02.謝罪しよう
聞いてほしい。
『謝罪したいので、会っていただけませんか』と、知っている限りの丁寧な言葉を並べてお願いしたら、きっぱりお断りされた。
……ち~ん(合掌)。
◇
ポール様とストーン公爵夫妻へ直接謝りたいと書いた手紙は、トリスタン兄様に確認してもらい、キャロル伯爵家で使っている無地の便箋へ書き直して正式に届けてもらった。私が自分で持っていくと言ったら兄様に却下されたので、使用人に託して。
謝罪を申し込みに来た女が門前待機を再開したら、反省どころか恐怖の第二幕だからね……。
とはいえ、謝罪なのだから会ってもらえるかもしれない。もう追いかけませんと伝えれば、ポール様だって安心してくださるはずだし、もしかしたら最後に一言くらい「お元気で」と言ってもらえるかも、なんて期待していた私は、三日後に届いた返書を読んで机へ突っ伏した。
返書に並んでいたのは、面会には応じられないことと、謝罪の意思があるなら書面で受け取ること。
しかも、ポール様の字ではない。
末尾に記された名前を見る限り、書いたのはストーン公爵家の家令らしく、癖のない文字が同じ間隔で並んでいた。
私とのやり取りを本人に一文字たりともさせまいという意思が伝わってくるようではないか。いとかなし。
うん。知ってた!
いや、ちょっぴり期待していたけど……まあ、私が逆の立場でも会いたくないからなあ。
二年間も恋文や贈り物を送り、出かける先を調べ、門の前で待っていた相手が、急に謝りたいので会ってくださいと言い出したら、新しい接近作戦を疑う。
不審者としての実績がありすぎるもん。
あーあ、積み上げたくなかったなあ、こんな実績。
◇
「では、謝罪文を書け」
返事を読み終えた兄様に言われ、私は自分の文箱を引き寄せた。
「はあい」
蓋を開けて、便箋を取り出す。
桃色に花柄、薄紫に金色の縁取り、角へ小鳥が描かれたもの。ほかにも香りをつけた紙や、光へ透かすと花が浮かぶ紙まである。
……お気に入りばかりだけど、謝罪に使えるものが一つもない。
なんで私ってば、こんな便箋しか持ってないの?
「兄様ぁ、この前と同じ無地の便箋ちょうだい」
「領地に帰る前に、お前用のものも用意させる。今後も正式な手紙を書くことはあるからな」
兄様はため息を吐きながら、無地の白い便箋を私の前へ置いた。
可愛くないけど、それを求めてる場合じゃない。
私は兄様にもらった可愛くない便箋へ向かい、ポール様を好きになったこと、悪気はなかったこと、お姿を拝見したかったこと、見守っているつもりだったことを、心を込めて書いた。
これだけ正直に書けば、私が反省していることも伝わるはずだよね?
書き終えた便箋を兄様へ差し出すと、半分も読まないうちに突き返された。
「書き直しだ」
「なんでよぅ!」
「『好きだった』『悪気はなかった』『見守っていただけ』というのは、どれもお前の事情であって、相手へ迷惑をかけた事実を軽くする言葉ではない」
兄様は便箋を持ったまま、眉一つ動かさない。
「でも、嘘は書いてないよ」
「謝罪文で自分を分かってもらおうとするな。許しも返事も求めず、二度と接触しないとだけ書け」
ぐうの音も出ないとは、こういうことを言うのだろうか。私の口から、「ぐぬぬ」とは出たけど。
兄様にもらった白い便箋をもう一枚取り、私は最初から書き直すことにした。
二年間にわたり、恋文や贈り物を送り、お姿を追うために行動を調べ、ストーン公爵家の周辺を訪れていたこと。ポール様とご家族、使用人、周辺の店の人たちへ迷惑と不快感を与えたこと。今後は手紙も贈り物も送らず、予定を調べず、会うために待つこともしないこと。返事も許しも求めないこと。
書いているうちに、私がしてきたことが紙の上へずらずら並んでいく。
二年前の私、どうして誰も止めてくれなかったの?
……ううん、ラルフと兄様は何度も止めていたっけ。
それを聞かなかったのは私だ。
自⭐︎業⭐︎自⭐︎得!
兄様は二度目の謝罪文を最後まで読み、言葉を足すことも消すこともなく、お父様へ渡した。
その日のうちに手紙はキャロル伯爵家の名でストーン公爵家へ届けられ、翌日には受領したという連絡が家令から届いた。
ポール様本人からの返事はなかった。
返事を求めないと自分で書いたのだから、ここで寂しがる資格なんてない。
分かっているけど、ちょっぴりしょんぼりするくらいは許してほしい。
「必要な謝罪は済ませた。領地へ戻る手配を進める」
兄様の言葉を聞いて、私は膝の上で両手を握った。
「……はあい」
「王都へ戻らないと決めたのはお前だ。今日の反省を、領地へ着いた途端に忘れるなよ」
「忘れませぇん。ポール様の予定表も、恋文の下書きも、調べたメモも全部処分しますぅ」
口にしたら、机や引き出しや衣装箱の隙間から、私の二年間がどっさり出てくる気がしてきた──いや、実際にわんさか出てくる。
翌朝から、ラルフと一緒に予定表や店のメモを集め、暖炉へ放り込んだ。
恋文の下書きは量が多すぎて途中で嫌になったけど、自分で作った不審者資料を使用人へ処分させるのは恥ずかしすぎるので、最後まで自分で燃やすしかない。
しかもラルフが横で枚数を数え始めたから、「数えないで!」と止める手間まで増えた。やめろいっ。
最後のほうは「燃え上がって塵となれ~」と口ずさみながら、紙を炎へ入れていった。
そして三日後、私はラルフとともに、キャロル領へ向かう馬車へ乗った。
二年間、ポール様を追いかけるために暮らした王都が、窓の外へ遠ざかっていく。
──こうして私は、王都から撤退した。
恋も予定表も大量の恋文も、全部ここで終了。
……領地へ帰ったら何をしようかなあ。




