第二十八話 ジーナちゃんの黄金浴
支配者の一日は何から始まるかわかりますか? それは目覚めの黄金浴です。
窓から差し込む光が部屋を彩る黄金に反射されて煌きます。
我が王者の部屋は調度品からして主を称える黄金。寝具のベッドはヘッドボードからフットボードまでが純金でできており、そこには他の素材は一切不使用。
床に敷き詰められたるは絨毯の代わりに金塊でできた床板。ティッシュ箱すら金でできているこだわり。窓から部屋に入ってくる光がこれら純金に反射されることで、ジーナちゃんを称える黄金の光へと変わるわけですね。
帝王を称える真理の光を身に浴びながら、ベッド脇に置いてある純金でできた帝王の部屋履きに私は足を通します。職人の力で作り上げたこの靴も当然、履き口から爪先部分まで全部金塊でできており片方で約3キログラム。歩くときに大変な筋力を求められますが、運動不足になりがちな支配者にはおすすめの靴というわけです。
全身の筋力を込めて立ち上がると、私は普段着に着替えるために移動を始めました。
私が歩くたびにドシン、ドシン、と部屋中に音と振動が響きます、なぜなら今の私は帝王のガウン(純金製)、帝王の下着(上下ともに純金)帝王の部屋履き(以下同文)と、全身を帝王で固めているからです。総重量数十キログラムにもなるこれら帝王セットは、人の欲望を形にした装備。私の魂そのもの。
その魂の重さに息を切らせていると、部屋に入ってくる光が強くなりました。どうやら朝日の光が部屋の中にちょうど入ってくる角度になったみたいです。普通の部屋であれば壁や床に光が吸収されるところですが、先程申した通りこの王者の部屋は全面的に黄金。部屋に入ってくる光は減衰することなく反射されて部屋中を駆け巡ります。
眩しさに目もろくに開けられない中で、テーブルに置いてあった王者のサングラスに手を掛けました。言わずもがな、これもフレーム部分はふんだんに使った黄金でできており、その重量はメガネに似つかわしいものではありません。耳に掛けたフレーム部分が地味に食い込んできてDOTダメージを私に与えます。ぶっちゃけ痛いんすよ。
さて、まあここまで語ればもう分かる通りはっきり言えば、この王者の部屋(純金欲張りセット付き)は全面的に失敗です。重いし眩しいし痛いし、だれだよこんなもん作ったバカは。私だよ、わかってるよ、自業自得だよ。
もうやってらんねえと着ていた帝王装備を放り投げると、戸棚の中から普段着を取り出します。普通の布地で作られたエルフ御用達のチェックの上着とスカートを装備して身を軽くすると、普通の靴に履き替えて黄金の扉から部屋を出ます。
全面純金で出来た本当にクソ重い扉から外に出ると、もうこの部屋にある純金を全部溶かして売っぱらったほうが良いなと心底思いますが、このバカみたいな部屋を作り上げた当事者としては、やっぱ無しねと言いづらいのです。
だってそれじゃあアホみたいな成金趣味で実用性皆無の部屋を大金かけて作り出した馬鹿って認めるようなものじゃないですか。心の中ではそこらへん全部認めて、私すっげー馬鹿だなと思っていますが、表に出す勇気はないんですよ。
冒険者やってた頃よりも自分筋肉ついてんなとか思いながら食堂で手軽に朝食のパンを済ませます。流石にここには純金だとかそんなめんどくせえものはありません。自分の中にあった僅かながらの理性に乾杯。
さて、人心地付いた所で現在私のいる場所を教えましょう。
私がいる場所はネストの街という所です。この街は現在、人間とエルフの最前線になっている場所で、国中からやべえ奴らが集まってる超弩級危険地帯です。
そんな場所になぜ私が居るのかと言うと、私が作り上げたギルドと言うか商会を大きくしようと思ったからです。そう、今ではジーナちゃんは冒険者の枠を超えて商売人としても活躍しているというわけですね。
その商売で大事になるのが新しい地域でのビジネスです。一つの地域ではどれだけ頑張っても利益の上限がありますが、複数の地域にまたいで商売をすれば、その分だけ得られる利益の額が大きくなります。そういうわけで、このネストの街に皆で移住してきました。
幸い、私の部下達も新しく始めた商売に対してやる気が溢れており、私のギルドは目に見えて利益を拡大している最中でありまして、ギルド員一同、心機一転、全力で商売人として頑張っています。
おっと、そんな事を考えている内に、部下であるリーキスがやってきました。どうにも時間を無駄に過ごしてしまったようですね。
「ジーナ様、今日の商品が届きました。確認をお願いします」
「わかりました」
ジーナ宮殿の中を商品の陳列されている部屋に向かって歩きはじめます。
ああそうです、ジーナ宮殿、ここはジーナ宮殿という名前の宮殿なのです。この宮殿は元々、アース宮殿と言う名前の宮殿で、その歴史は古く、数百年前からネストの街にあっただとか、地竜が滞在するときに使ってた歴史があるだとか、今の王都が出来る前はこの場所が王宮代わりだったとか、そんな由緒ある場所なのです。
そんな場所を財力と暴力で脅し取ったのがこのジーナちゃんなわけですね。いやー、元の持ち主の方は非常に話のわかる方で助かりましたよ。人狩り部隊のアルフレッド達が頑張ったかいがあります。
宮殿と言うだけあってここから見える庭には、ほら噴水なんかも飾ってありますね。元々は天使の彫像が噴水の真ん中に立っていたのですが、それを改造して今ではジーナちゃんの銅像が立ってます。
それはなんとも見事なほど素っ裸のジーナちゃんの彫像で、凄腕の彫刻家の方が私のスリーサイズから体型からを一目で看破、更には色も着けると言い出した為に、素っ裸のジーナちゃんと全く何も変わらない瓜二つの彫像が今日も元気に噴水の真ん中に立ってるわけですね。
あの彫刻家、次に見かけたら八つ裂きにしてやる。なんでここまで完璧に裸の私の彫像作ってんだよおかしいでしょ。いつもここ通るときに、素っ裸で皆に見られる羞恥心を私は味わってんだぞ。
しかも、なんの素材で作ってんのか私の全力魔法でも全く壊れねえし、おかげで強制的に素っ裸の私の姿を皆に覚えられてるという最高にクソみたいな状況がこの宮殿内部で発生しています。リーキスなんかは顔を赤らめながらチラッチラッと噴水の方を今も見てますね、あとでお仕置き確定です。
彫像で強制ストリッパーとかいうわけわからん理不尽に悩みつつ、目的の商品陳列部屋にやってきました。
「ここが今日確保した商品達が並んでいる部屋ですか」
「そのとおりですジーナ様」
「それは楽しみですね、どんな商品が並んでいるのでしょうか」
バーンとドアを開けると、今日の商品達、そう奴隷達が牢の中に入れられていました。
元々この部屋は牢屋として使われており、それは現在でも代わりません。
長方形の長い部屋にいくつもの牢が左右に分かれて備え付けられております。鉄製の檻でできたそれらの中には我がギルドの主力商品、つまり奴隷達が入っているというわけですね。
コツ、コツ、と部屋を歩いて商品達を見定めます。
「素晴らしいですね、若さ、健康、美貌を備えた男女ばかりです。これなら買い手の方々も満足してくれるでしょう。アルフレッド達に特別ボーナスを渡しておいて下さい」
「わかりましたジーナ様」
うーん素晴らしい、流石アルフレッドです。あいつはモヒカンヤンキーのくせに地味に有能です。とても重宝しますね。
牢の中に入れられた奴隷達が私を見て目を丸くします。信じられないものを見たと言った感じでです。
一人の男の奴隷が鉄の檻越しに私に詰め寄ってきました。強く檻を握りしめて、私に話しかけてきます。これにも慣れたもので、奴隷達は最初に私を見ると大体同じような反応をするものです。
「お前、なんで、なんでエルフがそこにいる」
「なんでって、それは私がこの宮殿の主であり、あなた達を人間達に売り払う存在だからですよ」
「なんでだ、だって……お前は俺達と同じエルフじゃないか!!」
そう、実はここにいる奴隷達は全てエルフなのです。それも、戦場で囚えられたエルフ共です。
私がこの街に来た最大の理由、それは戦場でエルフ達を捕まえて奴隷としてひっ捕らえてくる為です。現在、ネストの街周辺ではいくつも戦線が存在しており、そこに参加することでこうしてエルフの奴隷をタダで手に入れることができるというわけです。
「同じ? 馬鹿言わないでくださいよ、ジーナちゃんは人類とズッ友の支配者なんですよ。それが戦場で敗れて捕まったゴミどもと一緒にしないで下さい。基本的人権が皆無のあなた達と、人権を蹂躙する側のジーナちゃんが同じ生物? 冗談は貴方の負け犬遺伝子だけにして欲しいところです」
全く、人類に勝手に戦争挑んできて返り討ちにあったこのバカエルフ共とジーナちゃんが一緒だなんて虫唾が走ります。ジーナちゃんは人類の支配者である限り、人類の味方なんですからね。
私の答えにまだギャーギャー文句言ってる馬鹿は無視して、リーキスと一緒に奴隷部屋から出ます。本来ならこの世に生きていられるだけでも私に感謝して涙を流して跪く存在のくせに、同じエルフだからと言って舐めた口を聞いてきやがりましたね。まあ、私は心が広いですから許してあげますけど。
「さて、では商品の確認も終わりましたし、他に報告することはありますかリーキス」
「他にですか、そう言えば、このネストの街に人類の英雄達が集まるということです。南のロストの街で戦線が安定したらしく、ここに人類側の戦力を集める余裕ができたので、一気に反抗に移るとか」
「ほう、ロストの街の戦線がですか、あそこは激戦区だと思ったのですが」
要塞都市ロスト、この人類国家アース国の南の要にして、今回の南部戦線における主戦だったと聞いています。故に、エルフ側も力を入れていると思ったのですが。
「何でも、大男と子供の二人組の冒険者がエルフ側の指揮官を討ったとか、ただ、正確な情報かはまだわかりませんので、後日に裏の取れた情報が上がってくるかと思います」
「そうですか、それが本当なら凄い冒険者もいたものですね。できれば私の部下にしたいくらいです」
子供連れの大男。一瞬、あのバカのことを思い出しましたが、そんなことはあり得ませんね。生涯不審人物である師匠が子供に懐かれるなんてありえませんから。であれば別口でしょう。
そこでふと、奴隷として捕まっていたあの日々を何故か思い出しました。怠惰で豪華な生活が続いたあの日々をです。あれも一つの理想的な生活でありましたが、今ほどではありません。なにせ、今では私のほうが奴隷を売り買いする立場なのですから、昔のような何時かは終わるような砂上の桜蘭ではないのです。
今度こそ永遠の富を作り上げるのです。邪魔する者は尽く踏みにじり、その屍によって築き上げられる永遠の富をです。
ただ、なぜでしょうか、ヤツの影が急に頭の中でちらついてきました。いや、そんな訳はない。だいたい、私がこの街にいるのだって知らないはずだ。私の名前は表に出さず、このギルドだって偽名で登録してある。だから絶対にわかるはずがない。
だが状況は確かに似てる。理想郷で甘い生活を送っていた私が師匠という暴力によって荒野に投げ出されたあの時と確かに似てる。だが大丈夫、きっと逃げ切れる。私はそう自分を励ますことしかできませんでした。




