11 彰はおっぱいの感触に似ているらしい
――さて、ゲーセンから出た所で、これからどうするか考えなきゃな。
大体こういう場面は選択肢がいくつかあるけど……
(今回は四つくらい、か……)
まず選択肢その➀……家に帰る。
この選択肢を選ぶと思考停止で安楽を得られるだろうが、彰が帰って来た時、確実に空気が悪くなるデメリットを孕んでいる。しかもアイツ家事をサボる可能性があるからな。家事をサボって暇人と化した彰と、元々暇人の俺が同じ空間に長時間存在すると何が起こるか分からん。
喧嘩をなかったかのように接してきたらそれはそれで面倒くさいだろう。俺、そこまでコミュ力無いし。
選択肢その➁……誰かの家に泊まる。
これは彰の存在を頭から消すことが出来るので、ついに俺の胃がストレスフリーになる選択肢だ。だが金がないのでホテルなどは到底泊まる事は無理だし、友達の家に泊まろうともこの近くにそんな友達がいるなんて記憶はない。そもそも俺、友達そんなにいないからな。
ならば寮の部屋の誰かに泊まるのはどうかという話になるが、こんな俺を止めてくれてくれそうな人は有泉君しか思いつかないし、なにより有泉君はバイトをしているので夜遅くまで部屋には入れないのだ。さすがに夜遅くまで有泉君の部屋の前にいるのはファンシーすぎるだろう。
(あと、もう一人泊めてくれそうな人はいるけど……)
あいつはやめておこう。状況的に何が起きるか分からんし。
なにより、いつか彰の部屋に戻らなきゃいけないわけなので、やっぱりこの選択肢は現実的ではないだろう。
選択肢その⓷……異世界転生してハーレムを築く。
こんな選択肢があればいいのにな、と思う。
もし俺が異世界行っても生きていけないんだろう。精々モブが限界だ。
美崎が異世界に行ったら女王とかになりそうだな……でもその実態は独裁者だろう。AAAカップの独裁者だ。
「配下に向かって『世界で一番胸が大きいのは誰?』とか言ってそうだな。んで配下達は揃って『美崎様です!』って返すに違いない。やだなこの独裁者。というか美崎」
「何をどうやったら私がそんな事を言う状況になるのよ」
…………
……………………
「……うえっ!? び、美崎!? いつからそこに居たんだ!?」
「最初からに決まってるでしょう。…………嘘よ」
「バラすの早っ! もうちょっと粘れよ!」
「じゃあやっぱり嘘じゃないわ」
「じゃあ、とかやっぱり、とか言ってる地点で嘘確定だろ!」
「うるさいわね、いい加減に黙ったらどうなの。これだからダメなのよ、ゲボ」
「酷くね!? この場面の俺何も悪くないよね!?」
突如俺の隣に現れた美崎の仕打ちに、大声で突っ込む俺。
というか、会って数秒で罵倒された。何この仕打ち。泣くよ?
「で、それはそうといつからそこに居たんだ」
「今よ。寄せて上げるブラを見てから帰る途中だったの」
「まだ諦めてなかったのか……」
「そしたら、途中にゴミ箱から拾い上げた弁当の箱みたいな顔をしている男がいたから、近寄ってきたらゴミみたいな発言してるんだもの。呆れたわ」
「そこまで罵倒される覚えないんだがな。まぁそれならいいや。じゃな」
と、これ以上罵倒されたくなかった俺がその場を去ろうとすると――
「――前田が一緒にいないなんて、おっぱいコンビにしては珍しいわね」
鈴のようなその音色が、俺の足を止めてきた。
「……別に一人の時くらいあるだろ。付き合いたてのカップルじゃねえんだから」
「私の両親は四六時中ズッコンバッコンしてたわよ」
「そうか。中が良い夫婦で良いこった。でもそれと俺の現状、関係なくね?」
――振り返らず、俺は声に抑揚も付けずに返す。
「まぁ、別に一緒にいなくても不思議じゃないわよ。でも、いつもバカやってる奴らがお互い離れていて、どっちも辛気臭い顔してるのは――私だって首を突っ込みたくなるものよ」
「……どっちも?」
美崎のその言葉に、俺は違和感を覚えて――
思わず振り返った先には――艶やかな髪で包み込まれた目が、俺をじっと見ていた。
「さっき、向こうの公園近くで彰を見たのよ。何か探しているみたいに右往左往していたわ」
「それは女を探してんだよ。あいつ、女におっぱいを揉ませてほしいって頼んでるから」
「そうなの? ずっと下ばかり見ながら歩き回っていたけど」
――え。
彰が、下ばかり見ていた?
そんなはずはない。あいつはおっぱいにしか興味ないはずなのに、それなのに。下を見ていたなんて。
もしかして、あいつは――
「遂にケツを愛するようになってしまったか……!」
「本当にあなた達に友情はないと思わざるを得ないわね」
おっぱいを見ないならそういう事なのだろう。アイツはおっぱいを捨てたのだ。
「私の見る限り、近くに女の人はいなかったわ」
「それはあれだろ。ケツに近い何かを探してたんだ」
「……どうして」
「あ?」
「どうして、行かないのよ。友達なんでしょ?」
――――
「……何を」
「あなたたちがどうしたかなんて、私は知らないし、興味もない。でも、あなたたちの事だからどうせ喧嘩でもしたんでしょ。どうせ前田にライタがキレたんでしょ」
「エスパーかよお前は」
「でも、ライタは他に友達がいないゴミ中のゲボなんだから、前田なしに生きていけるわけがない。それなら今すぐにでも前田の所にいくべきなんじゃないの?」
「はぁ? 俺が前田なしに生きていけないって、んなアホな――」
「――そうかしら。前田に会う前のあなたは、死んだ魚のような目をしていたけど」
――っ。
美崎の音色に、俺は唾を飲む。
『約束』の、その前の事。美崎が言っているのは、あの時の話だろう。
確かに、俺は――
「だから、とっとと行きなさい」
「……なんで、お前に指図されなきゃいけないんだよ」
「――だって、私の知る限りで一番トラブルを起こしてるのはあなたたちなんだもの。そのトラブルがないと人生が退屈だわ」
「すげぇ自分勝手な理由! そんな事の為に行きたくねえ!」
「いいから、行きなさい。じゃ、私は帰るわ」
美崎は左向きから綺麗に回転して、俺に背を向ける。
モデルのような歩き方をしながら、美崎は俺から離れて行って――
「あ、言い忘れていたことがあるわ」
しゃらん。と髪を揺らしながら、その美人は振り返る。
そして、桜色の唇が動いた。
「今日、楽しかったわ。あなた達二人のお陰で」
「じゃあね」と言って、美崎は再び俺に背を向け、そのまま歩いていった。
その背中を見送りながら、今聞いた言葉をもう一度反芻して――
――あなた達二人のお陰で――
「……よしっ」
俺も、その背中に背を向ける。
その目の先には――坂道に沿って造られた大きな公園が見えて――
「……マジで、ケツを探してそうなのが怖いな……」
その言葉は、歩く美崎のように消えていった。




