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ズレてるドラゴンスレイヤーと不幸な亜人  作者: 色々大佐
不幸なエルフ

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第十九話 説得

 師匠がエルフに扮して暴れて以降、騎士団のエルフ狩りはどんどん酷くなっていきました。


 私としては、もうこの街捨ててどこか遠くへ行きたいなーと思っているのですが、エリナさんから強く大丈夫だと言われたので、まだこうして街の近辺に潜んでいる、というわけです。


 私とエリナさんも騎士団員に見つかりそうになったので、現在は師匠のいる北側の森とは反対側の南側の森に陣取って騎士団から逃げています。


 そんなわけで久しぶりに私は森のエルフに戻ったのですが、そのせいか故郷の事を少し思い出していました。

 

 今の時期なら私の故郷では感謝祭の最中でしょうか。男達は狩りに出かけて女達は祭りの為の装飾品を手作業で作っているところです。私も例に漏れず村の山姥共から、もとい年配の方々から厳しく指導を受けてチクチクと針仕事をしていました。

 そんな事を思い出したら涙が頬から少し流れてきました、そう、本当に思います……あの頃には絶対戻りたくないと。


 考えてみれば、あの頃から私は森での生活に嫌気が差していたんですよね、ぶっちゃけ、誘拐されてせいせいしたというか、あの村から離れられたのは幸運でしかありません。


 私の住んでいた村には輪廻転生の概念がありました。森で死んだ生命はそのまま森の生物として生まれ変わると言う考えです。だから村にいるエルフ達は先祖の霊だとか偉大な獣達の生まれ変わりだとか、そんな事を教えられてきました。


 で、その考えからすると私の前世はおそらくですが、森に迷い込んで悲劇の内に死んだ亡国のお姫様とかそこいらではないでしょうか。村にいた他の奴らは魂のレベルからして大自然に染まっていたでしょうから、そう考えれば私が村での生活が肌に合わなかったのも納得。こうして文明社会に戻ってこられたのも輪廻転生的に考えれば一つの運命だったと思います。


 そんな事を考えていると、遠くの方でまーた騒ぎの音が聞こえてきました。今日何度目かになる戦いの音です。目の上に手を当ててじっと目を凝らして音のする方へ視線を向けてみれば、そこではエルフの格好をした師匠が元気よく騎士団を襲っていました。適度に騎士団の奴らを叩きのめしています。


 おっ、私の視線に気づいたのか師匠がこっちに手を振ってきましたよ。こんな離れて隠れて覗いている私に気がつくとか、あいつやっぱ人間やめてんな。


 さて、あの暴れようですと騎士団から向けられるエルフへの憎しみがまた増えることでしょう。今現在の騎士団からエルフに向けられた好感度も最低レベルですが、あと数日もすれば好感度の底が抜けますね。ここが最低だと思ったか? ここから人間社会での新しいエルフ専用のカースト制度が始まるんだぜってやつです。始まりたくないですね。


 とは言っても師匠を止める方法はこの世界にはないので、とりあえず放っておきましょう。後のことは後で考えることにして今くらいは楽しく現実逃避します。


 木から降りると、エリナさんがテキパキと採ってきた食材を調理していました。プライパンに火を入れて食材を焼いているいい匂いがしてきます。そして、その近くにはせっかくエリナさんが採ってきたけれど毒性があるということで捨てられた食材がありました。


 その捨てられた食材をテキパキと拾いながら皿に盛り付けます。しっかりと焼き目も入れて、塩コショウなどで味付けもして立派に食べられるような風貌を整えました。あとはメッセージカードに、お腹へったでしょうこれを食べてくださいと書いたら……はいできあがり。


 皿の上にはキノコや果実、それに川でとってきた魚などがあります。特におすすめなのが毒々しいキノコ。色はそうですね、黒と白と青色が混ざった感じの奴です。これなら一口食べただけでとても楽しいことが起きること間違いないっしょ。


「ジーナさん、、一体そんな事をしてどうするんだ」

「ちょっと危険な森の獣相手に毒餌として使おうと思っているんですよ、じゃあちょっと行ってきますね」


 もう一度、木に登って師匠の姿を探すと奴はいました。現在も師匠は大暴れの真っ最中で騎士団側の杖持った魔法使い達が放っている魔法を拳で弾き返しているところでした。魔法って拳で弾き返せるんですね知らんかった。


 さて、そんな師匠に先程のメッセージカードを持って手を振ります。こちらに気がついたのか師匠も右手を振ってきました。師匠が残った左手で騎士団員の魔法使いの顔を鷲掴みにして顔面の骨砕いていますが、それは些細なことなので置いときます。


 さて、あとは毒物満点のこの皿を適当にどこかに置いとくとして、ああ、あの岩の上がいいですね、目立つしすぐに分かるでしょう。そーっと中身が落ちないようにおいて、はい完成。師匠毒殺の罠ができました。


 まあこの程度で奴が倒れるとは思いませんが、行動を阻害するくらいの効果は出してくれるはずです。これを食べるかどうかというのは問題なし。かわいい美少女ジーナちゃんからの手作り料理となれば奴は中身なんて気にせず皿まで食っちまいますわ。


 と言うわけで師匠の方はあれでいいとして私はエリナさんが用意した昼食でも食べますか。


 口笛を吹きながらエリナさんの元まで戻ると、エリナさんが森の恵みが勢揃いした料理を用意して待っていてくれました。私が師匠の皿に盛っておいたのとは違ってどれもまともに食べられるものばかりです。


 さーてどれから食べるのかなーと思っていると、ふと珍しいものを見つけました。白い色した手のひらサイズの巨大芋虫のような昆虫の焼き姿。こんがり焦げたその姿からは一辺たりとも見ている人間の食欲を湧き上がらせないそれ。それこそ、森のメシマズ食材の王者キワムシです。


 キワムシと言うのは見た目最悪、味も最悪、しかし栄養価は世界最高という森の困ったちゃんです。


 私の故郷の村ですとキワムシを使った料理は、村の人間が病気に掛かったりしたときに食べられる薬膳料理として出されているもので、かくいう私も一度だけひどい風邪にかかったときに食べたことがあります。


 悲痛な顔をした母親が、キワムシを持ってきてこれを食べるか死ぬか選べと幼女だった私に言ってきたのはいい思い出。そこで死ぬよりかはそれを食べると答えたのもいい思い出。実際に食べてみたら死んだほうがマジでマシだったのもいい思い出です。


 まあそれからすぐに病気が快方に向かったあたり、すさまじい薬効成分だったのは間違いありません。私以外でも、他の村民が病気に掛かった時などにキワムシを食べていたりしましたが、その際の覚悟の決まった顔はそんじょそこらの家畜が処刑間際に見せる顔つきではありませんでした。


 さて、そんな森の薬とも言えるキワムシはお皿の外において、と。そうしてそっと皿から取り出そうとしたらエリナさんに腕を掴まれました。


「食べなきゃダメだジーナさん」


 真摯に私を見つめてくるエリナさん。どうにもこの方は健康と食に対して厳しい御様子。がっしり掴まれた腕から抜けられません。え、マジでこれ食べるんですか? これ死ぬか生きるかのときに食べる究極の一品だと思うんですけど、え、マジですか?

 

 エリナさんの厳しい目線を受けながらキワムシをもった右手が震えてきました。そこでちらりと、ついキワムシを腹側から見てしまいました。これはキワムシを食べるときにやってはいけないTOP1の行為です。


 節足動物を腹から見るという行いに私の食欲メーターが一気になくなりました。お腹についてる複数の足は今でも動きそうなほどの新鮮さを保っています。おそらくですが、エリナさんの料理の腕前が確かで、キワムシが焼いて死ぬその丁度にところで料理にしたからでしょうね。これなら栄養価は全く失われずに食すことができます。


 これが魚などであれば、凄い、まるで生きているような焼き具合だ、素晴らしいよくやってくれたなと褒める所ですが今回の場合は、凄い、まるで生きているような焼き具合だ、よくもやってくれたなと言いたいところです。


 ガタガタと震える私、それを見つめるエリナさん、そして腹についてる足がぴくっと動いた気がしないでもないキワムシ。三者三様の中、私の悲鳴が森に木霊しました。



 私絶対、街のエルフにもどりゅ。涙流しながらそう全力で誓います。

 あれは人の食いもんじゃない、あんなの食べるなら毒でも食べたほうがマシだ。


 ただ何故か体の調子は良くなった気がします。胃腸もスッキリしていますし、心なしか体も軽い気がします。文明の毒に侵されていた体の濁りがなくなったのは間違いありません。


 でもあれは街のアイドルであるこのジーナさんが食べるものではない、ああいうのは師匠の仕事だ。

 そうだ、師匠はどうなった、毒てんこもりの皿を食べたであろう師匠はどうなった。


 私一人が不幸になるなど許さん、あいつも同じ苦労をするべきだと思っていると、さきほど岩の上に置いた皿が空になっていました。間違いありません、師匠が食べたからです。


 それを見て溜飲が下がりました。だいたい私がこんな場所で追いつめられているのも師匠がエルフの格好で暴れたのが原因ですからね、それなのに私だけが不幸になるなんて不平等が過ぎます。


 さて、どんな感じになったかなーさすがにあれだけじゃあ死なねえとは思うけど、どこかでぶっ倒れてないかなーと木に登って師匠の姿を探してみると奴がいました。


 何故か奴はさっきよりも元気いっぱいに騎士団をいじめています。体から元気みなぎってなんかもう全然止まらないぞって感じですね。毒をかっくらった人間とは思えない姿を私に見せつけてきます。


 はて、なんで奴はあんなに元気になっているのか、そこでふと、薬というのは毒と表裏一体だと言うことを思い出しました。毒も使い方が正しければ薬にもなるし、薬も使い方を間違えれば毒にもなるのです。


 なるほど、そう考えれば只人であれば致死量に達する毒でも師匠くらいになると体が元気になる薬になってしまうということですか、あいつ本当に止めようがねえな毒を食らったら栄養になるってどんな体なんだよ。


 万策尽きましたし、この街から本気で逃げ――いやだめだ、逃げてもあいつが偽エルフとして私の旅路についてくるんだった。また同じことが繰り返されるだけです。


 もうこうなったら何故か楽観的なエリナさんに合わせてこのまま逃げるしかありません。彼女の言う少ししたら大丈夫という言葉を信じて逃げ続ける、とりあえずはこれを続けるしか無いみたいです……ガッデム。


 それから数日間、私とエリナさんは必死に逃げていました。エルフのパチモン(師匠)に襲われた騎士団からのエルフ殺すべしの殺意は凄まじく、私達はどんどん追い詰められていきます。


 捕まったらエルフ主演のR18的な展開が予想されるこの状況で楽しいサバイバルからガチサバイバルへと変化、まさに私が故郷にいた時を思い出す過酷な生活でした。


 思い返してみればこんな生活を幼少期から故郷でずっと続けていたと考えると知らず知らずのうちに涙が出てきます。人類の文明とはかくも素晴らしいと思う中で逃亡生活が私の精神的な限界期間にまで到達。


 そして、ついにそのサバイバル生活が終わる日がやってきました。



 街の近くにある騎士団の陣営が半壊しています。風に吹きさらしとなったそこでは全身を包帯に巻いた騎士達が力なく座り込み、その近くには十字架を象った墓も羅列していました。


 陣営に設置されていたテントも屋根が剥がれて、その中身が見えています。騎士団旗は半分からちぎれており、元の模様すらもわかりません。師匠に襲撃され続けた騎士団も文字通り心も体も限界の様相を示していました。


 その騎士団に私とエリナさんが恐る恐る近寄ります。そして、私達の姿を見た騎士団の人間たちが、わーっと悲鳴を上げながら逃げていきました。


「お前たち何をしている、エルフだぞ、憎きエルフがそこにいるんだぞ早く戦わないか!!」


 半壊したテントから偉そうなちょび髭付けたおじさんがそう怒鳴り散らしていますが、体を半分隠してガタガタと体が震えています。


 その怯え様にちょっと私の心が傷付きますが、そこはぐっとこらえて友好的に話しかける事にしました。

「えーっと私達は、その、別に何もしませんから」

「嘘をつくな!!」


 幽鬼のような表情で、そのちょび髭が叫びました。

「昼も夜も私達を襲い続けていたのはエルフだ!! 空にいるグリフォンもほとんど落とされた、援軍を呼ぶための騎兵すら殺された、そうしてここで追い詰めて殺し続けていたのはお前達だろう!! なにが目的だ言ってみろ!!」


 何が目的ってえーっと、一言で説明するのが難しいな。強いて言うなら師匠が私を強くするためにやっているとしか。


「もう残った人間でまともに戦える奴だってほとんどいない、数百人いた騎士団が壊滅寸前だ。もう白旗だってあげた、降伏だってした、勝手に逃げ出したやつらも全員殺された上で死体になってここに戻ってきた、俺達をこの街から逃さず甚振り続けているのはお前達じゃないか!!」


 達、ではないと思います、犯人は師匠一人です、私とエリナさんは関係ありません。

 そんな事を思っていると兵士の一人が慌ててこちらに走ってきました。


「やつが来たぞおおおおおおおお!!」


 その声で場に緊張が走ります。そして、その声に遅れてエルフの付け耳つけた師匠が現れると、残った100人近い騎士たちがパニックに陥りました。


 そのままパニックになっている騎士達へと師匠が突撃して手当たり次第叩きのめしてぶん投げてと無双を開始。


 まずは先程までは半壊程度だったテントが完全に崩れました。崩れた原因としては師匠が人を三人ほどぶん投げた結果です。

 一応は立ててあった騎士団の旗も完全に折れました。これが折れた原因としては、チョビ髭が師匠に蹴られて旗を立ててあったポールにぶち当たったからです。チョビ髭は一応生きているようですが戦闘不能なのは間違いありません。


 最後に一騎だけ残っていたグリフォンが騎士を乗せずに本能のまま空へと逃げました。あれはどこへ逃げるのでしょうか、野生のままに逃げるのかなと思っていると、師匠がそこで大ジャンプ、空へと逃げていたグリフォンの上まで跳ぶと、そのままグリフォンを上から拳で叩きのめしました。


 師匠に叩きのめされたグリフォンが、地上にいた騎士団員まで巻き込んで地面に激突します。

 ここで周りにいた人間達の心が折れる音が私にも聞こえてきました。ポキッと言う心に響く音です。


 そのまま蛮族の限りを尽くした師匠が私の姿に気がついたのか、こっちに来て仁王立ちで正面に立ちました。


「わかってるなジーナ、お前が俺のところに来るまでこれが終わることは無い!!」


 エリナさん含むこの場にいる被害者の方々の視線が集まります。うん、いや違うんですよ、私関係ないんですよこの人が勝手にしてることなんですよ。


「いや師匠、その、私がどうとか以前に、この人達の心が折れちゃってますけど」

「……そうか、まだこいつらには痛みと憎しみが足りないようだな。こいつらにはさらにエルフに向けて憎しみを持ってもらう!!」


 あ、ごめんなさい余計なこと言っちゃいました。師匠のやる気に火をつけちゃいましたね、いやだから違うんですってそんな目で皆さん私を見ないで、違うって、そんな捨てられた子犬の目で私を見るな。


 そうして心の中で自己完結したであろう師匠が森へと帰っていきます。さようなら師匠、もう会うこともないでしょう。さて、じゃあ私達も街に帰りますか。


 何事もなかったかのように私とエリナさんが街の中へ行こうとすると、そこでちょび髭が足にしがみついてきました。


「なんとかしてくれ、見捨てないでくれ、あんたがあいつのところに行けばこれが止まるんだろ!!」

「ふざけんな、あんな化物が待ち構えている場所に誰が行くかって言うんですか、あんた達は泣く子も黙る暴虐な騎士団でしょ、あのエルフのコスプレしたオーガに人間様の力を見せつけてきてくださいよ!!」

「嫌だ、あんなのとはもう関わりたくない!!」

「私だって同じ気持ちですよ!!」


 と、そこでポンッと肩を叩かれました。おや、誰かなと思っていると、そこではモンブランを食べているリリーさんがいました。食べているのはあの頑固オヤジのモンブランです。


 ひとしきりそのモンブランを食べてからリリーさんが小さくゲップをします。そして、懐をごそごそと探ると、魔法使い用のロッドをどこからか取り出しました。師匠が前に話していた魔法使い用の収納空間ってやつでしょうか。


 それをひゅっひゅっと空気が切れるような音をだして振ると、リリーさんがよしっと小さくつぶやきいてから言いました。


「じゃあ、そろそろアランを説得しに行くかジーナ」

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