19.お揃いバースデー①
四十匹のハイモア焼きが売り切れる日が続く中、私の誕生日がやって来た。
ジャクリーン・キャロル、十八歳になりました!
朝からお父様には抱きしめられ、お母様には髪飾りを合わせられ、ブレンダ姉様からはレース編みのリボンと香水をもらった。
兄様からは絵を入れて持ち歩ける革張りのケースと、王都から取り寄せた画材一式である。
なんと絵の具の種類が六十色なの!
お父様に至っては、包みを三つ抱えて私の部屋へ来たあと、「まだ届いていない物がある」と言っていた。
お父様ってば、もしかして兄様と張り合ってる?
ちなみに、今日はラルフの誕生日でもある。
ラルフも使用人たちに祝われて、料理長には好物の肉を多めに焼いてもらって、兄様からは新しい手帳と革靴を渡されたんだって。
兄様ったらラルフへ渡すとき、「靴底が減っていただろう、みっともないぞ」って言ったらしいんだけど……毎年ちゃんと用意してる時点で隠せてないよね、兄様のツンデレ。
夜には家族だけで私の誕生日を祝ってもらった。
食卓には魚料理と肉料理が両方並び、最後には苺とクリームを使った大きな菓子も出てきた。
苺はまだ高い季節なのに、お父様が取り寄せてくれたの。
ラルフは食事のあいだ、壁際に控えていた。
私と同じ誕生日なのに、並んで座ることはない。
ラルフはキャロル家で育ったけど、家族の誕生日祝いでは従者として働く。昔からそうしている。
だから、家族との食事が終わったあとに二人で贈り物を交換するのが、毎年の決まりになっていた。
いただいた贈り物を部屋へ運んでもらったあと、私は包みを抱えて二階の廊下へ出た。
廊下の途中には、庭へ張り出す小さなベランダがある。
領地にいた頃は、誕生日の夜になると、ここでラルフと贈り物を交換していた。
私がポール様の予定ばかり追いかけていた頃でさえ、ラルフへの誕生日の贈り物は忘れたことはない。
今思うと、あの頃の私は家族の予定さえ覚えていなかったのに、ラルフの誕生日だけは忘れなかったんだなあ。
……まあ、私と同じ日なんだから忘れようがないんだけどね。
ベランダへ続く扉の前には、ラルフが先に来ていた。
黒い従者服の上へ外套を羽織り、片手に細長い箱と、小さな包みを持っている。
「待った?」
「いえ。今来たところです」
「じゃあ出よっか」
扉を開けると、夜の冷気が頬へぶつかった。
「さ、寒いぃ……」
「だから厚い上着を着て来てくださいって言ったでしょう?」
「だってぇ、大丈夫かもって思ってぇ」
「毎年同じこと言ってますよ」
私が肩をすくめると、ラルフは扉を押さえたまま呆れた目を向けた。
庭の木々は暗く、向こうに見える町の灯りが点々と並んでいる。冬灯祭の頃ほど多くはないけど、港の方には船の灯りも見えた。
春が近いはずなのに、夜のハイモアはまだ寒い。
海風さん、そろそろ春へ交代する気はありませんか?
「ラルフ、お誕生日おめでと」
寒さに負ける前に、私は抱えてきた包みを差し出した。
「ありがとうございます」
ラルフは包みを受け取り、紐をほどいた。
中に入っているのは、黒の革手袋と、香辛料を利かせた干し肉である。
「ラルフ、指が長いから、普通のだと合わないから特注したんだよ。それと、こっちはラルフの好きな干し肉。胡椒が多いの」
「手袋、かっこいいっすね。気に入りました。あ、これ港の西にある店の干し肉ですか?」
「そう! 前にラルフが美味しいって言ってたでしょ?」
ラルフは干し肉の包みを見てから、私へ目を戻した。
「覚えてたんすね」
「まあね」
覚えてるに決まってる。
ラルフのことなら、割と知ってるんだから。
肉は脂が多すぎない方が好きで、魚なら焼いた白身をよく食べてる。
甘い物も嫌いではないけど、私ほど欲しがらない。
苦いのも、酸っぱいのも、辛いのも好きで、何でもよく食べる。
靴は飾りのない物を選ぶし、剣の手入れ道具にはかなりうるさい。物持ちがいいからか、実は縫物が得意。
意外に動物に好かれやすい。厨房で飼ってる猫ちゃんにたまに話しかけてるんだよ。可愛いよね。
「では、俺からも」
先に渡されたのは、手のひらに載るくらいの小さな包みだった。
「何これ?」
結び目をほどき、布を開く。
中から出てきたのは、白いうさぎだった。
もちろん本物ではない。手のひらくらいの大きさのぬいぐるみで、丸い体に長い耳がつき、耳の先だけ薄い桃色になっている。まんまるの目、ちょこんとした鼻。首には水色の細いリボンが結ばれている。
「可愛い……。耳が桃色だ。見て、ラルフ。尻尾も丸いよ」
「俺が選んだんだから知ってます」
「どこで見つけたの?」
私はうさぎの耳を撫でながら尋ねる。
「王都の店から取り寄せてもらいました。お嬢様、こういうの好きでしょう」
「好き! 大好き! よく分かったねっ」
うさぎを手のひらへ戻し、横から見て、後ろから見て、また正面を見る。
どこから見ても可愛い。
この子、私の元へ来るために生まれたのでは?
「十二年、いえ十三年も一緒にいれば分かりますよ。……それと、こっちも」
ラルフが細長い箱を差し出した。
「まだあるの?」
「ぬいぐるみ一つじゃ、あまりにも安かったんですよ」
「そんなの気にしなくていいのに」
私は笑いながら箱を開いた。
中に入っていたのは、細身の万年筆だった。
軸は乳白色で、金具には小さな花の模様が入っている。
持ったときに指へ収まりやすい太さだ。
「試し書きしてみてください」
渡された手帳の隅に、万年筆で魚を一匹描く。
「えっ……ピンクのインク? こんなの見たことないよ。どこで売ってたの?」
「売ってなかったんで、作ってもらいました」
私は万年筆とラルフを交互に見る。
「いつ?」
「けっこう前っすね」
「『けっこう前』って?」
「誕生日に間に合うくらい前ですよ」
ラルフからは当たり前の返事しか返ってこないし、私の口からは「可愛い」しか出てこない。
「インクがなくなったら言ってください。同じ色を頼めるようにしてあります」
「うん!」




