33.会えない日々に宝石作り②
寒天と水を鍋へ入れ、火にかけてきちんと溶かしてから砂糖を加える。
覚えている濃さまで煮たら五つに分け、赤、青、黄色、紫、緑に色をつけた。
それぞれ平たい器へ流し、固まったものを切り分ける。
形が揃いすぎると宝石らしくないので、手で割ったものも混ぜた。
作った日の琥珀糖は、まだ表面までぷるんとしていた。
それが翌日、二日後、さらに何日か経つと、外側へ細かな砂糖の結晶ができていく。指でつまんでも形が保てるようになり、噛めばシャリッと割れたあとに中のクニュッとしたところが残った。
「わあ……」
私は赤を一つ食べてから、青にも手を伸ばした。
赤も青も味は同じである。でも、並んでいると別のお菓子みたいに見えるのだから不思議だ。
試作品が完成した翌日、ミドルトン商会の応接間へ全部持ち込んだ。
机の中央に白い皿を置き、赤、青、黄色、紫、緑の琥珀糖を並べる。窓から入る光を通すと、色の濃いところと薄いところができていて、本当に石みたいに見えた。
色ムラさえも綺麗なんて、うっとりしちゃう。
ゴードンは最初の一個を食べる前に、皿を持ち上げて光へ向けた。
レナは食感を確かめたあと、五色を一度に作る手順を菓子職人に聞いていた。
ここから先は、可愛いだけで終われない。
五色に分ける手間、箱詰め、材料費。私は五色を残したいけど、一色で作るより手間が増えすぎるなら商品にはできない。
実際に同じ数ずつ作ってもらうと、容器は増えるものの、五色を別々に煮る必要はなかった。箱も色ごとの位置を決めずに混ぜて詰めれば、思っていたほど時間は増えない。
「じゃあ、五色でいけるね!」
包みも試し、浅い箱へ五色を混ぜて入れ、その上へ薄紙をかける形に決まった。
蓋を開けて紙をめくれば、赤、青、黄色、紫、緑が一度に目へ入る。
きらきらしていて、とてもときめく!
私は箱の蓋に入れる絵を考えた。でも、敢えて描かないことを決めた。
黒い箱の真ん中に、文字だけ入れた。
高級感があっていい、と好評だった。
見た目と箱が決まったところで、ゴードンが王都の話を始めた。
「これなら王都でも売れるぜ。向こうへ持っていけば、ハイモアより高い値をつけても買う客はいる」
そう言われるのは嬉しい。
でも、このお菓子はどうだろう?
「最初はハイモアだけで売りたいな」
私が言うと、ゴードンは理由を聞いた。
「ここへ来た人が買えるお菓子にしたいの。王都の店でいつでも買えるなら、ハイモアまで来て買う楽しみが減るでしょう?」
ゴードンは、王都へ出せば商会の販路を使えること、単価を上げても客を見込めること、ハイモアの名前をさらに広げられることを挙げた。
どれも商売としては筋が通っている。
だから私も、王都へ絶対に出したくないとは言わなかった。
レナは一日の製造量と箱詰めにかかる手間を書いた紙を見ながら、最初からハイモアと王都に分けて売るには数が足りないと言った。
だからまず領内で販売し、どのくらい売れるのか、一日に何箱まで無理なく作れるのかを確認する。その結果を見てから、王都向けを考えればいい。
ゴードンも、売れ方を確かめたあとなら異論はないらしい。
値段は、材料費や菓子職人の手間、箱と薄紙まで入れて考えた。
安くしすぎて作る人が困るのはだめだし、旅の記念に一箱欲しい人が手を引っ込めるほど高くするのも嫌なので、箱の大きさと中へ入れる数を変えながら、土産菓子として買いやすいところへ持っていった。
もう商品として完成じゃない?
そう思ったところで、ふと気づく。
……これ、夏でも同じになるのかな?
寒い時期に上手くいったからといって、一年中同じとは限らないかも?
「まず冬のあいだ売ってみるのは?」
「だな。夏だとどうなるか分からねえし。夏になったら考えようぜ」
ゴードンが言うと、レナも頷いた。
「販売数を決めて、売れ方と作れる数を見ましょう。暖かくなってからも同じように作れるなら、そのときに一年中売るか考えればいいです」
「じゃあ、冬のあいだ試してみよっか」
そのあと兄様にも販売計画を見せ、売る許可をもらった。
◇
琥珀糖を作り、店へ並べているあいだにも、季節は進んだ。
ハイモア焼きは涼しくなるにつれて販売数を戻し、案内図は秋から冬の版へ替わった。
私のところには、週に一度の間隔で王都から手紙が届いた。
ラルフの字は、教本の見本みたいに大きさも間隔も揃っている。対する私の字は丸っこい。
私は琥珀糖のことを何でも書いた。寒天作りで失敗したこと。五色ができたこと。レナと箱を選んだこと。ゴードンが王都へ持っていきたがっていること。
ついでに、お昼に食べた魚の骨が取りにくかったとか、姉様の新しい髪飾りが可愛かったとか、兄様が私の結婚後の家について土地代から調べろと言ってきたとか、全部詰め込んだ。
ラルフも、ナイト男爵家で起きたことを書いてくる。
男爵と剣の稽古をしたこと。男爵夫人から貴族として人前へ出るときの振る舞いを教わっていること。双子のジョニー様とジョン様が、時間さえあれば勝負を挑んでくること。ロジャー様とガイ様が家の仕事を教えてくれること。
試合へ出る予定も、家の行事も、ナイト男爵に同行して王都を離れる予定も、手紙を読めば知ることができた。
会う予定も立てた。最初に会う約束は晩秋だった。ラルフがハイモアまで往復できる日程を組めて、私も市場の予定を空けた。
ところが出発の前日から天候が悪くなり、王都とハイモアの途中にある道を通れなくなった。馬車は止まり、会う日は消えた。
年末には兄様とブレンダ姉様の結婚式があった。
ラルフにも知らせは出していたけど、養子になって最初の冬はナイト家の行事を欠席しにくく、兄様自身が向こうの家を優先するよう返事をした。
私は結婚式の翌週、姉様のドレスを便箋の端へ描いて送った。
冬のあいだ、琥珀糖は面白いほど上手くいった。
店へ並べた五色の箱は旅人にも好評で、予定した分が売り切れる日もある。乾かせば表面は見事に結晶化し、箱へ入れて何日置いても手へつかない。
春になっても、しばらくは変わらなかった。
これ、通年いけるんじゃない?
なんて期待した私に、季節は試練を与えた。




