29 七瀬と俺と
「七瀬は……友達がいないんだよ」
彰は少し俯きながら、そう言った。
「……そう、か」
彰の言葉に、俺は独り言のような声量で返した。
――やっぱり。俺は少しだけそう思った。
なんとなくそんな気がしていたんだ。七瀬が俺達を誘ったのは、友達がいないからじゃないかって。その可能性を考えられなくて、頭の中からは除外してたけどな。
「いつから知ってたんだ?」
「別に今でも確信しているわけじゃねえよ? でも、なんとなくそうじゃねぇかなって」
やっぱり、彰は前から気付いてたんだな。
一年前と変わらない洞察力に、俺は少しだけ安心感の様なものを得ていた。
七瀬は友達がいない。その事実をしばしの間受け止めてから、
「しっかし、いくら友達がいないからってオレたちを誘うなんて……引きが悪いなァ七瀬も」
彰がそう言った。
そう。七瀬は俺達を誘った。友達がいないけど、一人で遊園地に行くのは寂しいから。
――いや。
本当にそうか? 順番が逆だろ?
七瀬は遊園地に行くために俺達を誘ったんじゃない。俺達を誘ったのは……
「俺達を、友達に……?」
そんなバカな。と思いたい。
普段は少しおとなしくて、時々俺たちの事をセクハラ扱いしてきて……最初に会ったのは、七瀬がこの寮に入って来た初日。彰が七瀬の事を遠目で見た途端に、彼女の部屋への突撃を敢行したのだ。当時はそんな彰の事をクソだと思ったが、今ではスーパークソだと思う。
案の定、七瀬からはセクハラ男扱いされてしまったのだが……それでも来る日も来る日も、彰は七瀬の部屋に無断侵入していた。時々美崎も混じっていた。
そんなセクハラ野郎でも……それについていってるやかましい男でも……七瀬にとっては、人と話すことが出来る貴重な時間だったんだろうか。
過去の出来事が、七瀬にとっては、だから七瀬は――
――俺たちと友達になるために、この遊園地に誘ったんだ。
「……」
誰もいないおっぱい屋敷を、ただただ下を向きながら俺は歩いた。
暗い廊下を、俺と彰の歩く音だけが聞こえてきていて――
「で、どうすんだよライタ」
「どうすんだよって、お前ならどうするんだよ」
「オレか? オレは行くぜ。だってそうしないとおっぱいの感触教えてもらえねぇからな」
「あー……そういえば最初はそんな話だったなぁ」
『おっぱいの感触を教える代わりに、遊園地に行く』それが、七瀬と俺たちの間で交わされた交換条件だった。
そんなこともあったなぁ。と、俺は少しだけ顔をほころばせる。
「……七瀬が逃げ出したのは、彰が胸を揉むなんていうグロ行為を行ったせいだ」
「んな事言ったって仕方ねぇだろ。俺が揉むのは、そこに乳があるからだ」
「全然かっこよくないからな。でも、その通りだよ。終わったことは仕方ない」
目の前が明るくなる。おっぱい屋敷の出口に辿り着いたのだ。
急激に届いてくる光に目を細めながら、俺は決意する。
「謝ろう。あんなものを見せて済まなかったって」
「オマエが謝るのか?」
「俺も彰も謝るさ。それで、改まってこう言おう」
ゆっくりと歩き出す。俺達二人が、1年前と同じように。
「――俺たちと友達になってくれってな」




