第十四話 夜明け前に鳴るもの(9)
二台の荷車が中央荷場を出たのは、それから半刻後だった。
残る塩袋は三台目に積み直され、谷の倉へ向かう札が掛けられていた。
まとめ役は、荷場番からサラの名が書かれた荷札を受け取った。
「北越えの賃は出せない」
「はい」
「仲間の熱を隠した者を、次の北荷には入れない」
「はい」
「残した塩は明日の便に回す。荷主には俺が話す」
まとめ役は荷札を荷場番に返した。
「恨むなとは言わない」
男は二台のあとを追い、北道へ出た。
やがて車輪の音は、北道の坂の向こうへ消えた。
サラは、自分の名が書かれた荷札が荷場番の札束へ戻るのを見てから、荷隊を見送った。
「返す薬箱が二つある」
荷場番は火床脇の返却棚を指した。
「下の宿まで運べば、北越えの三分の一」
「覚えてる」
「今日の昼に出な」
「分かった」
荷場番は二つの薬箱に背負い紐を通した。
新しい荷札にサラの名と「下の宿」と書き、サラへ渡した。
三分の一の賃金では、宿代と靴代の両方をまかなえない。
それでも、傷んだ足で下の宿まで運べる二箱が、今日の仕事として残った。
若い荷運びは火床の脇で眠っていた。
サラは、若者のまだ赤い頬を見た。
「あの人はどうするの」
「今日は動かさない。まとめ役が寝床と食事の代金を置いていった」
荷場番は眠る若者へ目をやった。
「明日、熱が下がったら本人に聞く」
火床の鍋から粥の匂いが流れてきた。
荷場番は最後の一椀をよそい、サラへ渡した。
サラはその椀をリュカに差し出した。
「留め綱、三台分だって」
「聞いてる」
「なら受け取って」
リュカは椀を受け取った。
薄い粥だった。
煮崩れた粒が、椀の底にわずかに残っていた。
リュカは椀の縁からすすった。かすかな塩気と温かさが、空いた腹へゆっくり落ちた。
サラはリュカがすすり始めるのを見てから、火床のそばに腰を下ろし、傷んだ右足を火へ伸ばした。




