10 彰の頭の中はおっぱいだけではないらしい
『ふざけんな! オレはおっぱいが揉みたいだけなんだよ!』
『だからそれは、オレがおっぱいを好きだから……!』
『オレはおっぱいが好きなんだよ……好きで好きで、それでも好きなんだよ! だから追うしかないんだよ! おっぱいが好きだから、オレは追い求めるんだよ!』
――夕日が、俺を未だに照らし続けていた。
彰がいなくなり、誰もいない閑散とした道に立っている俺は――
「やっぱあいつアホだろ……」
俺は彰の発言を顧みて項垂れていた。
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――彰に散々不満をぶつけた結果、彰はどこかへ行ってしまった。
そんな中、俺は一人ぽつんと残された形なのだが……
「――あ! また落ちた!」
――俺はそんなの気にせず、昼にも訪れたゲームセンターに行っていた。
「クソ、やっぱりUFOキャッチャーはキツイな。これ上手い人とかどういう人生歩んでんだ……学校で見た目の割に意外と運動が得意な人とか、そういう人生歩んでいる人が得意そうだな……」
UFOキャッチャーの前でよく分からない事を喚く男。それが俺だ。
あの後、一人で寮にいるのもアレなので、ゲームセンターで時間を潰すこととした。
「ていうか、このグッズ明らかに引っ掛かり処ないよな……昔見たアニメのキャラだから、ちょっと欲しくなったんだが」
台に手を付いて中を覗き込むが、明らかに引っ掛かる場所に乏しいグッズだ。このキャラはとんでもない貧乳という設定だったが、もし貧乳じゃなかったら簡単に取れていただろう。
――貧乳。
「……」
い、いや別に、彰の事とか全然考えてませんし? むしろあれでせーせーしてるくらいだし? あれは彰が明らかに悪いものだし? 別に今のダジャレとか狙ってませんし!?
「あー……もう、やめだやめ。せめて引っ掛かりやすいものでも……ん?」
俺は頭をぶんぶんと振って余計な考えを吹き飛ばし、別の台を探しに行くと――あるゲーム機が目に留まった。
「これ……昼に彰とやった……」
――そこにあったのは、昼間彰と一緒にプレイしたクイズゲームの機体があった。
それを見ると、今日、彰とやっていたことが鮮明に蘇ってくる。
『本物が揉めないなら、似た感触のものを揉めば疑似おっぱい体験が出来ると思うんだ』
『そこでだ! 二の腕でもケツでもなくてもおっぱいの感触を味合わせてやろうと! そんな意気込みをもって日々食を謳歌している男に白羽の矢が立った! そう、おっぱい感触調合師こと有泉だ!』
『この外道が! よくもオレの至福のタイムを邪魔してくれたな! オマエが入ってさえ来なければオレはライタの服の上から至福の双丘を触ったり撫でたり舐めたり吸い付いたり揉んだり高い高いしたりしてたんだぞ!』
『女の人に、おっぱいを揉ませてください! って頼めばいいんだよ!』
……そう、今日彰とやっていたことの記憶が。
「酷くね!? 思い出せば出すほど酷くないかこれ!」
何故だろう。落ち着けば落ち着くほど彰の株価が下がっていく。
そもそも、俺が彰に今まで付き合ってきた理由はなんなんだよ。あんな奴、いくら同居人だからってそこまでする必要ないだろう。
そうだ、俺がここまでこいつに付き合う理由なんて――
『オマエが俺と関わってしまったんだ。代わりに、オレとオマエを友達にしてやんよ』
『……は? すまん、俺の耳の垢が奇跡的な絡まり方をして一時的に聞き取りづらくなっていたかもしれないから、もう一回言ってくれ』
『あーのーな! 何度も言わせんな、俺と友達になってくれって言ってんだよ』
『……友達ってそんな風に宣言するもんじゃないだろ。こう、主人公がピンチの時に颯爽と現れて、格好よく自転車を振り回しながら敵を倒していって……そんな感じで友達ってなるもんだろ』
『オマエの中での友達像どうなってんの? それはともかく、この今の状況は十分友情が育まれてても良いんじゃねえの?』
『この状況、か。男二人が道路で大の字になって倒れている光景の事なら、育まれるのは友情ではなく警察への通報回数だろうな。っていうか、お前は俺と友達になりたいのかよ。なんでだよ』
『まあ、な……要するに……
――理由。あの日に出来た、俺と彰の理由。
そんな事のせいで俺と彰はこうやって……過ごすわけか。
「……」
俺は百円をゲーム機に入れ、クイズゲームをスタートする。
ジャンルは『おっぱい』だ。
『――高校三年生の山口君、彼の右隣の家には巨乳の女の子がいます。そして左隣には貧乳の女の子がいます。彼は巨乳が好きです。山口君はどっちの子と付き合ったでしょう」
「……巨乳が好きなら巨乳の子と付き合ったんじゃないのか」
『ブブーッ、紆余曲折あって巨乳の女の子は死んだので貧乳の子と付き合いました』
「何それ!? その紆余曲折が一番気になるんだけど!? 殺人か! 貧乳の子が殺したのか!?」
『殺したのは長瀬君です』
「誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッッ!!」
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「あークソ、また全問不正解だ。彰はよくこんなゲーム正解できるな」
『以上で、全十問のクイズを終了します』と表示された後に暗転した画面を見ながら、俺は溜息をつく。
「さて、こっから……どうっすっかねー」
ゲームセンターを出て夕日を眺めながら、俺はぽつりと呟く。
約束を思い出して、思い出してしまって。
これだからゲームセンターは嫌いだ。ここに来る度に変な事を思い出す気がする。
背伸びをしなが――らにっくきゲームセンターと、しぶとく残る夕日を交互に睨んだ。
夕日はまだ、沈まない。




