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19/23

19.お揃いバースデー①

 四十匹のハイモア焼きが売り切れる日が続く中、私の誕生日がやって来た。


 ジャクリーン・キャロル、十八歳になりました!


 朝からお父様には抱きしめられ、お母様には髪飾りを合わせられ、ブレンダ姉様からはレース編みのリボンと香水をもらった。


 兄様からは絵を入れて持ち歩ける革張りのケースと、王都から取り寄せた画材一式である。

 なんと絵の具の種類が六十色なの!


 お父様に至っては、包みを三つ抱えて私の部屋へ来たあと、「まだ届いていない物がある」と言っていた。

 お父様ってば、もしかして兄様と張り合ってる?


 ちなみに、今日はラルフの誕生日でもある。


 ラルフも使用人たちに祝われて、料理長には好物の肉を多めに焼いてもらって、兄様からは新しい手帳と革靴を渡されたんだって。

 兄様ったらラルフへ渡すとき、「靴底が減っていただろう、みっともないぞ」って言ったらしいんだけど……毎年ちゃんと用意してる時点で隠せてないよね、兄様のツンデレ。


 夜には家族だけで私の誕生日を祝ってもらった。

 食卓には魚料理と肉料理が両方並び、最後には苺とクリームを使った大きな菓子も出てきた。

 苺はまだ高い季節なのに、お父様が取り寄せてくれたの。


 ラルフは食事のあいだ、壁際に控えていた。

 私と同じ誕生日なのに、並んで座ることはない。

 ラルフはキャロル家で育ったけど、家族の誕生日祝いでは従者として働く。昔からそうしている。


 だから、家族との食事が終わったあとに二人で贈り物を交換するのが、毎年の決まりになっていた。


 いただいた贈り物を部屋へ運んでもらったあと、私は包みを抱えて二階の廊下へ出た。

 廊下の途中には、庭へ張り出す小さなベランダがある。

 領地にいた頃は、誕生日の夜になると、ここでラルフと贈り物を交換していた。

 私がポール様の予定ばかり追いかけていた頃でさえ、ラルフへの誕生日の贈り物は忘れたことはない。


 今思うと、あの頃の私は家族の予定さえ覚えていなかったのに、ラルフの誕生日だけは忘れなかったんだなあ。


 ……まあ、私と同じ日なんだから忘れようがないんだけどね。


 ベランダへ続く扉の前には、ラルフが先に来ていた。

 黒い従者服の上へ外套を羽織り、片手に細長い箱と、小さな包みを持っている。


「待った?」

「いえ。今来たところです」

「じゃあ出よっか」


 扉を開けると、夜の冷気が頬へぶつかった。


「さ、寒いぃ……」

「だから厚い上着を着て来てくださいって言ったでしょう?」

「だってぇ、大丈夫かもって思ってぇ」

「毎年同じこと言ってますよ」


 私が肩をすくめると、ラルフは扉を押さえたまま呆れた目を向けた。



 庭の木々は暗く、向こうに見える町の灯りが点々と並んでいる。冬灯祭の頃ほど多くはないけど、港の方には船の灯りも見えた。


 春が近いはずなのに、夜のハイモアはまだ寒い。

 海風さん、そろそろ春へ交代する気はありませんか?


「ラルフ、お誕生日おめでと」


 寒さに負ける前に、私は抱えてきた包みを差し出した。


「ありがとうございます」


 ラルフは包みを受け取り、紐をほどいた。

 中に入っているのは、黒の革手袋と、香辛料を利かせた干し肉である。


「ラルフ、指が長いから、普通のだと合わないから特注したんだよ。それと、こっちはラルフの好きな干し肉。胡椒が多いの」

「手袋、かっこいいっすね。気に入りました。あ、これ港の西にある店の干し肉ですか?」

「そう! 前にラルフが美味しいって言ってたでしょ?」


 ラルフは干し肉の包みを見てから、私へ目を戻した。


「覚えてたんすね」

「まあね」


 覚えてるに決まってる。


 ラルフのことなら、割と知ってるんだから。


 肉は脂が多すぎない方が好きで、魚なら焼いた白身をよく食べてる。

 甘い物も嫌いではないけど、私ほど欲しがらない。

 苦いのも、酸っぱいのも、辛(から)いのも好きで、何でもよく食べる。


 靴は飾りのない物を選ぶし、剣の手入れ道具にはかなりうるさい。物持ちがいいからか、実は縫物が得意。

 意外に動物に好かれやすい。厨房で飼ってる猫ちゃんにたまに話しかけてるんだよ。可愛いよね。


「では、俺からも」


 先に渡されたのは、手のひらに載るくらいの小さな包みだった。


「何これ?」


 結び目をほどき、布を開く。


 中から出てきたのは、白いうさぎだった。


 もちろん本物ではない。手のひらくらいの大きさのぬいぐるみで、丸い体に長い耳がつき、耳の先だけ薄い桃色になっている。まんまるの目、ちょこんとした鼻。首には水色の細いリボンが結ばれている。


「可愛い……。耳が桃色だ。見て、ラルフ。尻尾も丸いよ」

「俺が選んだんだから知ってます」


「どこで見つけたの?」

 私はうさぎの耳を撫でながら尋ねる。


「王都の店から取り寄せてもらいました。お嬢様、こういうの好きでしょう」

「好き! 大好き! よく分かったねっ」


 うさぎを手のひらへ戻し、横から見て、後ろから見て、また正面を見る。

 どこから見ても可愛い。


 この子、私の元へ来るために生まれたのでは?


「十二年、いえ十三年も一緒にいれば分かりますよ。……それと、こっちも」


 ラルフが細長い箱を差し出した。


「まだあるの?」

「ぬいぐるみ一つじゃ、あまりにも安かったんですよ」

「そんなの気にしなくていいのに」


 私は笑いながら箱を開いた。


 中に入っていたのは、細身の万年筆だった。

 軸は乳白色で、金具には小さな花の模様が入っている。

 持ったときに指へ収まりやすい太さだ。


「試し書きしてみてください」


 渡された手帳の隅に、万年筆で魚を一匹描く。


「えっ……ピンクのインク? こんなの見たことないよ。どこで売ってたの?」

「売ってなかったんで、作ってもらいました」


 私は万年筆とラルフを交互に見る。


「いつ?」

「けっこう前っすね」

「『けっこう前』って?」

「誕生日に間に合うくらい前ですよ」


 ラルフからは当たり前の返事しか返ってこないし、私の口からは「可愛い」しか出てこない。


「インクがなくなったら言ってください。同じ色を頼めるようにしてあります」

「うん!」

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