第十四話 夜明け前に鳴るもの(8)
まとめ役は、並んだ二つの塩袋を見下ろした。
「三台を出すには、荷運びが一人足りない。荷を二台に積み直す」
「荷場の者も手を貸す。残る塩は倉へ入れる」
荷場番は三台目を顎で示した。
「半刻遅れれば、北風につかまる」
アシェルが言うと、まとめ役は即座に返した。
「だから、歩ける者だけで急ぐ」
「積み直しの遅れで、行ける者まで危険にさらすのか」
「半刻遅れる責任は、俺が引き受ける」
まとめ役は三台目の留め綱をほどいた。
「半刻を越えたら、二台で出る」
サラはアシェルを見た。
「歩けない私まで人数に入れたまま、急いで出そうとしないで」
サラは、石に降ろされた二つの塩袋を見た。
「止まってから見れば、誰が何を持てないか分かる」
サラは自分の右足と、革帯を外した若者を順に指した。
「札には、私の傷も、この人の熱も書いてない」
サラは白い板を柱の釘に掛け直し、荷場番を見た。
「いったん札を外して。今度は、私たちに聞いて」
荷場番は四人の腰から荷札を外し、「北」の字を下にして計量台へ並べた。
「サラ。北へは行くのか」
「行きません」
「若いの、あんたは北へ行くのか」
若い荷運びは、自分で外した革帯を見た。
「行きません。熱があります」
「あとの二人は、どうする」
残る二人は、伏せられた荷札ではなく、北道を見た。
「俺は行く」
「私も行く」
アシェルは、伏せられた四枚の荷札と、石に降ろされた二つの塩袋を見た。
灰鐘の溝に置いていた指から力を抜き、手を引いた。
それでも灰鐘の低い音は止まらなかった。
荷場番は北へ行く二人にだけ荷札を返した。
まとめ役と、北へ行く二人が塩袋を動かし始めた。
荷場番、火床番、夜番も加わった。
まとめ役は、サラに割り振っていた布包みを二台目へ載せ直した。
三台に積んでいた塩袋を、二台へ積み直した。
載せきれない分は三台目に残し、石に降ろされた二袋もそこへ載せ戻した。
三台目は、そのまま谷の倉へ返すことになった。
アシェルは、二台へ移っていく塩袋を見ていた。
積み直しの途中、塩袋の口から粗塩が一粒、石床へこぼれた。
リュカはそれを拾った。
灰鐘の石縁には、アシェルが手を離したあとも白い霜が残っていた。
リュカは粗塩を溝へ置き、親指で押した。
灰鐘の低い音が、一度だけ途切れた。
霜も塩粒も、石の上には残らなかった。
すぐに中央荷場の灰鐘はまた鳴り始めた。
少し遅れて、上門と下門の灰鐘が低く応えた。
計量台に残った二枚の荷札から、「北」の字は消えなかった。
それでも荷札は、もう震えなかった。
リュカの手元は、積み直す塩袋の陰に隠れていた。
若い荷運びは、その場に座って靴紐をほどいた。
サラも柱から白い板を外し、石床へ置いた。
ひびは、横線の真ん中まで届いていた。
それでも板は、まだ一枚につながっていた。




