23 おっぱい遊園地
――結局、七瀬がどうしてあんな恰好で来たのか、未だに結論は出せていない。
しかし、また七瀬が唐突に奇行を繰り広げないとも限らない。だからそうならないために、俺は権田遊園地までの道のりを歩きながら、対策案を考えている途中であった。
「おい、ライタ」
「んーと……まさか遊園地内でいきなり服を脱ぎだすって事はないよな……ジェットコースターに乗りながら『私は自由よ!』とか言い出しながら脱いだらさすがにおかしいしな……」
「聞いてんのかよ、ライタ」
「あるいは水浴びたら実は下着付けてませんでしたーってオチか? それだとこっちも指摘しづらいから厄介だな……」
「耳が貧乳かぁ? もしもーし! ライタくーん!」
「いや待て、露出だけとは限らないぞ。もしかしたら、『おっぱい教を崇めるのです! そうすればあなたたちのおっぱいは救われます!』……っていやいや、これはどちらかというと彰の役だな」
「適当なこと言うなっつの」
「へべるけっ!?」
突如として頭に衝撃が走り、俺の意識は現実に戻った。
「気が付いたか? もう着いたぞ」
「えっ? あ、ああ。着いたのか」
どうやらいつの間にか権田遊園地に到着していたらしい。七瀬の事に意識が行っていて気付かなかった。
意識していなかったため、どこを見ていたわけでもない瞳が視界を取り戻し、目の前の光景を俺の脳へ伝えてきた。その光景は――
――まず見えてきたのは、遠くに写る、まるでおっぱいのような形をした観覧車の籠。更に、椀がおっぱいのようになっているコーヒーカップ、おっぱいが人を乗せているメリーゴーランド、心なしか悲鳴が『おぱぁぁぁぁぁぁぁぁ』と聞こえる気がするジェットコースター。
(あれ……俺、疲れてんのかな……)
異常な光景を目にしているはずなのに、何故か俺の頭は冴えていて――ふと、遊園地の全景ではなく、目の前のチケット売り場に立っているお姉さんが目に留まった。
――お姉さんはおっぱいを出していた。
「――!?」
い、いや違う。落ち着け。よく見たらあれはおっぱいじゃない。服の上におっぱいの模型をくっつけているだけだ。なんだ、ビビらせやがって。全然大したことじゃないじゃないか。
「……え?」
混乱した頭がだんだんとクリアになっていき、今の状況が呑み込めてきた。何かがおかしいと思い始める俺の思考は、この遊園地に来るものを歓迎するような巨大な門があり、そこには、
『ようこそ! おっぱいランドへ!』
――と、書いてあった。
…………………………
「なんじゃこりゃああぁぁぁぁぁぁぁ――ッッ!!」
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「なんだライタ。うっせーぞ」
「うっせーぞじゃねえよ! なんだよこれ! ていうかどこだよコレ!」
「どこだよって……権田遊園地だよ」
「どこが権田遊園地なんだよ! ごの字もねえよ!」
うるさそうに顔をしかめて言ってくる彰に、俺は尚の事やかましく突っ込む。
権田遊園地はこんな場所ではないはずだ。いや、俺も来たことはないから正確な事は知らないが。
「そもそも、遊園地ってこんな場所じゃないだろ!? それだけは確かな事実の――」
そこまで言った時、おっぱいから顔が生えているという奇特すぎるデザインのマスコットキャラクターのぬいぐるみが目の前を通って行った。
「確かな事実の?」
「――確かな事実の……はずだった……!」
ガクッ――と、俺はその場に膝をついてしまう。
ショックだ……ショックすぎる。遊園地だからって、期待していない気持ちがなかったわけではないのだ。もしかしたら楽しめるかもとか、そういう事を考えていたのは否定できないのだ。
それが来てみたらどうだ。全ての物がおっぱいに関係するただのおっぱいではないか。いやただのおっぱいではないけど、言うなればただのおっぱいランドだ。ただのおっぱいランドってなんだ。いや特殊なおっぱいランドとかあったら困るけどさ。
とにかく、この遊園地はおかしい。
「そうだろ彰!? おかしいよねこの遊園地!?」
「んーまぁ、おかしいかも……しれない事もないかもしれないかもな」
「どっちなんだよ……あとお前さ、なんでそんなに冷静なんだよ。ちょっとは驚いてもおかしくないよね?」
――この遊園地を一目見るだけで、普通の人は驚愕するだろう。それなのに彰はそこまで驚いているようには見えない。『知っていた』というならまだ分かるが、そういう感じがしないのは気のせいではないだろう。
ならばなぜ知っているのか。という俺に対し、彰はこう返した。
「そりゃ驚いたことは驚いたよ? でもおっぱいは正義だし、だからいいかなって思ったわけよ」
「そんな理由!? それだけで驚愕を打ち消せるとか凄いなお前!」
そうだった。コイツ、おっぱいの事に関しては人外だった。おっぱいの事となれば驚愕を消すなど動作も無い事。彰がセクハラするくらいの勢いで消せるに違いない。
「なぁ、七瀬もそう思――」
――そう思うだろ? と言おうとした時に、気づいた。
七瀬も、この光景に驚いてはいないのかと。
その割にはやたらと静かな気がするが、俺は希望を持って――どこか怯えながら、七瀬の方へ向き直した。
――観覧車を見上げていた七瀬は、まばたきを忘れたように目を開けっぱなしにしていて――
「なんなんですかこれはあああああああぁぁぁぁぁ!?」
――同志がいた。と俺がさりげなく渾身のガッツポーズをしていたが、それに気付くものはいなかった。




