第三十二話 腐れ縁
そういえば最近、アランの面倒ばかり見ていて一人の時間がなかったな。この結界から出たら、どこかへ旅行にでも行くか。イレス地方の温泉街もいいし、どこか自然に囲まれた避暑地もいい。とりあえず心が癒やされる場所に行きたい。
「なんで、おかしい、どうして竜人達が動いてないの!?」
ヘラが魔法で作られた盤面を見ながら騒いでいた。そこには、竜人を象った像があるが、なぜか全く動いてない。もう人間と鬼、エルフの戦いが始まっていると言うのにだ。
本来ならば、戦いが始まったと同時に裏から人間側の主力である英雄達をブッ殺す役割なのが竜人達だ、それが全く動いていないのは確かに異常事態と言える。
まあ、ヘラはともかく私には竜人達が動いていない理由については想像がついている。どうせアランにボコられたんだろう。
「なあヘラ、お互いのためにこの結界を解いてくれないか。私もそろそろアランの奴を引き取らないと何がどうなるかわからないんだ。どうせまた面倒なことになっているだろうから、今のうちに収めておきたいし」
「嫌よ!! 大体ここからでていったら貴女のことだから、どうせこっち相手に大魔法の一つや二つはぶっ放すつもりでしょ」
「まあそれは当然やるが」
アランとケリを付けたら、二度と舐めたことができないようにエルフ達に無差別で魔法を打ち込むつもりだ。老若男女、軍人民間人関わらず無差別にエルフの住んでいる場所に魔法を撃ち込む。二度と馬鹿な事を考えないように割単位で殺すつもりだ。
「わかった、じゃあ腹を割って話そう。私としてはエルフとの戦いに勝つためならエルフ側のトップであるお前と一緒に閉じこもっていても良いんだ、どうせ竜人達はもう何もできないだろうからな。私がここから無理に出る理由はなにもない。ただ問題はこいつだ」
盤面にあるアランを象った像を私は指差した。
「こいつはいつも私の胃痛を増やす何かをするんだ。もう私の頭の中は今回のエルフや鬼との戦いじゃなくてアランを〆るにはどうすれば良いのかがメインになっている。エルフ側からしても竜人達が動かない時点で、お前の意見が必要になっているだろう。だから、ここはお互いメリットのある選択肢として、ここから二人で出ないか?」
アランと関わってからの経験上、厄ネタと絡んだ時のこいつは、それ以上の何かをしているとわかっている。今この盤面にある像からだとわからないが、絶対なにか余計な事を現在進行系でやってるはずだ。そして、おそらくそれを収めるのはほぼ間違いなく自分なのだ。
「……貴女がそこまで気にする男なのこれが」
「そうだ」
「でも駄目よ。貴女にはここにいてもらうわ」
予想通りと言える言葉が返ってきた。まあ、私が同じ立場であったとしてもヘラと同じ事を言うだろう。人間一人にそこまで警戒すると言ってもピンと来ないだろうし、私がどれだけ迷惑を被るかと言ってもヘラには関係がない。
「でも、貴女の言うところも一理あるわ。竜人達が動かない以上、私の意見がエルフには必要でしょうね」
「おおそうか、じゃあ結界を解いてくれるのか?」
「いいえ、だからここで貴女を倒しておくの」
ヘラが戦闘モードに入った。私との距離を離すと、魔力を滾らせる。
「……なあ止めないか。お前と戦った後にさらに結界を解くことを考えると時間が足りないんだ。何なら、エルフ側を攻撃するのは止めてもいい、だからアランの奴を止めに行かせてくれ」
私の言葉にヘラはもう耳を貸さない、覚悟が決まったみたいだ。ちなみに私の方はまだ覚悟が決まってない。ヘラと戦うことにではない、こいつと戦った後にアランの対応に追われることへの覚悟がだ。
と言うか、ヘラとは過去に何度も戦っている。その度に決着がつかず、今日まで続いた腐れ縁だ。こいつはなんだかんだでしぶといから今回も決着つかずというところで終わるだろう。
まあそれはいいのだが、問題は私にやられたヘラが形振り構わず結界を解いて逃げるまでの時間が非常に勿体無いという所だ。
「一応言っておくわ、私はいざとなったら貴女を放置して結界から出られるの、ただ貴女を放っておいたら何をするのかわからないから、倒しておこうというわけ」
なんだと?
「……つまり、わたしがここから出るためにはお前を倒して更にそこから時間を掛けて、この結界をわたしが解く必要があると?」
「そういう事になるわね」
私が思っていた以上に時間がかかるというわけか。
一体どこで私は選択肢を間違えてしまったのだろうか、思い返せは知人からの手紙を受けてアランから目を離したのが間違いだったな。考えてみればこんな大きな事柄にあいつが関わらないわけがなかったんだ、どうせアランが関わるからと手紙なんて無視しておけばよかった。
そう言えばジーナもどうなったのだろうか、アランの無茶振りを受けてもう死んでいるかもしれん。すまんなジーナ。
「でも安心して、どうせ貴女の相棒も今回の事に関わっているのでしょう。竜人の近くに貴女の相棒が現れてから竜人が動かなくなったみたいだし。事情を聞くためにも私が捕まえといてあげるわ」
ヘラがアランを捕まえる?
「お前にそんな事ができるわけないだろ、大体お前は優れた支援魔法や小賢しさがあるから私も殺しきれなかっただけで、直接戦闘そのものは私よりだいぶ下だ。そんなお前にアランがどうこうできるのなら、既に私がアランを殺せている」
おっと、口が滑ってしまった。ヘラがだいぶ険しい目つきでこちらを見ている。
だが今言ったのも事実だ。わたしがアランを殺すために今までどれだけ頑張ってきたと思っているのか。魔法でも死なないし、賞金首になっても逆に全部返り討ちにするし、直接戦闘でもどうしようもならんし。ヘラ程度がどうこうできるのなら、私がもうアランを倒してる。それができないから諦めてあいつの近くにいて被害を少なくしているというのに。まあ、あいつと一緒にいて楽しい時があるのも事実だが。
「その私にこうして捕まって手も足も出なかったのは誰?」
「別にやろうと思えばお前を倒して抜け出すことは簡単だ。ただ時間が掛かるからやらなかっただけで。これはその程度の状況だな」
「そう、じゃあ本当にその程度なのか試してみましょうか」
うん、いつもどおりだ。こいつとはいつもこんな感じで喧嘩になる。もうこんな喧嘩も何回くらいになるだろうか、こいつと知り合ったのが数百年前だったから、まあ十回目くらいだ。
ただいつもと違ってヘラは装備も準備も固めてきたから、今回は普段よりも手間がかかりそうなんだよな。しかも、そのヘラを倒した後にアランもなんとかしないといけないし……
やはりこれが終わったらやはり旅行にでも行こう。私は心にそう固く誓った。




