第二十五話 ジーナ再び
片手に持ったワイングラスをぐいっといっぱい浴びます。
こちとらアルコールの美味さなんてさっぱりわかんねえが、支配者たる私にはこういう貫禄も必要なのだ。
飲み干したワインを側にいるリーキスに手渡すと、空気いっぱい吸い込んで眼前にいる部下共に発破を掛ける準備を開始。
「このギルドには――ゴホッゴホッゲポッ」
むせた、思いっきりむせた。気管支にさっきのワインがちょびっと入った。背中をリーキスに擦らせる。この従者ときたらまだ10代半ばの青年なのに細かいところで気が利く素晴らしいやつである。私は良い副官を持ったものだ。
とりあえず咳き込むのが止まったので、気を取り直してもう一度始めることにする。
「このギルドには二種類の人間がいる、お前らわかるか!!」
「「「わかりますギルドマスター!! マスターとそれ以外です!!」」」
「そうだ、このギルドにはこのジーナとそれ以外の生命体、その二種類の人間しかいないのだ!!」
私の宣言を受けて万雷の拍手が沸き起こる。
ここは街に作られたもう一つの冒険者ギルド、私が私による私のためだけに作った相互互助会、その名もエルフ王国の本拠地建物の中である。
師匠を狙うハンター共をぶちのめし続けること数ヶ月。そいつらを手下にしていく内に、この街での武力的な意味で最大派閥となった私はこうして新規のギルドを立ち上げるに至りました。
その際におけるあれやこれやを語るのはまたの機会にするとして、要は私はこの町で立派に独り立ちしているということです。これも全部、私の努力と人望と持って生まれて運勢のおかげというものでしょうかね、かーっ私ってすごいなー。
ふうっと溜息を付いてから帝王の椅子(制作費10万ゴールド)に座ると、部下達から今月のギルドの活動について報告を聞くことにします。
「まずはモヒカン、報告しろ!!」
「はいっ!!」
私からの号令を受けてヤンキー的なファッションのモヒカンが前に出てきた。
こいつの名はアルフレッド。名前に似合わず生まれも育ちもスラム育ちのナイスガイだ。その論理感と行動力と来たら、このジーナ親衛隊の一番隊を任されるに足る存在である。
「一番隊隊長アルフレッド、今週の活動を報告します。近隣の村から護衛料を徴収していた際に、他ギルドとの冒険者と戦闘、我が隊から少ないながらも怪我人が出てしまいました」
護衛料。この魔物はびこる世界で私達が善意に寄って各村を支配、もとい護衛した際に報酬としてもらっているお金のことです。その護衛料をケチるとは、なかなか見下げ果てた人間もいたものです。
「戦闘の発端は性欲の発散に苦しんでいた我が隊の人間達が村の中にええ女がいた為に行動を起こした事が原因です。これに関して自分は性欲発散を邪魔されたことで起きた隊の士気面の低下を考えますと非常に憤りを覚えております」
なるほど、ケダモノみたいな部下が本能抑えられなくなって美女に襲いかかったところで他の冒険者が邪魔してきたと、そういうわけですか。
「わかりました、この件に関しては私から正式に他ギルドへ抗議しておきましょう」
「ありがとうございます!!」
全くその程度のことで私の部下を傷つけるとはなんて奴らだ。そこいらの村娘なんてのは倫理観も貞操観念もないのが普通でしょう。そんな女達が理性チンパンジーの私の部下達に襲われたからなんだと言うんですか、その程度で正義マンになるとは最近の冒険者はなっていませんね。
私の言葉を聞いていたリーキスが元気よく話しかけてくる。
「ジーナ様」
「なんですかリーキス」
「ジーナ様のおかげで僕と妹は人並みの生活が送れるようになりました。ですから、ジーナ様がどんな人間でも最後までついていくつもりです」
「よくわかりませんがありがとうございます。期待してますよ」
「はい!!」
私とモヒカンの話が終わるのを見計らって次の人間が出てきました。
全身を黒装束で包んでいるそいつは、カゲと呼ばれる部下だ。忍者と呼ばれる職業の人間で諜報を主に扱っています。こいつは何かと便利なので我がギルドにはなくてはならない人材なのだ。
「要望していたとおり、我がギルドの目的であるアランの情報を入念に調べてきました。こちらの書類にまとめてありますのでお目通りをお願いします」
カゲから書類を手渡されると一通りに私は目を通す。
なにか弱点でもあればとアラン師匠の個人情報を一通りカゲに調べてもらっていたのだが、手渡された書類にはほとんど情報が載っていなかった。
「何度調べても、ターゲットであるアランの個人情報がほとんどわかりませんでした。冒険者ランクはB、家族はなし、恋人もなし、友人もいくらかはいたようですが人間ではなくて亜人達を中心に友人関係が形成されていたようでこちらからはわかりません。ただ、冒険者ランクがBだった所を見るとそこそこ強い程度だったと思われます」
冒険者ランクとは基本的にS、A、B、C、D、Eの順に並べられている。Sが一番強くてEが一番弱い。ちなみに、このジーナ様のランクはAである。
「なるほど、つまりランクBである師匠はランクAであるこのジーナ様よりも弱いと……んなわけあるか!!」
私の怒りにカゲが答える。
「そもそも、私から見るとジーナ様の強さはSランクの冒険者にも引けを取りません。亜人ということで不当に低く評価されているだけで、既に私が見てきた冒険者達の中でも最強と言っていいだけの強さがあります……本当にそのアランという方はジーナ様よりも強いのですか?」
「私よりも強いと思っているから、こうして人数集めて穴蔵にこもるように震えているんですよ」
と、ここで私はようやく合点が行きました。実は師匠を狙ってこの街にやってきたこいつらですが部下にしていくに連れてわかったことがあります、リーキスもそうなのですが、どうにも師匠を軽く見ている節がありました。でもその理由がようやくわかりましたよ、あの化物ときたら冒険者としての肩書がBランクだったらしいです、つまり私よりも下なのです。
あの人外、周りを油断させるためにこんな嫌がらせでもやってんでしょうかね。はよS級の災害として人類社会にあれを認知して欲しいところです。
そんな感じで呆けていた私にカゲが言葉を続けてきました。
「それとジーナ様のもう一つの依頼であるリリーと言う名前の魔術師なのですが、私が調べた限りだとそんな魔術師はいません。いえ、同姓同名の魔術師なら複数いるのですがジーナ様以上となると、残念ながら一人も見つかりませんでした」
おや? それは意外でした。
「リリーさんは騎士団も知っていたから有名な人だと思いましたが、該当する人物が全くいないと?」
「該当する人間は全くいませんでした。騎士団から冒険者から宮廷魔術師から、この時代の英雄達まで全部調べてみましたが該当する人間は0です」
では、リリーさんは私が見た幻だった? 人生のストレスを受けすぎた私が見せた脳内だけの存在なのかもしれませんってそんなわけないな、あの人がいなかったら私は師匠に何回かぶっ殺されてますから。そもそも、私の左手にはリリーさんがくれたテレポートの腕輪があるので証拠が現物として残ってます。
「わかりました、それらはもういいんで、モヒカン部隊とカチあった冒険者達を調べといてください。このジーナ帝国に歯向かう愚かな人類共に力ってやつを見せつけてやりましょう」
私の宣言に部屋中から歓声が上がりました。暴力と性欲と体力しか取り柄のない私の部下達には少々刺激の強い言葉だったみたいで、闘争本能がガッツリ刺激されちゃったっぽいですね。
しかしあれです、簡単に切り捨てられる汚物共ほど都合のいい部下にするのに適した存在はいません。私の眼の前で獣の雄叫び上げてるこれらが師匠との戦いや勢力拡大のために犠牲になっても私の心にはノーダメです。つまりは私の心はストレスフリーで人生過ごすことができるのですよ。
これからも更なるクソどもを集めて勢力拡大を狙っていきましょう。ええ、そうしましょうか。




