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05.ミドルトン兄妹

 ミドルトン商会の客用扉をくぐると、乾いた木箱の匂いと、塩と油が混じった不思議な匂いがした。


 店先には、乾物や香辛料の小瓶、紐、金具、船具、貝細工、木工品が並んでいる。商人向けの品も、港で暮らす人向けの品もある。


 受付にいた男の人へ、ラルフが用件を伝えてくれた。


「キャロル伯爵家のジャクリーンお嬢様です。レナ・ミドルトン様へ、商品企画の相談に参りました」


 商品企画って、いい響きだなあ。シゴデキみたい~。


「領主様のところのお嬢様ですか!? 少々お待ちください!」


 受付の男の人は一度目を丸くし、すぐに奥へ入っていった。

 扉の向こうでは、木箱を移す音と、金具が触れ合う音が続いている。



 しばらくして、さっきの男の人が戻ってきた。レナは会長と倉庫にいるので、そちらへ案内するという。


 客用扉とは別の通路を抜けると、広い倉庫へ出た。高い天井の下には木箱や布袋が積まれ、人が行き来している。


 その真ん中で、袖をまくった男が箱の中身を見ていた。


 小麦色の肌に、肩にかからないくらいの赤茶色の髪。

 髪は波を打っていて、乱れているのに不潔には見えない。

 濃い眉と精悍な目元、がっしりした肩。


 ….…なんか、女の子を泣かせていそうな色男だなあ。

 会うなりそんなことを思ってしまった。てへ。


「キャロル伯爵家のお姫さんか?」


 男は箱の中の品を確認してから、こちらを向いた。


「ゴードン・ミドルトンだ。うちの商会へようこそ、お姫さん」

「あの、今日はレナさんに商品企画を持ってきました」

「商品企画? いいねえ。俺にも聞かせてくれ」


 ゴードンは楽しそうに笑った。品のない笑い方ではないけど、王都の貴族令息たちとは全然違う。


 ラルフが一歩、私の横へ出た。


「突然の訪問、失礼いたしました。まずはお時間をいただけるか伺いたく存じます」

「ふうん? いいよ」


 あれ? なんとなく、空気がピリッとしたような、してないような?


 すると、倉庫の向こうから、若い女の子が歩いてきた。


 赤茶色の髪が胸のあたりまで波を打っている。顔立ちが華やかで目を引く。気が強そうな美人だ。ぱっと見ただけで、兄妹だと分かった。目元が似ている。


 この人がレナかな?


「兄さん、お客様を倉庫で立たせたままにしないで」


 女の子はゴードンへそう言ってから、私へ向き直った。


「レナ・ミドルトンです。土産物や雑貨の仕入れを手伝っています。お嬢様のご用件は、商品企画だとか」


「レナさん。私、土産物屋で──」

「っ! ラルフさんですよね!」


 私が言い終わるより先に、彼女の視線はラルフへ一直線になっていた。


「はい。ラルフと申します」

「噂は聞いています。七位入賞なのに騎士団へ行かなかった方だって。そんな人に会えるなんて光栄です!」

「噂好きが話を大きくしているだけですよ」


 レナの顔がぱっと明るくなる。


 ラルフってば、けっこう有名なの?

 ちらりとうかがえば、本人はいつもの顔で立っている。


 ゴードンが手を二回叩いた。


「応接間を使うか。お姫さん、その抱えてる紙を見せてくれ」


 倉庫の脇にある応接間へ移動し、私は土産物屋で見た貝殻飾りの絵と、それを直した案を広げた。


「貝殻そのものは悪くないと思うんです。形も面白いし、港町らしいから。でも今の飾りは紐と金具と札で損してるかなって」

「その首飾りは、領内の作り手から私が引き取って、土産物屋へ卸した品です」

「うん! お店の人から聞いたよ! すごいね、若いのに」

「どうも」


 レナと目が合わないし、返事がつんつんして聞こえる。

 同い年くらいだから、仲良くなれるかなって思ったんだけどな……。


 私、何か失礼なことを言っちゃったかな?


「えと、令嬢向けなら、もっと可愛いほうがいいと思ったんです。それと、恋人同士なら、二人で持ちたくなる形がいいかなって。あと、旅の記念なら、ハイモア港に来た日を書けるスペースが──」

「貝殻に絵を描いて、紐を替えれば売れる、と?」


 言葉を遮られてびっくりして、残りの言いたいことが飛んでしまった。


「あ、はい……どう、かな?」


 レナは返事をしなかったけど、機嫌が悪そうな顔のまま、紙からは目を離さない。


 ゴードンは腕を組み、スケッチを一枚ずつ見ていた。


「貝殻は余ってるし、細工職人も呼べるし、紐も金具もある。問題は、絵を誰が入れるかだな」

「私が描いてもいいですか?」

「お姫さんが?」

 聞き返され、私はすぐに答えた。

「はい!」

「じゃあ、試作用の貝殻はこっちで選ぶ。そこへ絵を入れてくれ。描き終わったら持ってこい。あとは職人に仕立てさせる」


 ずれかけたスケッチを、ラルフが横から押さえた。

 レナの視線が、ラルフの手に向く。ラルフは気づいているのかいないのか、紙を重ねて私へ戻す。


「お嬢様、まずは工数と試作数と費用を確認してください。お小遣いで済む範囲ですよ」

「分かってるよぅ。灯台と花のペンダントを三つ。二枚でつながる絵を二組。まずはそれくらいかなって……多い? 二、三日あれば描けると思うんだけど……」


 多かったかな、と心配していると、ゴードンが紙の端へ試作にかかる金額を書いた。


「その数なら、材料と職人の手間を合わせて……このくらいだな」

 ラルフは書かれた金額を見て頷く。

「問題ありません」

「えへへ」


 ほっとして笑うと、ぶはっ、とゴードンが吹き出した。

 レナは私とラルフの様子を気にしてる?

 ……なんでだろう?


「いいぜ。うちで試作を受けよう。お姫さんが絵を入れて、仕立ては職人に任せる。販売の話は、試作品を見てからだ。ただし、うちの商品として出すなら、売り場で恥をかくものは置かねえ。一週間後、そこは俺とレナが厳しく審査する」


 ゴードンは私へそう言ってから、レナの頭に手を置いた。


「レナ、それでいいな?」

「……」


 レナは不服そうだったけど、断らなかった。

 そのかわりに、ラルフを見上げる。


「あの……ラルフさんは、またこちらにいらっしゃいますか?」


 んん? 機嫌が良さそうな声色?


「はい、お嬢様の付き添いですので」

「そうなんですね! いつでも大歓迎ですので、お気軽にお越しください。お待ちしてます」


 態度が違いすぎない?

 ……色々決まったから、別にいいんだけどね。

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― 新着の感想 ―
勝手な想像で、腰の曲がった総白髪のかわいいおばあちゃんが、若いころに流行っていたアクセサリーを内職でつくってると思っていました。若い人だったか~。
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