第三十三話 別行動
ジーナが逃げてから数日、俺たちはジーナが住居にしていた宮殿の跡地に滞在していた。
セレストもここが気に入ったのか、特に文句も言わないどころか喜んでくれている。特に、建物内部にあった黄金で出来た部屋がセレストは気に入っていた。
全面黄金で出来たその部屋は、布団から小道具から雑用品まで全部が純金だった。当然、それに比例して一つ一つの重量は重くなっており、普通の人が過ごすには不便な場所だ。
そして、これだけの黄金をあしらった部屋は宮殿の主であるジーナしか作れないし住まいには出来ないだろう。であればおそらくここは、ジーナにとってのトレーニング部屋兼私室だったに違いない。
ふふ、ジーナめ、まさか生活の全てをトレーニングに当てる気概でいたとはな。特に布団まで純金なところが俺的にはポイントが高い。寝ているときまで筋肉を鍛えようとするその魂、奴めそこまでの精神的な高みに達していたか。
こんなどう考えてもジーナ程度の体力では純金の重さでまともな生活ができなくなるとわかっているのに、あいつはこの鍛錬部屋を作っていたのだ。これで普通の私室のつもりで作っていたのなら、完全に馬鹿でアホで脳みそがまったくない生き物だと罵られても仕方ないこの部屋で、あいつは日々トレーニングを重ねていたのだ。
ジーナの精神的な成長に目頭が熱くなってきた。あいつも俺がいなくなってから成長していたんだなと実感できたからだ。
そして、成長したと言えばセレスト、あいつもここ数日の間に成長していた。
「こほおおおおおおお」
セレストが精神を集中させている。数日前までは殺気ダダ漏れで目につく気に入らない物を全てぶっ殺すような精神状態だったセレストだが今は違う。殺気を心の中にとどめて溜め込む事を覚えていた。
「こほおおおおおお……セイッッッッ」
そして、息吹を終えると、一気にその殺気を解き放つ。
そのまま目の前にあったジーナの石像に殺気を載せた拳をセレストがぶち当てた。しかし、天竜の力そのままにぶん殴られた石像であるが、全く変わりもせずにその場に立っている。
「だからなんで壊れないのーー!!」
セレストが悔しさで地面に転がり始めた。
ここ数日、セレストはあの石像をぶっ壊すことに全力を傾けている。
俺がセレストの頼みで噴水から分離させて、サンドバック用として設置した物だ。これでセレストのやる気が増えてくれればと思っていたのだが結果としては大成功だ。
「悩んでいるみたいだなセレスト」
「アランはどうやってこれを噴水から分離させられたのさ。私はいくらやっても傷すらつけられないのに」
「これも課題の一つだ、ヒントは与えん」
「えー」
それにしても、セレストの全力にも耐えうるとはどんな材質で作られた像なのだろうか。俺も噴水から切り取る時に全力を出さざるを得なかった。だがしかし、これほどの硬度を持たせられる材質も気になるところだが、それ以上にここまでして己の裸体を模した像を作り上げたかったジーナの精神状態のほうが気になる。
己の裸体を壊れぬ石像に変えて世界に晒し出す。こんな変態の行を行うとは、俺が思っているよりもジーナは疲れているのかもしれない。今度再開した時には、俺が師匠としての愛と優しさでジーナの心を癒やしてやらねばならんかも知れんな。
「それでさーアラン」
「なんだセレスト」
「この後はどうするの? またエルフ側の指揮官ぶっ殺すの?」
それは俺もどうするべきか考えていた。セレストとジーナを会わせると言う目的も達成した以上、残る目的はエルフと人間側との戦争を俺のやり方で止めるということだけだ。
「俺もそうしたかったが、おそらく無理だろうな」
「どうして?」
「エルフ側が全く前に出てこないからだ。ロストの街の時は相手が馬鹿みたいに前に来ていたからできたが、ここの指揮官は全く前に出てくる様子がない。この状況では指揮官を倒すのも難しい上に、無理に指揮官を倒しに行けば深追いする形になるからセレストが危険だ」
ロストの街での戦いでは、馬鹿みたいに敵の指揮官が前に出ていた。具体的に言うと、なんか名乗りを上げてこっち側を挑発したりとかしていたのだ。だからこそ居場所の補足から隙を突くことも出来たのだが、ここにいるエルフ達はそんなアホではないらしい。
「それに、どうも相手は大部隊同士での決戦を避けているように思える。小部隊に分けて散発的に攻撃をしかけているから俺達が一度に相手取るのも難しい。最悪、危険を覚悟に大部隊と戦っても良かったが、これでは効果が薄いだろう」
「でも、それでもやれば効果があるんだからやろうよ。ここで石像殴ってるのも楽しいけど、そろそろ体もちゃんと動かしたいんだって。エルフがわざわざ喧嘩しに来てくれてるんだから、ちゃんとお出迎えしてぶっ殺さないと勿体無いよ!!」
セレストが全身これ暴力みたいな感じで滾っていた。
しかし、セレストがいくら言っても、今はエルフ側に俺がちょっかいを掛けるべきではないと思っている。相手が隙を見せたその時、不意打ちの形で俺が出ていくべきだ。だが、セレスト自身はエルフと戦いたがっているのも事実か。
「そういえば、まだ人間側の英雄をセレストは倒してなかったな」
「え? ああそう言えばそうだったね。でも別にエルフと戦うのも楽しいし、私はどうでも良いよ」
なるほど、このままの状況では人間の英雄にも興味ないか、では少し俺が独自に動いてみるか。それに、俺と一緒にエルフと戦っていたせいか、組織だったエルフの集団をセレストが甘く見ているのも実は気になっていた。
「……少し別行動を取るかセレスト。俺は人間側の英雄を調べて、お前と戦うのにちょうど良さそうな相手を調べておくから、その間にセレストはエルフ達と戦って置くべきだ」
「えーーっ一緒に行こうよ」
「ダメだ、俺抜きでエルフ達と戦うのも経験だ、お前は集団になったエルフを甘く見ている節がある。ちょうどいい、ギルドかどこかに行って仲間を集めてみるのもいいだろう。きっとお前にとって、クズ共との交流は素晴らしい人生経験となるだろう」
「なんか面倒くさいなあ。ていうか今日のアランはノリが悪いから嫌い」
どうにも拗ねてしまった。だが、俺はあえて心を鬼にしよう、過保護に扱ってはせっかくのセレストの才能を潰してしまうからだ。まあセレストと関わる冒険者達には少々の危険がつきまとうかもしれないがそれも仕方ない。だいたい冒険者なんてのは一寸先は闇なのだから、多少お亡くなりになったところで全て自己責任である、故に問題なし。
セレストよ、今こそお前は世界に羽ばたく時だ!!




