EX話 ジーナちゃん②
さあ、ジーナちゃんによる治安維持活動の始まりです。ここ最近、不幸が続いているネストの街に安定をもたらすために私はがんばりたいと思います。が、ここで問題が起きました。
私に割り当てられた担当区域なのですが、その場所はとても治安が悪い場所なのです。あのクソ天竜が暴れる前から、、この街の悪人どもが集まる、そういう場所だったのです。
私としては、もうこの時点で命と貞操の危機を感じます。なぜうら若きエルフの女の子をこんな危険な場所に派遣したのでしょうか。私にお似合いなのは例えば、街が壊されて気落ちしている人間達に愛と美貌で癒やしを与える、そういう輝く場所だと思うのです。
そんなミラクルアイドルジーナちゃんがこんな、人の悪意が凝縮されたような場所でやっていけると思いますか? はっきりいって無理です。感情と行動の間に理性の壁を持ってなさそうな奴らが集まる場所にアルティメット美少女エルフの登場ですよ。10分で癒やしの女神からいやらしの女神になってしまいます。
そんなわけで、私としてはもうバックレたいところなのですが、流石に今後の社会活動を考えるとロビンさんからの後ろ盾を得られる事は大きなアドバンテージとなります。
本当、私には全く似合わないこんなゴミ溜めみたいな場所ですが、そういう事情があるのですからしょうがありません。このジーナ、今から覚悟を決めて街の悪人達と対峙したいと思います!!
どこか薄暗い町並み、正規の通りから外れたこの場所。クソ天竜によって崩壊した街の一角にあるこの場所では、人相の悪い人間共が集まっていました。廃棄された建物を勝手に住み着いたアウトロー共が日夜好き勝手に生きているこの場所には、まともな人間達は近づきません。
故に、私のようなうら若き女性が一人で歩いているともなれば、もはやカモネギであります。ほ~ら私の姿を視認した男達が下卑た顔や態度でこちらに近づいてくるのがわかります。
ゲッヘッヘみたいな下品な声を出しつつ、こっちに近づいてくる彼等。何か人数も増えちゃって、数十人近く集まってきてます。雰囲気も野生の♂全開って感じで、人間社会の倫理から外れたオーラを出してやがります。
そいつらがこちらの顔がくっきり見える距離まで近づくと、うら若き超美人エルフの美貌に気がついたのか、目を大きく見開いて――
「人狩りジーナだああああああ!!」
男たちが叫び声を上げて逃げ始めました。体裁など全く気にせず、山で巨大な魔物に出会った一般人が如く、大混乱に陥ってます。
「あの騒ぎで死んだはずじゃないのか、なんでお前が生きているんだジーナ!!」
悪党達がパニックに陥っているこの場面、実はそんな珍しい光景ではなかったりします。私が治安維持活動を初めてからの四時間、常にこんな感じでした。
私が過去に少々あくどい事をしてきたツケなのでしょうか、今までコツコツと積み上げてきた裏社会活動がここに来て実を結んでしまいました。アイドルを自称している私ですが、殺人鬼に出会っちゃった的な態度で周りに対応されちゃっています。
「落ち着いて下さい皆さん、私はすでに改心しています。街の治安を取り戻すために奉仕活動をしているだけです、そんなに怯えなくていいんですよ」
私はそう語りますが誰も聞きゃしません。大の男が情けない声あげてパニックになって逃げようとしているだけです。全く、ちょっと話をしたいだけなのになんて失礼な奴らなのでしょうか、これは無視と言う名のイジメです、間違いありません。
イジメに対して断固対処するジーナちゃんとしては、話も聞かずに逃げ出そうとする失礼な奴らの足をとりあえず魔法で凍らせます。ちなみに前は氷系統の魔法は使えなかったのですが、ロビンさんが散々魔法を見せてくれたので、なんとなくコツが掴めてできるようになりました。これかなり便利でして、今みたいに殺さず生かして捕まえとけみたいな場面で非常に重宝します。
下半身を凍らされて逃げることのできなくなった男達が私の姿に震えます。しかし、しかしです、私はあくまでも対話で解決したいと思っているだけなのです。魔法で氷らせるのが対話かと言う疑問もありますが、これは対話をするための行動と考えてみれば対話そのものです。
「さて皆さん、私を見て逃げるのは仕方ありません。私も自身の行動に少々覚えがあります。自業自得の部分があるのも否めないところなのですが、ちょっと冷静になって私の姿を見てください、気づくことがありませんか?」
実は私、今日は気合を入れてアイドル衣装を着てきたのです。フリルの付いたケバイ色の衣装ステージでして、治安活動と同時に癒やしのアイドルとして活躍しようとしているわけなんですよ。
この対おっさん悩殺衣裳を見れば、私が悪の側だという誤解もすぐに解けます。ちょっとサービスで生足見せる感じで姿勢をとってみますか……チラッ。さて、これで彼らもジーナちゃんに一発で悩殺された事でしょう。
私がそう思いながら彼らを見ると、その中の一人が感動のせいなのか震えながら喋り始めました。
「あれはまさか、人狩りジーナのデスエンジェル……」
おかしな名前付けられましたね。
「聞いたことがある。ジーナが人を嬲り殺しにする時に好んで着飾る服があると、まさかこれが噂の……」
なんか勝手にコイツラ盛り上がっていますが、この衣装はここ一週間で作り上げた私お手製衣裳です。街の皆に笑顏と勇気を分けるためにですね、こうボランティア活動みたいな事も含めて頑張っちゃおうかなみたいに考えましてね、そんな思いで作り上げた衣裳なんです。それをここまで扱き下ろされると、ふふっ少しだけイラッときますね。
感情のままにチンピラ共の頭上に、人間の等身大程度の火の玉を魔法で作ります。それをゆっくり下に落としていくと、火の熱気にあぶられた男どもが悲鳴を上げ始めました。
ちなみに、この炎の魔法も対話のカテゴリーに入ります。こちらの会話を通すために必要な行いですから、間違いなく対話と言えるでしょう。聞く耳持たない奴らの脳の硬さを火でゆっくりと柔らかくしているというわけですね。
知的な暴力の炎に照らされていた男達の悲鳴が少なくなってきました。顔はやつれ、目から流していた涙は熱で乾き、対話のテーブルに付くのに十分といったところまでやってきました。これなら会話できると判断した私は炎の魔法を消します。
「今のでわかるように、私は今回話し合いをしにきただけです」
「これが話し合い? てめえ頭おかしいんじゃねえか!!」
もう一度炎の魔法を作り上げると、男達の頭上を照らします。ちょっと先程までは優しすぎたようです、天使のジーナちゃん過ぎましたね。ここからは対話のために相手に死を意識させる事にします。死の天使、ジーナちゃんと言ったところでしょうか。
先程よりもさらに長い時間炎で炙り続けると、男達の表情が、砂漠の中で灼熱の太陽に水無しで数日間照らされ続けた人間みたいになりました。ここまでやればもう平気です。
「私は暴力を振るいたくありません、ですからお話し合いで解決しましょう。わかりますね?」
「よ、よくわかった」
あれだけ頑固だった男達がこうも素直になるとは、やはり魔法とは素晴らしい、人生の大部分は魔法で解決できます。解決できないのは師匠くらいですかね、あれは存在そのものがマジカルですし。
両者お話し合いの体制が作られたことで、彼等に関するリストを取り出します。これはロビンさんが私に持たせてくれた各種資料でして、この地域の人間達が行ってきた迷惑行為が書かれています。
ここは確か資料に書かれているところのE地区でしたね。結構な項目が書かれています。
「さて、どうもあなた達、この騒動のさ中に街の人間達に迷惑を掛けているみたいじゃないですか」
更に私は資料を読み勧めます。色々な犯罪が書かれているその項目を見ていると、一つだけ目が止まるものがありました。
「人身売買……」
何と……いうことでしょう……
「貴方達は、こんな卑劣な犯罪を行っていたのですか!!」
人が人を売り買いする、これは最低の行いです。かく言う私も、住んでいた森から人攫いに捕まって人間の世界へと連れこられました。
高く売れそうだからという理由で扱いこそ丁重でしたが、無理やり住み慣れていた場所から連れてこられた私のストレスは並大抵のものではありませんでした。そのような被害者側である私としては、人身売買などという卑劣な行為、許せるはずがありません。
「どうやら、あなた方は人として許されない行為をしていたようですね。このジーナ、あなた方に罰を与えると決めました!!」
「いやちょっと待て」
私の宣誓を邪魔するように悪党が横槍を入れてきました。
「人狩りジーナ、お前はたしか奴隷商人をしていたはずだ。そんなお前が何を言っているんだ」
「黙りなさい!! 悪党共の屁理屈に惑わされるほど私は馬鹿じゃありません!!」
極悪人間どもに見切りを付けます。愛と癒やしの天使を自称している私ですが、癒やす相手は選びます。彼等は悪党中の悪党、人道を外れたゴミどもなのです。
私は指をパチッと鳴らすと、待機させていたリーキスを呼び出します。
私の従者であり副官でもあるリーキスは、先の騒動でも見事に生き残っており、現在こうしてまた副官として働いてくれていました。
「リーキス、わかってますね」
「はい、ジーナ様!!」
リーキスが手慣れたように男達を縄で縛り上げていきます。
私の副官になった頃は震える手で業務を行っていたリーキスですが、今ではこの通り匠の技を持つ職人へと変貌しました。罪悪感と常識におびえていた彼の姿はもうありません。今ではすっかり新人の域から抜け出して、頼れるベテランへと変貌しています。
リーキスは口うるせえゴミ共に猿轡をして、待機しておいた馬車へと男どもを押し込んでいきます。ここら辺も体力がついてきたのか、楽々とやり遂げています。
「ところでリーキス、これだけ人を送るとなると、値段の方は大丈夫でしょうか。人が多くなった分だけ足元見られて値引きをされるのでは?」
治安維持活動を始めてから数時間。流石にそろそろ送る人数も多くなったとあって、金銭に関して少しばかし不安に思います。
「大丈夫です、鉱山などに罪人として送るので、いくら居ても問題ないそうです。だいたいですが、これくらいになりそうです」
と、リーキスがソロバン弾いて私に試算した結果を見せてきました。ほう、なるほど、ほう、これはいいですね!!
「素晴らしい働きですリーキス。今回は貴方が作り出した商売の販路を使いましたし、これくらいは貴方が貰っても大丈夫です」
と、私がそろばんをパパっと弾いて数字を見せます。その瞬間、リーキスの顔が輝きました。
「ありがとうございますジーナ様!! これで妹の学費も問題なくまかなえます」
リーキスは妹を養うために立派に働いていました。特に最近では生活の余裕がでてきたからか、妹に教育を消させるんだと息巻いており、そのために苦労していると私は知っています。
「いいんですよ気にしないでください。鉱山送りになる彼らの生命やその他がリーキスの妹のためになると考えれば、私も全力で支援します」
「はい、ジーナ様!!」
残された男達をぱぱっと馬車に詰め込むとリーキスが去って行きました。
ふふっ家族のために頑張る青年というのは、ああも頼りになるものなのですね。私も少し驚きました。
少しの感動と、もうあの頃のリーキスはぜってえ戻ってこねえわという寂しさの中で、次のリストを確認します。さて、残りの人的資源はどこやろなとペーパーめくりますが、次の場所は書かれていませんでした、ここで最後だったみたいです。
だとすると、そろそろアイドルジーナちゃんとして本格的な活動をしても良さそうですね。
自身のアイドル活動からプロデュースまでを脳内で計算していると、私をこの場所に派遣してくれやがったロビンさんが現れました。
「流石はジーナさんですね、見事にこの地区の治安を回復させています」
「言うことはそれだけですかロビンさん。うら若き女性をこんな場所に送るなんて、セクハラやパワハラなんてレベルじゃありませんよ」
「そうですね」
謝罪の感情が見えないロビンさんの態度に私の怒りメーターが上がります。
「誤解しないでいただきたいのですが本当に褒めているんですよ。ここにいた輩は普通の人間だと手を出せない人間達だったんです。なにせ、自警団員の家族や親戚などを襲って脅迫するような奴らでしたからね。私かジーナさんくらいしか手が出せなかったんですよ」
褒めているのはわかるのですが何でしょうか、私が褒めてもらいたい方向とは別方向の気がしますね。こう、褒められてはいるんですけど、社会生物として褒められてない感じがします。
「まあロビンさんが本当に称賛しているのはわかりましたが、それならボーナスやらを付けてもらいたいところです。想定以上の働きに対して報酬があるのは当然だと思いませんか?」
「ボーナスですか」
これに関して私は不当だとは思いません。危険手当含めて、私に何らかの追加報酬があってもいいと思うのですよ。
「鉱山に彼等を送ったお金だけでは足りませんか? 一応、私の名義を使って正規に罪人達を鉱山に送っているのですが」
「もう一声ほしいです」
ここで満足するような私ではありません。取引とはつまり、押せ、押せ、押して相手から有益なものを引っぱりやがれなのです。
ロビンさんが少しだけ悩んでいましたが、何かを閃いたのか顔を輝かせます。
「そうだ、ちょっと悩んでいた問題があるのでそれを解決してくれませんか? そうすれば追加の報酬を約束します」
どうしましょうか。ここでゴネることもできますが、ここいらが手打ちのような気がします。まあ妥当な落としどころでしょうね。
「わかりました、ロビンさんが何に悩んでいるのか知りませんが、できる範囲で頑張ってみます。解決できなかったとしても頑張った分くらいは支払ってくださいね」
「それは確約できませんが、とりあえず了承したということでよろしいですね。ではちょっと私についてきてください」
と、ロビンさんが歩き出そうとする所で、私は聞き忘れていたことがあるのに気が付きました。
「ところで、その悩んでいた問題ってなんですか? ロビンさんの性的趣味の結果、廃棄する死体の場所がなくてとかでしたら、他の人に頼ってくださいね。精神的な意味で私には荷が重そうですから」
「安心してくださいちゃんと真面目な問題ですよ。まあこういう時によくある問題といえば問題なのですが、要はあれです」
「あれですか?」
「あれです、ジーナさんは手を出してませんでしたがあれです。そう、現実逃避の手段として蔓延するあれ、つまり……麻薬の問題ですよ」
ロビンさんはそう言いました。




