第三十一話 ジーナちゃん
ここは街の外壁から少し外れた場所にある、街外れの小屋の中です。いざというときのために私が買い取っていた場所ですね。テレポでここまで瞬間移動してきた私は、無事にあの理不尽二人から逃げられたというわけです。
我が居城であるジーナ宮殿からこんなボロ小屋へと住まいを変えた私。いわゆる都落ちというやつですが、まあ生命があっただけめっけ物ということにしておきましょう。
埃が被っている机の上に腰掛けると、今後について考えます。
敵は師匠とセレストちゃん、この二人です。この内、師匠の方は静観決め込んでるので無視しますが問題はセレストちゃんの方。
まず正面から戦うというのは無し。やってわかりましたが私一人で勝てるような相手ではありません。単純に性能差がありすぎますね。私の魔力を1とするとあっちは10くらいあります。やるとしたら仲間集めて戦うべきでしょう、しかし――
「そもそも私の部下達って結構強かったんですよね」
セレストちゃんや師匠にボコられた私の部下達ですが、あいつら元々は師匠を追ってきた賞金稼ぎ共です。つまりは元から戦う術を持っていた奴らで、少なくとも賞金稼ぎと言えるほどには戦闘に慣れた奴らです。そいつらでさえあの二人の敵ではなかった以上、仲間を集めるのは難しい。
この時点で仲間集めはほぼ絶望的。現実的に見てあいつら以上の仲間となると、ちょっと普通の伝手では集められません。だとするならやはり手は一つ、あれしかありません……そうバックれるのです。
よくよく考えてみると私にはセレストちゃんと戦う必要がないんですよね。天竜とかいう危険存在は放って置いて逃げればいい。先程、逃げる時に言った啖呵はどうしたって? こんな私にもプライドがあると言った? そういう拘りは生きていくために必要な範囲で持っていればいいんです。私は大人ですからね、子供みたいに一時の感情に拘る生き方はしておりません。
ボローい床板を力任せに引き剥がすと、隠してあったトランクを取り出します。結構な重さのあるトランクを床下から引っ張り上げて留め具をパチっと外して中を開けると、あーらまばゆい黄金の光が。そう、いざという時に隠してあった逃走資金ってやつです。
「金もありますし逃げますか」
とりあえず部下達の大部分は死にました。リーキスはあの騒動の中で戦ってなかったので、どこかで生きているでしょう。他にも数人生きているかもしれませんが、まあそれは置いとくとして逃げるならどこが良いでしょうか。
「どこにいきましょうかねえ」
うーん、悩みますね。そう言えば逃走用のために各地の旅行パンフレットを集めておいたんですよね。確か机の二段目の引き出しに……あったあった、これです。
パララーっとパンフレットをめくると、いろいろな場所が書いてありました。絶景、氷竜の谷とか、地獄そのものマグマ温泉めぐりツアーとか、ちょっと目につくような場所が目白押しですね。考えてみれば人間世界の事はろくに知らないので、ここいらでいっちょアース全国旅行の旅とかしちゃいますか。
もう馬鹿二人のことは忘れて、旅行についてのことしか私の頭の中にありません。
「あーでも、今エルフと戦争中だから厳しいか、街中でも私への目線ちょっと厳しかったからなあ」
確か魔法の変身アイテムがポケットに入ってたな、体の一部を変化させる程度のものだけど、耳をエルフから人間に変えれば、まあ見た目完全に人間の美少女になるから、それでやってみっか。
思考が纏まったので、金塊の入ったごっつい重さのトランクをエルフ根性で持ち上げると、ネストの街とおさらばします。
「しかし人間ってチョロいですね。師匠と糞ガキはともかくとして、この町でも人間どもはジーナちゃんの餌って感じでしたし」
この分だと旅行先でも第二、第三のジーナちゃん帝国が作れることでしょう。特に師匠達がここに釘付け状態なら、敵もいなさそうですし。カーッちょろいなあ、人間社会ちょろいわあ。
新しい旅路を一歩ずつ踏み始めます。もう夜にもなって少々気温が低くなったこの時間。上着の一つでも用意してから行くかと思いながら歩いていると、だんだんと冷え込みがきつくなってきました。
「日が落ちたせいか、少し寒くなってきましたね」
まあ今は夏と言っても夜が冷え込むのは当然です、周囲には雪が降りはじめていますし私も自身の両肩を抱きしめてガクガク震えています。
「いやちょっと待ったおかしいですよ」
いくらなんでもおかしい、特に雪なんて降るわきゃない、てかピキピキっと音を立てて足元から氷がせり上がってきています。その氷は段々と私の体に沿って上ってくると、下半身全体から胴体へと私の体を覆うように上ってきました。
「これは――」
そこで私の意識は途切れました。




