! 頼むから早く助けに来てくれ! 寮のすぐ近くにいるから!」
なおも続く悲痛な声に、俺は眉を潜める。
寮の下あ? そんなこっから近い距離で、いったいなにやってんだよ彰は。暴漢にも襲われたのか? いや、あいつは妙に運がいいからそれはないな。ってことは――遂にセクハラで訴えられたか。やったな。ついにお前の愚行が裁かれる時が来たようだ。
「はやく来いよライタ! マジでピンチなんだ! 一生のお願いだから!」
おお。彰は中々一生のお願い使ってこないのに、ここで使ってきた。じゃあ行くしかないか。
「りょーかい。じゃあ今から行くわ」
「頼む! 出来るだけ早――」
とりあえずうるさかったので通話を切る。
で、さすがに急がなくちゃいけないかなーと思いつつ、靴を履いて部屋のドアを開けると――
「あきちゃん! いい加減手を離して! お願いだから!」
「離せるわけないだろ! おとなしくしろよ!」
――などと言いながら、七瀬と揉み合ってる彰を遠目に発見した。
…………あー。
これは……あれだな。
「通報しよう。さすがに見過ごせん」
と、俺はスマホを素早く起動し119番の準備。さすがにこれは許されないだろう。
残念だよ彰くん……幼馴染の服を脱がそうとするなんて、君はそんなことする奴だとは思ってなかった――わけではないが、むしろやりそうな気しかしなかったが。まぁ残るのは事実だけだ。とりあえずビデオ撮っとこ。無論警察に突き出すためである。この後の展開なんてちっとも期待してないんだからねっ。
「おいライタ! テメェどっかからオレの事見てんだろ!? 早く来いよ!」
ちっ。こんな時ばかり勘が働く野郎だ。
仕方ないので、俺は寮の階段を駆け足で降りていく。で、そこからちょっと歩いて……今なお揉み合って(おっぱいを、ではない)る二人に近づく。
俺の存在に気づいたのか、二人が動きをいったん止めた。
「あー……とにかく彰、まだ夜は寒いから、脱がせたら寒いと思うぞ」
この場でどう切り出すのか、適切な回答が思いつかなかったので……とりあえずそんな感じに振ってみる。
が、どうやら彰は七瀬の服を脱がそうとしているわけではないらしい。というのも、
「何言ってんだバカ野郎! 俺が脱がそうとしてんじゃなくて、レナちゃ――七瀬が脱ごうとしてんだよ!」
と、本人がおっしゃったのである。
……はい?
七瀬が、服を、脱ごうとしてる?
んなバカな。七瀬は友達が極端にいない事と彰を好きになってしまう困った思考回路を除けば、割とまともな人のはずだ……と思うんだが、そういえば今日の朝痴女みたいな恰好して出てきたんだよな。一日の濃度が濃すぎてすっかり忘れてたけど。
「だ、だって!」
と、ここで今度は七瀬が発言。
一体どんな言葉が飛び出すのか――と、俺はなんとなくファイティングポーズをとってみる。
「あきちゃんが――『七瀬のおっぱいを揉ませてほしい』って言ってきたんですよ!」
俺はファイティングポーズのまま彰に向き直った。
よーし。やっぱりこいつを殺そう。好きでもない女に対して、おっぱいは揉ませてほしいなどと言うとは、いくらなんでも大物過ぎる。大物を通り過ぎている気もするが。
とはいえ、もしそうなら彰が七瀬を止めていた理由が思い浮かばない。とりあえず尋問はしておこう。
「彰。本当なのか?」
「本当ですっ!」
「わかった。お前を殺す」
「オレまだ何も言ってないよな!?」
今回はとりあえず半殺しにしておこう。もし動けなくなると家事やる人いなくなるし。
「そうじゃなくて! オレはそんな事一言も言ってないんだよ!」
「ええい白々しいぞ彰! おとなしく罪を認めて俺のサンド――サンドバックになれ!」
「言い直せてねえよ!?」
いつもと逆の立場になり、狼狽する彰。ちょっと気分がいい。
とはいえ、こいつの様子を見るとマジに言ってないっぽい。はて、一体どういう事だろう……と思っていたら、
「あきちゃん言ってたよね!? ――『おっぱいの感触を知りたいんだ!』って!」
という七瀬の声が、俺達しかいない道路に響き渡ったのだった。
まさかのエピローグ2話体制




