17 ライタの決意
「…………と、ライタが言っていた」
………………………………は?
「なっ――さ、サイテーです! ライタさん、人にそんなことを言わせるなんてサイテーの極みです!」
………………………………は?
「それに、内容も酷いです! クズの極みです! クズの極み男です!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッッッ!?」
――彰に罪を押し付けられた男。それがライタである。
「いや待て待て待て! んなわけあっか! 普通分かるだろ!? 俺そんなこと言うわけないって!」
「じゃあ、前田先輩が嘘をついているって言うんですか!」
「そうだよ! 寸分の狂いもなくそうだよ!」
「馬鹿言ってんじゃねえよライタ。この前見たぞー? オマエが自分のおっぱいを揉みしだいている所を」
「適当な上に吐くほど気持ち悪い嘘つかないでくれる!?」
彰の爆弾発言から逃れようと俺は声を張るが、それすらも彰に阻まれる。
俺は両手で『俺はそんなことやってないよ』的なジェスチャーを七瀬に送る。だが、
「……なんですか、その動き……気持ち悪いです」
逆効果だった。
すぐさまジェスチャーを放棄。どうすればこの状況を打破できるんですかね。
――落ち着け俺。このままこの状況を放置したら、俺は七瀬のおっぱいを揉もうとした凶悪犯になってしまう。それだけは避けねばならないが、落ち着かないと良い考えも浮かんでこない。
落ち着いて、この状況を整理するんだ。この状況が作り出された経緯を整理すると……
・彰が七瀬におっぱいの感触を味合わせてもらうように頼むと提案。
・彰が無断で七瀬の部屋に乗り込む。
・彰が七瀬に自分の望みをひとしきり暴露。
・彰がそれらの望みはライタが言い出したと嘘をつく。
「彰がクソだっ! どこをどう整理しても彰がクソな点しか見つからねえ!」
整理して改めて彰のクソさを認識。なんで俺はこんなやつとつるんでいるのか。
それはともかく、まずは誤解を解くことが最優先だ。誤解というか、100%彰の責任だけど。
「いいか七瀬。よく考えてみろ。俺と彰、どっちがこんなくだらない考えを持つと思う」
「ライタ先輩です」
「即答!? しかも俺!?」
衝撃の回答に俺は動揺してしまう。
お、俺の方がそんな考えを持ってそう? マジで? 世間での俺の評価は彰以上のむっつりスケベなの? 明日からムッツリーニって名乗った方がいいの?
混乱する俺に、七瀬はさも当たり前のように話す。
「だって、あき……前田先輩はオープンにセクハラを仕掛けてきますけど、ライタ先輩って裏側でとんでもない事やってるんですよね」
「は、はい……? なんだよそれ。いつ俺がどこで何をしたんだよ……」
「例えば、女の人を見るためにレディースデイの映画館にわざと行ったり、女性専用車両の隣の車両に居座ったり、『疑似おっぱい探しの旅をする!』って突然言い出したり……」
「ぜんぶ彰がやったことぉ!?」
何故彰の行動が俺にすり替えているのか、と、振り返って彰を見ると――
俺の視線に気づいたライタは、どや顔でグッ――と親指を立てた。
(こいつ……まさか、この時の為に、日ごろの罪を俺になしつけて七瀬に教えていたのか!?)
それなら、七瀬がやたらと俺を敵視しているのも頷ける。てか間違いなくそれじゃん。親指立てた仕草だけで彰の狙いが読めるとか俺はエスパーかよ。違うよ、よくよく考えたら彰の考えが単純すぎて、付き合いある奴ならすぐ分かるだけだよ。
さっき整理した彰の悪行欄に、『・彰が前々から嘘をついていた』が追加された。救いようのない最低最悪の男である。
「あー……それ、全部彰がやった事だ。俺は無関係……というわけでもないけど」
「嘘をつかないでください! だってそれは彰先輩が……あれ? そういえば私このまえ、前田先輩が『あなた、最近胸が大きくなりすぎて困ってますよね!』って言ってましたけど、あれもライタ先輩が言い出した事なんですか?」
話している途中に違和感を覚えたのか、七瀬は記憶を辿って彰の行動を振り返る。てか、そのセリフ……彰が困っている女の人を助けようって計画を発案して、最初に女の人に話しかけたのがそれだったな。あの時、七瀬も近くに居たのか。
七瀬の質問に、彰は笑みを崩さぬまま答えた。
「決まってんだろ……ライタがオレの事を好きって言うから、仕方なくやってんだよ」
「俺そろそろ吐くよ? かつてないお前の気持ち悪さにもう堪えきれないからな?」
初っ端で彰が嘘をついてから、尋常じゃない気持ち悪さを披露してくる彰。
そもそも、彰は嘘をつくのが苦手な男だ。さっきから慣れない嘘をつきまくっているせいで、何故か発言が気持ち悪くなっている。
「えーと……それで、嘘をついているのは前田先輩なんですか? ライタ先輩なんですか?」
「これもし俺が嘘ついてるなら、俺は彰のことが好きなのに女の胸に執着する、人類には到底到達できないクソ変態野郎だからな?」
「これでもしオレが嘘をついてるってんなら、オレはおっぱいの事が好きな男になるからな?」
「それ正解」
俺と彰の意見を聞いた七瀬は、しばし考えこむように俯いていたが……不意に、彰が声を上げた。
「……だぁっ! もういいよ! オレが嘘ついてました! さっきから全然本題に進めねぇだろ! ふざけんなライタ! 責任取れ!」
「元はと言えばお前のせいだよ!」
ついに堪えられなくなったか、彰がついに罪を自白。
まったく。苦手な嘘なんかつくからこうなる。一年前から変わらない男だ。
「そ、それじゃあ、前田先輩が嘘をついていたんですか?」
「そうだよ。俺が悪ぅございあした。で、本題に進んでいいか?」
顔を七瀬にぐいぐい近づけて言う彰に、七瀬は逆らわない方がいいと悟ったか、首を縦に振った。
「それはそうと彰、なんで嘘なんてついたんだよ。気になって朝も眠れない」
「オマエは朝に寝すぎだからむしろ起きとけ。で、理由だけど――特に意味はねぇよ」
――いつかこいつを殺すと、俺が心に決めた日であった。




