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ズレてるドラゴンスレイヤーと不幸な亜人  作者: 色々大佐
不幸なエルフ

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第二十話 死亡フラグ

 師匠の仕掛けた罠が音を立ててこちらに迫ってきた。

 地面に仕掛けてあったそのトラップは、巨大な板に無数の針を突き刺して、こちらを串刺しにするタイプのものです。


 それがこっちに向かって命を刈り取るタイミングで迫ってくると、私の前にいたリリーさんが無造作に腕を奮って魔法の光で蹴散らしました。こんなやり取りが森に入ってからかれこれもう数十回続いています。


「……アランの奴、何考えているんだ」

「さあ……」


 そんな会話をしている内に次のトラップが発動。木の根元に隠されていた魔法の玉が爆発して、当たり一面に爆風が広がります。が、これもリリーさんが無詠唱で発動した魔法の壁でなんとか命拾いをしました。


「この森、例えばリリーさん抜きで私一人で来たとして、何分くらい生き延びられますか?」

「ジーナ一人であれば二十分生き延びられればいいほうだな」


 それはちょっと私への評価が高すぎます。私見ですが、森に入ったときに発動した最初の罠、巨大落とし穴に落ちた時点で私は死んでいたでしょう。ちなみに、その穴の中には無数の毒虫や蛇が敷き詰められており、今思い出してもゲロが吐きそうな素敵な光景を私の脳裏に焼き付けてくれやがりました。


 さくっさくっと歩いていると、次のトラップを発見。あの木の表面が怪しいです、殺意に満ちた何かがあそこにあります。


「リリーさん、あれ、あの木のところ」

「ああ分かっている、ところでジーナ、お前は罠の場所が分かるのか?」

「当然ですよ、魔力で風を手足のように操ればできるに決まってるじゃないですか」

「……いつからそれができるようになった」

「いつからって昔から――あれ? 森にいるときは確かにできてましたが街に住むようになってからできてましたっけ」


 私の言葉を聞いたリリーさんが少し考え始めました。ふむ、とかなるほど、とかつぶやいてます。


「そうか、ジーナは街に長くいすぎたせいでエルフとしての感性が鈍っていたんだな」

「エルフの感性ですか、いや自分としては街にいる間もエルフとして動いていましたよ。徹頭徹尾、エルフが使える魔法で生活していました」

「そういう意味ではなくて……そうだな、亜人の本能とでも言うべきものだ。エルフは森を好む性質があるから、基本的にエルフは森で暮らした方が感覚が鋭くなる。あのエリナと言うエルフも森での野宿生活に特に不便していなかったはずだ」


 そこで思い出します。生まれと育ちが野生児の私はともかく、全うな人生過ごしていたエリナさんでも、野生生活には何の不満も持ちませんでした。


「確かに言われてみればそうですね、エリナさんもかなり手慣れたよう見えましたが、あれがエルフの本能なんですか」

「ああそうだ。ただジーナの場合は街に馴染みすぎたんだな、エルフの感覚がほとんどなくなっていたんだろう……よっぽど堕落していないとそんな事は起きないはずなんだが」


 そういえば故郷からこっち一年近くを奴隷商人の所でダラダラ過ごしていましたね。心どころかお腹の贅肉も大分付いた自覚はあります。今は冒険者やっているので少しマシになりましたが、増えたウェイトは中々落ちる気配はありません。


 そんな事を話している内にリリーさんが木の表面に仕掛けられていた魔符の処理を終えました。なにか恐ろしい効果があったのでしょうが、リリーさんがそれを無事に排除して本当に良かったです。

 

 と思ったら、それを切っ掛けに別の罠が発動、轟音とともに上から雷撃が来ました、が、これもリリーさんが魔術で守ってくれました。


「師匠は本当にこっちを殺す気しかないですね!!」


 あいつは人を何だと思ってるんだ、こんな罠を踏破して自分に会いに来いとか言ってたのか奴は。


「そうだな、ちょっと厳しく叱らないとダメだなこれは。ほら、そろそろ罠も終わりだ、やつの姿が見えてきたぞ」


 リリーさんに言われて気づきました、視界の向こう側、広場になった場所に一本の大樹がそびえ立っています。そして、その大樹の根本に見覚えのある一人の人間が腕組みをして待っていました。

 そう、エルフのコスプレをしたアラン師匠がそこにいました。



「だから、お前は、何してるんだ」


 リリーさんの目の前で師匠が正座しています。師匠は顔を俯いてリリーさんの持っている木製のステッキでドタマ叩かれています。


「だってこれもジーナのためだし、俺はジーナの為にしていただけだし」


 それを聞いたリリーさんの殴る力が倍増、ゴツッゴツッゴッとたまに良い音を響かせるようになりました。


「騎士団をけしかけようとか何を考えているんだ、あいつらがヘタレになっていたから良いものの、昔みたいな奴らだったらどうするつもりだ、ジーナが人様に顔出しできないような姿になってただろうが」


 それを聞いた私がリリーさんにちょっと質問します。

「弱くなっているんですか?」

「そうだ十年前の天龍討伐で騎士団にいた精鋭達は殆どが死んだ、今いるのはその時の戦いで前線にいなかったミソッカスと新人共ばかりだ……それでもあそこまでヘタレになっているとは思わなかったがな」


 そこでリリーさんも殴るのを止めて、師匠への詰問を開始しました。

「それはともかく、最近のお前は特におかしい、なんでこんな事をしている」

「俺はできる限りの事をしているだけだ、だいたいこれらは全てジーナのせいだ!!」


 なんだとこの糞野郎!! 言うに事欠いて私が悪いってか、ふざけんなこいつ!!


「あれだけ俺に(才能を)見せつけて、俺を(弟子入りまでして)誘って、その癖いざとなったらヘタれて俺の言うことを聞かない。全く、そんなんで俺の体を満足させられると思ってるのか」


 ゴミの言い分に完全ドタマ来た私も言い返します。

「じゃあ、そこまで言うなら弟子と師匠の関係は解消しましょう。師匠ありがとうございましたー」

「それは許さん、一度俺の弟子になった以上、未来永劫お前は俺の弟子だ」


 どうすれば良いんでしょうか、一度故郷に戻って、このバイ菌を退治してくれるように風龍様にお祈りでもしましょうかしら。


 私が頭を抱えていると、リリーさんが言いました。

「アランの言い分はわかった、つまりお前が満足する結果をジーナが出せたら今やっているような過剰な育成方法は止めるということでいいのか?」

「そうだな、ジーナが俺を納得させられるのなら俺もここまでやる気はない」

「具体的にどれくらい強くなったらアランとしては満足なんだ」

「あいつらくらい強くなったらだな」


 ビシっと師匠が指差すと、そこには死体となって転がっている鬼族の人間達がいました。精悍な肉体を持っている彼らではありますが、現在はそれに似合わずあの世へと旅立っているご様子。誰も彼もが来世への希望を胸に遠い所へご出張してますね。


 リリーさんが遠い目をしながら師匠になにか聞こうとします。

「……ところで、あれはなんだ」

「なんかいきなり襲ってきたから潰しといた。前に俺が倒した鬼族からのお礼参りか何かだと思うから容赦せずにやっといた」


 おそらくですが、あの鬼族の奴らは騎士団を狙ってきた奴らでしょう、それがこんなところで化物と出会ったばかりに……私や騎士団の皆様と同じ様にあの鬼族達も運が無いですね。


「本当はジーナのために一人くらい練習相手を残してもいいかと思ったんだが、まだそれは早いかなと思って止めといた」


 リリーさんが一度上を向いて何かを考えてます。色々と頭の中を整理しているのでしょう。


「まあ鬼族の奴らだしどうでもいいか。それで、鬼族並みに強くなったらジーナにちょっかいは掛けないんだな。わかった、じゃあそれで行こう」

「いや待った、もう一つ条件があるぞ、強くなったかどうかは俺が手合わせをして決めさせてもらう。俺自身でジーナの強さを量らせてもらおうか」

「……ジーナがお前と手合わせ?」

「その通りだ」

「……お前と?」


 話がさあ纏まろうとした時に、なんか変なことになりました。卒業試験として、私はあの戦闘特化のオークと手合わせすることになったみたいです。



「ジーナ、今すぐ強くなって死ぬ危険があるのと、長期間アランに付きまとわれて死ぬ危険があるのと、どちらが良い?」

「今すぐ強くなる方でお願いします」

「わかった、なんとかしよう」


 リリーさんからそんな選択肢を提示されている私は現在、師匠とのタイマンの準備を進めていました。タイマンというか死刑執行前と言ったほうが正しい気がしますがおそらく気の所為ではありません。


「じゃあ魔法でジーナのエルフとしての能力を引き出して強くするから、その際に亜人の本能に引っ張られ過ぎないように注意してくれ」

「能力を引き出すとかについても詳しく聞きたいんですが、それよりも引っ張られるってなんですか?」

「鬼族もそうだが、亜人達は種族の本能として、人間を見下す傾向にある。この魔法を使うと、その本能も強くなって性格がそれに引っ張られるんだ。おそらく、ジーナも森にいた頃は人間を見下していた所があったんじゃないか、今のお前は人間社会にかなり染められているから、性格が変わっているはずだ」


 いやいや、そんなことはありませんと言おうとして思い出しました。豪華な奴隷生活からこっち自分はかなり堕落させられてきたことに。人間社会に染められていないとはどうしても私は言えませんでした。


「魔法で能力を引き出すのも、亜人としての性質を表まで引っ張り出すって事だ。そうすれば下位の鬼族くらいの強さは十分に発揮できるはず……それはともかくアラン、本当に手加減できるんだろうな!!」

「当然だ、あくまでも力を試すだけというのは理解している。俺もジーナに合わせて力加減は調整するつもりだ」


 ブンッブンっと腕や足の素振り動作をしている師匠ですが、そこから漂う気配は並大抵の殺る気ではありません。私には感じます、師匠の放つ突きや蹴りの風圧が髑髏のような形となって私にまとわりついてくる事を。

 ヤツの言う手加減とやらが参考にならないのは間違いないようです。


「リリーさん、エルフとしての性質を強くするだとか言ってますが、そんな都合のいい物はこの世界にありません!! 」


 全く、そんな都合の良い力があるわけないじゃないですか。今の私にできる事はこの状況からどう逃げるかだけです。


「ジーナ、試しにちょっと魔法をあの木に向かって撃ってみろ」

 リリーさんがそう言うと私から見て右側にある木を指さしました。

「魔法ですか、まあそれくらいならいいですけど」


 はーっと気合込めて手から魔法の矢を放ちます。緑色に輝く魔法の矢が発射されると、それがサクッと木に刺さりました。普通に弓矢で撃ったほうが威力は高いのは間違いありません。まあ経費の面から矢を消費しないので便利な魔法と言えば便利です。


「よし、じゃあちょっと良いか」

 そう言うと、リリーさんが私のコメカミ部分に挟み込むように両方の手を置きました。すると、リリーさんの手からなにかが頭の中に流れ込んでくるのがわかります、エネルギーのような、何かが頭の中に入り込んできて少し思考がボヤけた気がします。


「まずはこれくらいでいいだろう、もう一度魔法を撃ってみろ」


 リリーさんに言われてもう一度魔法の矢を放つと、放たれた魔法の矢は先程と比べて大きさも速度も違いました。目算で見れば大きさは倍程度違います、速さも倍くらい違う様に見えます。その魔法の矢は目標の木に刺さるどころかその木を貫通して、そのまま後ろにある木の中ほどまで刺さりました。


「えー……」


 信じられない、本当にこれを私がやったの? もう一度同じ様に魔法を放ちますがやっぱり威力が桁外れに大きくなっている。嘘だーと思いながら何度も放っていると、的にしていた木が私の魔法で削れて倒れました。おいおい、私本当に強くなっちゃったよ。


「リリーさん、貴方はどこぞの筋肉バカとはうんこと宇宙くらい違います。リリーさんこそ私が求めていた存在だとはっきりわかりました。このまま、お手軽才能開花で私を遥か高みへと連れて行ってください」


 その私の期待にリリーさんが首を横に振りました。

「すまないが、これは亜人が元々できる事を自覚させただけで、才能を開花させたわけじゃないんだ。才能の開花と言うより精神操作に近い。それに副作用もある、亜人の本能が強くなりすぎて人間を蔑視するようになるんだ。他にも記憶の混濁が起きる可能性もあるし」


 人間を蔑視する副作用がどうとか言ってますがそんなことはどうでもいいです。こんな簡単に強くなれるのなら、もっと早くやってほしかった。全く、リリーさんは本当に焦らし上手な方です。


「今回は特別なんだ、このままだとアランに付きまとわれて、ジーナが死ぬ可能性が高いから仕方なくやっているが、本当だったらこんな邪法は使いたくない」

「邪法でも何でもいいですリリーさん。とにかくこれで私は鬼と同じくらい強くなって、あの馬鹿から解き放たれるんですよね、それなら問題ないですもっとやってください!!」


 ぱーっと眼の前が明るくなりました。

 やった、一時期はあの人類ハイオークとタイマンで死ぬ覚悟をしましたが、これなら問題ない。リリーさんの力であのバカに力を認めさせる算段が突きました。

 いや、それどころか想定より強くなりすぎた私があいつの命を刈り取ることもできるかもしれません。待っていろよアラン、この数ヶ月溜まりに溜まった貴様への恨みをここで晴らしてやるからな!!


「それと、これを今のうちに装備しておけ」


 そう言うと、リリーさんが銀色の腕輪を私に渡してきました。

「これはなんですか?」

「いざとなったら私の近くへテレポートできるアクセサリーだ。発動のタイミングは私が操作できるから命の危険があると思ったら即座に私の近くへと避難させてやる」

「テレポートですか」


 強くなった私にそんな物が必要なのかはわかりませんが、リリーさんの言うことですから素直に従っておきましょうか。とりあえず腕にハメハメして、と。よし、装着しました。


「じゃあ今からお前のポテンシャルを全力で引き出すが、無駄だとは思うけど今の内に言っておく。アランを甘く見るな、下に見るな、格上だと思って生き延びることだけを重視しろ。お前たち亜人は普通の人間より遥かに優秀だが、アランは人の範囲に入らない、上位の龍と同格の生物だ。亜人如きでは決して勝てない」


 真面目な口調になったリリーさんにドキっとします。

「リリーさん、心が読めるんですか、まさか私の師匠への殺意が声に出ていたとか……」

「今のリリーに対して言ったものじゃないんだ。言っただろ、これを行うと人間を蔑視するようになると。そうなった時のお前に向けて言ったんだ」

「それなら心配しないでも大丈夫ですよ、チャンスがあったらやっちまおうとは思ってますけど、最大限の警戒心で師匠と戦うつもりですから」


 誰があの戦闘バカと進んで戦いますか。私はよくわかってます、あれはもう人間の皮をかぶった魔物だと。

 そんな事を考えていると師匠がこちらにやってきました。顔には満面の笑みが張り付いています。


「ジーナもようやく覚悟を決めたんだな。リリーが何をするのかは知らないが、ジーナが強くなるならそれでいい。弟子が師匠に認められる為に本気で戦いを挑んでくるか、ふふ、俺がこの日が来るのをどれだけ楽しみにしていたかわかるかジーナ?」

 そこでパチッと片目をつぶって師匠がウィンクをしてきました。控えめに言ってイラっとしました。


「例えて言えば豚に真珠、猫に小判、ジーナに才能、お前という存在が才能を腐らせていく様を見て俺はどれだけ歯噛みしていたことか。でも俺は分かっちゃったよ、そんなジーナでも真摯に愛を注ぎ続ければ、真面目に強くなるんだってな。だからこそ、お前も今なら俺という存在のありがたさがわかるんじゃないのかジーナ?」


 わかります、わかっちゃいました、いま私は青筋立っちゃってます。自分で言うのもなんですが分かっちゃいます、切れて青筋立っちゃってます。


「師匠、例えばこれで事故っちゃって師匠に大怪我させても恨みっこなしですよね」

「当然だ恨みっこなし、お前の全てをぶつけてこい。じゃあ俺はそこで待ってるからな」


 後ろを向いて歩いていく師匠の背中に妄想の中で魔法の矢を100はぶつけます。100で済むと思うなよ、これの10倍の数でてめえを串刺しにしてやるからな。


「このまま時間を掛けても状況が悪くなるだけだろうから、そろそろ始めるぞジーナ。後は健闘を祈る」


 リリーさんが私の頭の両脇に手を添えます。これで私は覚醒って奴をするんですね。

 想像するのは伝説の英雄。私は魔王を倒すために特別な力を女神から授かる戦士です。想像の中では女神の姿はリリーさんでした、では魔王は? そんなもんあいつしかいません。


 先ほどと同じ様に頭の中が霞がかって来ますが、さっきと比べて更に思考がぼやけています。さて、これで私は――


「ジーナ終わったぞ、どうだ」


 ……なにか変な匂いがしてきます。この異物の匂いはどこからしてくるのでしょうか。

 ここは風龍様の森と比べれば格の落ちる場所ですが、それでもこんな異物の匂いがしてくるのは何故でしょうか……ああ、そこの二人の人間からですね。はあ……神聖な森のなかになんでこんなクソ種族がいるのでしょうか。自分達が汚物だという自覚はないんですかね。


 でコイツラの名前はなんでしたっけ、まあ思い出さなくてもいいでしょう。そんな事より早く風龍様のところに戻らなければなりません。もうすでに一年以上も留守にしていますから、村の皆様にも心配を掛けていることでしょう。

 

「あー……こりゃだめだ完全に亜人側に引っ張られてる。アラン、わかってると思うがジーナがどれだけ本気で来ても手加減はするんだぞ、わかってるな」

「大丈夫、手加減だろ、わかってる。おいジーナ、そろそろ始めるぞ!!」


 何かそこの人間二人が話していますが、私には関係ありません。良く見れば私の格好も何かゴテゴテしてますね。こんなのじゃあ動き辛いったらありません。上着もいくつか脱いで、スカートもこんなに長くなくていいですね、ちょっと切って短くしましょう。

 森にいた頃はもう少しラフなスタイルでしたが、まあ今はこれくらいでいっか。


「ジーナが俺に色仕掛けをしてきただと……馬鹿な、それでも見てしまうこれは、なんだ、この敗北感は? 俺の心が揺さぶられているのか、馬鹿な!!」

「いや、いいから馬鹿なこと言ってないで早く始めろ」


 なにかうるさいですね、とそうして騒いでいる人間二人組を見ると、男の方に目が止まりました。そう、その男をよーく見ていると、心の底から何か湧いて出てくるものがある事に気がついたのです。

 それは魂の奥底から決して忘れるなと言う声。暗闇の中から響く嘆き、己の目的そのもの。そう、これは憎しみと恨みの感情です。


 巨大なゴキブリを見ていたほうがまだマシだと思える程の嫌悪感が心に広がります。はて、人間というのはここまで醜い物なのでしょうか。少なくとも隣りにいる女の方にはここまで嫌悪感を持ってないので、あの男が特別なんですね。


「おっジーナがヤル気になった」

「アラン本当に大丈夫なんだろうな」

「俺を信じろ、加減を間違えて相手を再起不能にした事はしょっちゅうだが、殺したことは一度だってない!!」


 風龍様のところに戻る前に少しやることができました。森の害虫退治と言う奴です。生きていてはいけない存在というのがいま目の前にいます。私にはわかるのです、これを生かしておいたらエルフどころか風龍様にとっても害になる、これはそういう存在なのだと。


 木々を食いつぶす巨大なシロアリよりも、他の植物全てを腐らせる外来の植物よりも、密漁で稼ぐ質の悪い人間の冒険者共よりも、あの男のほうがよっぽど生かしてはいけない存在なのだと、それが分かってしまったのです。故に、あれは今ここで殺しておきます。


 ただそうですね、あの男と戦うと決意したら何故か急に、この戦いが終わったら故郷のみんなのところに戻って幸せに暮らしたいと思い始めてきました。それどころか何故か昔好きだったあの子に告白しようかなとも思い始めてます。ついでに、冥土の土産としてエルフの凄さを語りたくなってきました。

 他にも、巨大な魔物に追いかけられている私が仲間に対して、先に行けあとで追いつくと言って仲間を逃すイメージも頭の中に湧いて出てきています。


 これはどういうことでしょうか、頭の奥底から出てきたこれらが私に何を語りたいのかわかりません。はて、今の私になにか関係があるのでしょうか。


 まあ私のやることは決まっています、あの男をぶちのめせば良い、それだけです。

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