第二十七話 正義の心
「ふむ……」
新しく俺の弟子となったセレストだが、いま現在、彼女はコカトリスと戦っている。
まずはどれくらい出来るのかを見るために適当な魔物と戦ってもらっているのだが……
「アランー、こんなものでいいー?」
セレストがコカトリスの頭部を持ってこちらに戻ってきた。
多少は手こずるかと思っていたが全く楽勝で倒してしまった。コカトリスの石化ブレスも全く効かず、正面から素手で頭部をねじ切ると言う正面からの戦い方でだ。なるほど、ジーナとは違って別の意味で手こずりそうな弟子だ。
「コカトリスくらいでは相手にならないか……」
「だってこんなの雑魚だし手こずるほうがおかしいよ。じゃあもうこれいらないね」
そう言うと、セレストが持っているコカトリスの頭部を手から出した炎で燃やし尽くした。
魔法の方も合格点と。
「体術よし、魔法よし、困ったな、これでは相手が中々見つからん」
セレストは元のスペックがべらぼうに高い。まあ天竜の娘らしいから、それ自体はまあ良い、良いのだが、これはこれで慢心を生む結果になってしまう。
「それならアランが私と戦えばいいじゃんか、なにか問題でもあるの?」
「それでも良いが、できるだけ多くの相手と戦って経験を積んでもらいたい。俺一人だけが相手だとどうしても戦い方の癖が偏ってしまうからな」
元のスペックが高すぎるからこその悩み。ジーナは才能はあったが元々のスペックはゴミだから適当に相手を見繕えばよかったが、セレストはそうもいかない。適当に強くて、それでいて多種多様の相手を用意する必要があるので相手を探すのも一苦労だ。
それと、もう一つ悩みがあった。
「じゃあ適当に人間の街にでも攻め込んで強そうなのと戦えばいい? そこなら沢山いるでしょ」
そう言って走り出そうとするセレストの首根っこを掴んだ。
「こらこら、悪党ならいざしらず、強そうだからと言う理由で無差別に人を殺すべきではないぞ。ぶち殺す相手は慎重に選ぶのが人間世界のマナーというやつだ」
「えー……」
これだ。見た目は子供のセレストであるが、その無邪気さには俺からすると危ういものを感じるのだ。
だがしかし、セレストはあくまでも竜の幼生体である。背中からはちっこい羽が生えているし、スカートの裾からは尻尾も生えている。見た目は人間に似ているが、人間とは似て非なるものだから、多少の価値観のズレは仕方ない。
「人間を殺すなとは言わんが、ある程度の区別は付けるべきだ。基本、ムカついたと思った奴は殺してもいいが、それ以外に対しては手加減するように」
「はーい」
ちょっと不満顔でセレストが答えた。やれやれ、ある程度は言うことを聞いてくれるのが救いだな。
とはいえ、これからどうするか。
最初はジーナの元へ一直線に行こうかと思ったのだが、どうにもそうも言ってられない事情ができた。というのも、ここに来るまでいくつかの街に立ち寄ったのだが、そこでエルフがこの国に攻めてきていると言う話をいくつも耳にしてきたのだ。冒険者として、これを放っておくわけにも行かない。
「ジーナのところに行く前に、ちょっとエルフを掃除しなければならん」
正義の怒りが心の中に溢れ返る。
ジーナのことは大事だが、だからといって戦乱に泣く人間達を放置してはおけない。今こそ、鍛え上げたこの力で理不尽な暴力を打ち砕くのだ。
「ジーナって奴のところには行かなくていいの?」
「覚えておくんだセレスト、力というのは正義を行うためにある。ジーナを正すのも正義だが、今はそれ以上の正義が世界に必要とされているのだ」
「えー、よくわかんない」
これは困った。セレストの場合、力よりも情操教育のほうが大事なのかもしれない。
「例えば、戦に巻き込まれて自身の家族や身内が死んだとしよう、セレストはどう思う?」
「力が弱かったんだね情けない、もっと強くなれよって思う」
キラキラした金色の瞳でセレストがそう答えた。自分の意見は全く間違ってないと言わんばかりだ。ふむ、これはあれだ、強者としての驕りというやつだな。力が強いがゆえに弱い相手のことを考えられない、そういう奴だ。
俺が叩きのめして、弱者の立場を教えたとしてもおそらく、セレストの意見は変わらないだろう。迷宮に閉じ込もっている間にセレストとは一度戦っている。その結果、俺が勝利したことは勝利したが、俺に懐くだけでセレストの考え自体は変わってない。さて、どうするべきかな。
「シンディ達もさ、親父が人間に討たれたから敵討ちだー、なんて言ってたけど人間に負けた親父が悪いんだよね。みんな怒りそうだったから口には出さなかったけど、死んだ親父も、あの世で同じように考えてるよきっと」
「ん? セレストの父親は人間に倒されたのか。ああ、そういえば天竜は人間の英雄達に討たれたんだっけかな」
「そうそう、まあシンディ達はそれを認めてなかったけどね」
なるほど、父親が人間達に殺されているのか。
「それなら良い機会だ。人間の英雄達もぶち殺しに行くか」
「えー」
セレストが心底めんどくさそうな顔をした。
「敵討ちを続けていけばセレストにも情操教育としていい影響があるかもしれん。俺も手伝おう」
「なんか面倒くさそう。ていうか、エルフが攻めてきているのに人間の英雄を倒しちゃっていいの?」
「そこはエルフと英雄の両方を叩きのめしておけばいい」
「むー」
どうにもセレストは乗り気ではないみたいだ。だが話を聞く限り、セレストには肉親や身内への情というものが足りない気がする。だから父親の仇達を殺していけば、何らかの影響がセレストに出てくるかもしれん。
「この近くだとロストの街があるか、そこで情報を集めつつ攻めてきたエルフと人間の英雄、両方を叩きのめすぞ。エルフ側は俺が叩きのめしておくから、英雄の方はセレスト、お前がやるんだ」
セレストがちょっと不満げな顔をしていた。手を頭の後ろに組んで口を尖らせている。
「アランがそれで良いって言うなら私は良いけど、私の姉弟子であるジーナはどうするの? もう私の中ではジーナぶっ殺してアランの一番弟子の座を奪い取るって目標ができてるんだけど」
何だそんなことか、それを気にしてたのか。
「それなら気にするな、俺はジーナがどこにいるのか気配でわかる。だからジーナがどこに逃げても世界の果てまで逃げたとしても必ず追いつける。ジーナとの一騎打ちについては焦る必要はない、必ず実現させてやる」
「ふーん、まあそれなら良いかな」
良かった、セレストも納得してくれたみたいだ。待ってろよジーナ、エルフ達を撃退したらすぐにでもお前の所にセレストを連れて行ってやるからな。その時には一番弟子と二番弟子、ともに俺の弟子を名乗る上では避けては通れない死闘が待っているだろう。
はっきり言えばセレストは手強い、更に言えば容赦もない、情すらもない、負ければ確実にジーナは殺される、今だってその辺にいた適当な魔物を暇つぶしがてらに嬲り殺しにしている最中だ。ジーナが戦えば、十中八九、ジーナ側が惨殺死体となって土の栄養分として生まれ変わるだろう。
だがジーナは曲がりなりにも俺の一番弟子である、この程度の苦境を跳ね除けられなくてどうする!! 俺は敢えて鬼となって、ジーナにこの天災をぶつけてやる事にした。もしも、セレストと戦い生き延びる事さえできれば、ジーナはまた一段と強くなるはずだ。
超難産でした




