13 最終兵器の体はおっぱいの感触に似ているらしい
「――そういえば彰、お前なんで池なんて調べたんだよ。探すならそこからじゃなくてもいいだろ」
「バカ野郎。探し物は想像もつかない場所って昔から相場が決まってんだよ」
「ダメだなこれ。見つかる気しないわ」
池の柵にもたれかかる俺と彰。
――さて、ここからどうやってソフィアを探そうか……でも、豊島君がどこで落としたのか、全く手掛かりがないんじゃ厳しいな。
(そもそも、ホントに公園で落としたのか……)
それが違っていたなら、もう探しようがないぞ。
と、俺が顎に手をついて唸っていると、横でパン! と手を叩く音がした。
「よしっ。そんじゃ作戦会議といこうぜ」
音の方向を向くと、彰が悪ガキのような笑顔を浮かべていた。
「状況を整理するぞ、ライタ。まず、あのぽっちゃり君は何かを探している。仮にアイツが探している物をおっぱい一つだと仮定して――」
「そっからおかしいからな!? なんだよおっぱい一つって! デコポン一つみたいに言うな!」
人差し指を立てて、いきなり頓珍漢な事を言い出す彰に頭を抱える。
「……そもそも、探している物は豊島君も言ってただろ。ソフィアだよソフィア。なんか、妖精……とか言ってたけど。公園の中ではぐれたって……」
「ああ。そういやそうだったな」
――? なんか彰の反応、ちょっと変だな。
まぁいいか。今重要なのはそこじゃない。
と、俺は続ける。
「でだな、彰って妖精とか見れるか?」
「会ったことあるぞ」
「マジで!?」
当たり前だろう。という感じで胸を張った彰に、俺は驚きを隠せない。
彰の奴、前から多芸だとは思っていたが……まさか妖精まで見れるなんて――
「この前な、深夜に寮に帰って来たんだよ。ほら、あの寮門限とか緩いじゃん」
「あ、ああ」
確かに、俺たちが住んでいる寮は門限があるにはあるのだが、管理体制のガバガバさから無いに等しいものなのだ。だから彰も、深夜に寮に帰る事が出来たんだろう。
「そしたらな、部屋に辿り着く直前にどこからか声が聞こえてきたんだよ。なんだよと思って、耳をすましてみたら――」
「みたら……?」
「『AAAカップがこの世では最強にして最高だわ!』って声が聞こえてきたんだよ。ありゃ間違いなく貧乳の妖精だな」
「それ美崎だな」
そんな発言をする奴は100年に一度の断崖絶壁女こと美崎しかいないだろう。ていうか深夜に何やってんだあいつ。管理人に怒られるぞ。
「――で、貧乳の妖精が巨乳になった話はさておき「そんな話してないよな!?」ほんとにそのぽっちゃり君が探しているのは妖精なのかよ」
「え……?」
いつものように俺に向かって人差し指をビシっと伸ばしてきた彰。
豊島君が探しているのは、妖精じゃない……?
「考えてみろよライタ。ぽっちゃり君は下ばっかり向いてたわけだろ? それが妖精の探し方かよ。もしそうだとしたら低空飛行過ぎておっぱい揉むのにも苦労するだろ」
「……確かに。でも、おっぱい――じゃない。妖精を探しているんじゃないなら、一体何を――」
俺の言葉に、彰は確信を得た時だけ見せる歪んだ笑顔を見せて――
「いいか。探し物ははぐれたんじゃねえ。落としたんだよ」
――そう言った。
関係無いけど、俺先端恐怖症だから人差し指向けられるのマジで怖い。
「落とした……?」
「いいか? 探してるのは生き物じゃねえ。物なんだよ」
「物……確かにそれなら、下ばかり向いてるのも説明できる……」
そうだ。よくよく考えていたら当たり前じゃないか。下ばかり向いているのはどこに落ちているかを探していたんだ。
「でも、それならなんで妖精だなんて……」
「物を生き物とみなすヤツだって世の中にはいんじゃねえの。俺だっておっぱいの事は女だと思ってるぞ」
「ハッ、意味わかんない上に失礼とか敵しか作らないな」
相変わらずの最低な発言に、俺はつい笑い声を漏らしてしまう。
そうだ。これが……彰という男なんだ。
「それならオレ達はその物を探すだけだろ。それの特徴は知ってんだろ?」
「えっと……緑の妖精で、身長は十センチくらい。あと、羽を持ってるらしい。って事は……探しているのはフィギュアか何かか……?」
「なるほどな。まさか全身緑色ってわけじゃねえだろうし、髪とか服が緑色なんだろ」
「……でも、問題はあるぞ。この公園は広いんだ。もう日が暮れるし、闇雲に探しても見つかりっこないぞ」
「じゃあどうすんだよ。それこそ妖精に場所でも教えてもらうか? いい方法でもあんのかよ」
彰のその言葉に、俺は言葉を継げなくなる。
その通りだ。この状況で良い方法なんてない。
でも、それならどうすればいいんだ。闇雲に探すなんて――
「闇雲に探すんだよ。近道なんてねぇんだ。おっぱいだって、急に成長するもんじゃねえだろ。違うか? ライタ」
「……違うとは言わねえけど。本気か? マジで今日中には見つけられないかもしれないんだぞ」
「本気も本気だな。だけど――方法じゃないけど、俺に考えがある。それは――」
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「はぁ、はぁ。やっぱ……走るの速いな……彰」
「ていうかお前がなまり過ぎなんだよ。あの頃の輝きはどこに行ったんだ」
「今となってはすぐにでも忘れたい記憶だ」
「……なぁライタ。いいのか?」
「はぁ? いいってなんだよ」
「……オレ達、なんだかんだいって喧嘩したわけだろ? それなのに、こんななぁなぁな感じで解決でいいのかよ。て言いたいわけ」
「はぁ? なに彰、そんなこと考えてたのか?」
「前も言っただろ? オレはおっぱいの事だけ考えてるわけじゃねえんだよ。9:1くらいの割合だ」
「殆どおっぱいの事じゃん……別に、今までもこういう事はあっただろ。今回も数多のなぁなぁの一つだ。それだけだろ」
「……まぁ、それもそうか。謝ってくるライタとかケツから乳首生えてくる並みの気持ち悪さだし」
「マジで気持ち悪ぅぅぅぅぅぅぅぅ――ッ!」
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――腹が減ったな。と男は思った。
別に珍しい事でもない。むしろ腹減る時間の方が長い気もする。そんな空腹をすぐに食事で埋めているので、最近は腹もでっぷり膨らんでしまったが、特に気にしていない。
男は立ち上がり、何か食べる物がないかとキッチンに向かう。
戸棚を開いてまさぐると、インスタントラーメンが見つかった。
――仕方ない。今はこれで空腹を凌ぐか。
男はそう思って、小さな鍋に水を入れようとしたその時、男の手が止まった。
――何かが、ものすごい速さでこの部屋に近づいて来ている。
別に男は特殊な能力の持ち主ではないし、部屋の外の気配を感知できるわけでもない。
ただ、近づいて来ているのは――人だけではない。
――食べ物が――近づいて来ているのだ。
――刻一刻と、食べ物がこの部屋に近づいてくる。あと三十メートル。
一瞬にも、何時間にも感じられるその時間の中で、男はこう思った。
あと、十五メートル。
――あの食べ物を、食したいと。
あと、五メートル。
――だって、今近づいている食べ物は、俺が大好きな――
バァン! と、扉が開かれる。
その扉の先には、笑みを浮かべたくせっ毛の男が立っていた。
「有泉! チキン十枚食わせてやっからオレを……オレ達を手伝ってくれ!」
男は、その巨躯からは想像も出来ない速さで公園へと向かって行った。




