22 遊園地と三人組
権田遊園地とは、権田公園から徒歩十五分くらいの所にある遊園地の事だ。俺が物心ついた頃からある遊園地で、今でも割と人気のある場所だ。一番人気のアトラクションは幽霊屋敷。シュールなお化けが見れると好評らしい。
「そういえば彰、権田遊園地言った事あるか?」
その権田遊園地への道すがら、俺は彰にそんな事を聞く。
「ああ。十年前か十一年前か十二年前か十三年前くらいに行ったか或いは行ってねえわ」
「範囲広すぎる上に行ったかどうか分かってないじゃないか」
この口ぶりだと彰は行っていないのだろう。ま、俺も行ったことないけど。
(七瀬は……聞かなくてもまず行ってないだろうな)
痴女の恰好をして行こうとする女だ。行ったことがあるとはまず考え辛いだろう。
――痴女の恰好。という所で、さっきの七瀬の服装が脳裏に蘇った。
胸や尻以外を殆ど露出するという、今思い出しても頭おかしいとしか言いようのない服装だったな。他の人に見られるより俺たちでまだ良かった……のか?
それにしても、七瀬はなぜあの格好で来たんだろう。普段はそんな恰好など一度もしないはずなのに。
と、今は体をしっかりと隠した、普通の恰好をしている七瀬を見ながらそんな事を思うと……ふと七瀬がこちらを見てきた。
「えっと……私の頭に何か付いてますか?」
「いや、別に何も」
本当はあの痴女みたいな恰好の事を聞きたかったのだが、俺にはその勇気はなかった。あと何で顔じゃなくて頭に何か付いている前提なのかと突っ込みたかったが、それもやめておいた。
(彰も同じような事を考えてるのかな……)
と、相変わらず何を考えているかよく分からない顔をしている、彰の事を見ていると……ふと彰がこちらを見てきた。
「どうしたライタ。俺の乳に何かついてるか?」
「なんでそんなに気持ち悪い事言えるの? バカなの?」
本当は思いっきりぶん殴ってやりたかったが、道端で隣を歩いている奴をぶん殴るのは端から見たらファンシーすぎるのでやめておいた。
「ってそうじゃなくて。お前はどんな事考えてるのかって話だよ」
握った拳を開いて、声を潜めて俺は彰に聞く。さっき七瀬が出てきた時は明らかに挙動がおかしかったので、間違いなく思う所はあると思うのだが……
「考えてるって何だよ。俺はいつだって意中のおっぱいの事で頭一杯だぞ」
「意中のおっぱいとかいう言葉初めて聞いたな。それはともかく、七瀬の最初の服装の事だよ。何であんな恰好してきたのか、考えたりしてないか?」
「ああ、その事な。そういうお前は考えてないのかよ」
「……」
言われてみれば、自分ではあまり考えていなかったかもしれない。
思考を集中させ、七瀬がどうしてあんな恰好をしてきたのか、今一度よく考えてみる。
――学校の子が大胆な服装で出かけていたから。と七瀬は言っていた。でも、本当にそうなのだろうか。
例えば、その学校の子が七瀬に『わざと』その服装の事を七瀬に言ったかもしれない。つまり、
「誰か悪意のある人間が、七瀬に対してそうさせるよう仕向けたとか……?」
「いや、それはねぇだろ」
という可能性を出したが、彰に否定されてしまった。
自分でもあまり信用性のない意見だとは思ったが、まさかここまではっきり否定されるとは思わなかったので、俺は少し驚く。
「七瀬がいじめられてるなんて話は聞いたことねぇし、あったら美崎の奴が許さねえよ?」
「は? なんでそこで美崎の名前が出るんだ」
「お? なんだライタ。オマエ知らなかったのか。美崎の奴、寮内のおっぱ――女子がいじめられてるとか知ったら、あいつその相手をボコボコにするぞ。七瀬に絡もうとしたヤンキーをぶちのめしたって噂もあるとかないとかないとか」
「関係無いけど今、寮内のおっぱいって言いかけたよな?」
彰が如何におっぱいの事しか考えていないかを知ったが、問題はそこではない。
美崎の奴……そんな事してたのか……なんか、ショック――ではないな。
「あれ。ショック……じゃないし、驚い……ても無いな。意外……むしろやりそうだな!? あれ!? 俺の中で美崎ってヤンキーぶちのめしてるイメージ形成してたっけ!?」
自分でも気づいていなかった想いに、俺は動揺を隠せない。今週一番ビックリしたエピソード、『美崎がヤンキーぶちのめしてそうと思っていた』の誕生である。
「ま、ライタがどう思っていたかは知らねぇけどよ。その線はナシだ」
「……そういうなら、彰は何か思い当たる節はあるのかよ……」
俺がそう聞くと、彰は表情をどことなく暗くして、
「ま、あるっちゃあるけどよ……今は教えないでおくわ」
と、そう言いながら、少し歩く速度を速めていくのだった。
「……なんだよ、おい」
という俺の訝しむような声を、七瀬一人だけが聞いていた。




