33 俺は七瀬玲奈となりたいのだ
「彰! 早く降りろ!」
観覧車は地面へと舞い戻り、俺と彰はゴンドラから外へと飛び出す。
ゴンドラを降りるなり走り出した俺たちに、この遊園地のスタッフは首を傾げていたが……それを気にする余裕はない。
――見つけたんだ。七瀬を。
「はぁっ……はぁっ……!」
七瀬は、観覧車近くの池にいた。正確には池の柵に腕を乗せていた。という状況だったらしい。彰が言うには『胸を柵に乗せていた』らしいけどな。
とにかく、見つけたんだ。だからこそ俺たちは行かなくてはならない。
――七瀬は、友達がいない。
だから俺たちなんかを遊園地に誘って、それで逃げ出してしまって。
(……俺が、ここまで七瀬に会う事に執着するのは……)
なんとなく、分かった気がしたからだ。七瀬という人物を。
だって、同じようにしか思えないから。
『あの頃』の、俺と。
「だから、俺は見つけなきゃいけないんだ……!」
走る。ただただ走る。
俺の耳に、花火の音が聞こえてくる。権田遊園地――いや、おっぱい遊園地のパレードが始まったのだ。
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パレードの華やかさとは裏腹に、その池の周りには人が殆どいなかった。それどころか、一人もいない。いるのは……
「……いたぞライタ!」
――七瀬だ。
なるほど確かに、手すりに胸を乗せている。
だが、今注目すべきはそこではない。
(あいつ……何やってんだよ!)
その池の柵、下側の方に……七瀬が足をかけていたのだ。
それに気付いたのは、彰も一緒だった。
だから――俺達は、
「「七瀬! 早まるなあああぁぁぁぁぁ!!」
――二人して七瀬に近づき――タックルした。
俺が七瀬の膝、彰が七瀬の右肩辺りに。
男二人の予期せぬタックルを受けた七瀬は、当然倒れこむ。背中から地面へと。
「うぐえっ!」
女の子が出してはいけない声が出たが、それでも命には代えられない。あのまま池に身投げされたら俺たちは悔やんでも悔やみきれなかっただろう。こうしてまた一人命が救われたのだ。
「けほっ、けほっ……何するんですか二人とも! 殺す気ですか!? ていうか重いですーっ!」
七瀬は男二人に乗っかられたまま、声を荒げる。
その声で耳が痺れた俺と彰は、二人とも七瀬から離れる。
「セクハラです! またしてもセクハラです! ライラ先輩謝ってください!」
「うおぃ俺だけ謝るのかよ! 彰はどうなるんだ! そもそも俺たちはお前が身投げしようとしてたから――」
「な……私はただ、花火を見ながら先輩の事を……っ」
と、そこまで言った所で、七瀬が声を詰まらせた。
――なんだ? 少し顔を紅潮させて、俺の事を見つけてきたんだが。
(先輩……先輩って俺の事だよな。……いや、待てよ)
今まで、『七瀬は友達がいないから俺たちを誘ってきた』と思っていた。だが、違うんじゃないか? 俺たちを誘う理由は、友達では無くて――
――俺の事が、好きだからじゃね?
…………い、いやいや! これは急に俺の中でビックリ論が形成されたわけじゃないよ!?
思えば七瀬は、友達作りにしては挙動がおかしかったのだ。
友達にするには下の下である俺たちを誘ったり、痴女のような恰好で俺たちに現れたり、俺と腕を組んだりしてきたのだ。
これらの行動は、『七瀬に友達がいないから』だとばかり思っていた。友達が出来たことが無い余り、距離感が分からないからそうなったのではないかと。
ただ、その理論よりも――『俺が好きだから』という理論を組み立てた方が、これらの行動の理由に近い気がするのだ。
(そうだ。七瀬は……俺の事が好きだったんだよ。なんだよ、簡単な話じゃねえか)
好きな割には当たりがキツイ時もあったが、それはきっとツンなのだ。七瀬は所謂ツンデレって奴なのだろう。そうに違いない。
それならば――『友達になってくれ』なんて言えない。言えるわけがない。そうではなくて、『俺の彼女になってくれ』と言うべきだろう。
と、俺は一歩踏み出し、口を開――
「七瀬、俺と――」
「――お願いがあります」
――けた所で、七瀬の言葉に遮られた。
出鼻をくじかれた感はあるが、俺は一旦黙る。
そんな俺に視線を向けている七瀬は、顔を真っ赤にし、指をモジモジさせて……再び喋りかけた。
「……お願いです。私と――」
あ、これ告白だ。七瀬の俺に対する告白だキタコレ。
もう間違いないだろう。七瀬のこの態度、俺に惚れているに違いない。
やれやれ、仕方ない子猫ちゃんだ。断るわけにはいかないだろう。
悪いな彰。俺は先に行くぜ。まっ、お前もおっぱいばっかり追っかけてないで、俺みたいに――
「私と付き合ってください! あきちゃん!」
彼女の一つでも作る努力をしたま――あれぇ?
うーん、俺の耳が一時的に壊れてしまったのだろうか。ラグビーの選手が脳震盪の検査をするために一時的に出るのと一緒で――ちょっと違うか。いや大分違うな。
状況が掴めずに、俺は数瞬固まる。
が、当然動き出す。そして……理解した。
ヌヮヌヮスェさぁんはぁ、あきぃちゃぁんがすきぃ。
あきちゃん=多分彰の事。
「ええええぇぇええええええぇぇ――!!!」
俺の絶叫がこだました。
「あきちゃん! 前からずっと好きだったの……です!」
もはや敬語も崩れつつある七瀬。え? なに? 君とあきちゃんって昔からの知り合いなの?
「あの彰――あきちゃん」
「あきちゃん言うなライタ」
「えっと、そのぉ……七瀬とは、どーゆう関係で……」
「あぁ、そう言えばライタには言ってなかったな。わりぃわりぃ」
彰は告白されたにも関わらず、平然とした顔で……俺に向き直った。
「オレの幼馴染だ。この七瀬は」
その声も、平然なまま。
…………あーっと。
ごめん、色々突っ込みどころあり過ぎて処理できない。
「えっと、七瀬……七瀬さん? どうして彰に対して敬語を使ってたの? 親しき中にも礼儀あり的なあれ?」
今聞くべきはそんな事ではないだろうに。俺はよりにもよって敬語の件を七瀬に聞いてしまう。
「前にあきちゃんが、『年上には敬語使えよ』って言ってきたから、使うようにしたのよ……です。勿論ライタ先輩には敬語を使いますけどね。――ていうかあきちゃん! 敬語使ってるのに全然好きになってくれないじゃん!」
「それで好きになるとか、オレはどんだけ敬語フェチなんだよ」
「もういい加減に振り向いてよ! これで告白したの33回目だよ!」
「多くなぁい? ねぇ彰くん、君死んだ方がいいんじゃないのぉ?」
困惑。動揺と来て、今の俺は彰に対する殺意に満ち溢れている。なんだこのうらやまけしからん奴。いっぺん死んだ方がいいんじゃないのマジで。
「――っていうか、俺たちを遊園地に誘ったのって!」
「あきちゃんに告白する為です」
「痴女みたいな恰好で来たのも!」
「あきちゃんを誘惑する為です」
「さっき顔赤くして見つめてたのも!」
「告白するために、あきちゃんを見つめてたからです」
……マジかよ。
衝撃の事実に、俺は腰から砕け落ちる。
花火の音が、俺を嘲笑っているようにも思えてきた。
「……バカだ、俺。ついでに彰も。なーにが七瀬は友達がいないだよ。全然関係ないじゃないか」
俺は呆れたように溜め息をつく。彰の推理に、ケチをつけるように。
「いや、それは関係あるぞ?」
「え?」
彰の言葉に体を起こすと、七瀬がゆでだこの様に赤くなっていた。さっきとはまた違う感じに。
「はぅっ……そ、それは……」
目を泳がせ、手足をせわしなく動かす七瀬。
なになに。なんなのその動き。
「七瀬に友達がいないのは本当だ。だからオレと――オマエを誘ったんじゃねぇか。ライタ」
彰がそう言うと、七瀬がピキーンと固まった。
どうやら、図星だったらしい。
「あとコイツ、さっき嘘ついてたぞ。痴女みたいな恰好をしてきたのは、友達と遊園地に行くのにどういう格好をすればいいのか知らなかったからだよ。あとお前と腕組んだのも、それが友達ですることだとコイツが勘違いしてたからだ」
「……は」
その言葉を、七瀬は否定しない。ただ赤くなったまま、俺とライタとで視線を行き来させている。
「なんだよっ。それ……ははっ」
――なんだか、訳が分からなくて。
――でも、ちょっとだけおかしくなって。
「ははっ。おかしいだろそれ……くっ、ハハハッハハッ!」
耐えきれなくなって、俺は笑う。それに呼応するように、彰も口の端を緩めた。七瀬は顔を赤くしたまま、だけどな。
――なんだ。そうだったのか。
彰が好きだったのも、昔からの幼馴染なのも驚いた。だけど、
友達。という言葉に、偽りはなかった。
あの頃の俺と、今の七瀬はやっぱり……似ていたのだ。
「……」
未だにニヤけた顔のまま、俺は立ち上がる。
顔を真っ赤にしている七瀬に、言わないといけないのだ。
かつて俺に、『彼』が同じような事を言ったように。
俺は、こう言うのだった。
「七瀬。俺と――友達になってくれ」
はい、これにて二章終了となります!
まぁ後日談的なのをちょろっと書くので、正確には終わりではないですが。
思ったよりも長引いてしまった二章。もっと七瀬との絡みを書くはずだったのが、いつもの二人の掛け合いだらけになってしまった。
三章はまたしても新キャラ出現。キーワードは……『お尻』です。
では、また三章で




