第十四話 夜明け前に鳴るもの(7)
若い荷運びが、もう一度咳をした。
サラは足を止めた。
白い板のところへ戻り、革紐をつかんだ。
板を柱に打ちつけると、乾いた音が荷場じゅうに響いた。
板の横線に、細いひびが入った。
一台目の御者は手綱を緩めた。
荷場番は二台目の車輪止めを足で押さえ直した。
まとめ役も、先頭の綱から手を離した。
塩袋を持ち上げていた者は、その場で袋を石へ下ろした。
三台の出立が止まった。
「どの荷だ」
まとめ役は白い板のひびを見た。
サラは白い板を抱えた。
「荷じゃありません」
サラはまとめ役の顔を見た。
「さっき『行きます』と言いました。あれは嘘です」
サラは右の靴底を石から浮かせた。
「今の足では北へ行けません。私を北の荷から外してください」
口にした途端、右足の震えが膝まで伝わった。
「今外れたら、渡り賃は出ない」
「分かってます」
「次も声を掛けられるとは限らない」
三分の一の賃金。
払えない宿代。
買い替えられない靴。
サラは板の縁を強く握った。
「分かってます。私の荷を降ろしてください」
まとめ役がサラの革帯へ手を掛けた。
「それと、もう一つあります」
まとめ役の手が止まった。
サラは若い荷運びへ顔を向けた。
「昨日、私はこの人も平気だと言いました。あれも嘘です」
サラは一度、息を継いだ。
「熱があると分かっていました。私が外されたくなくて、隠しました」
まとめ役はサラの背から革帯を外した。
塩袋が石に落ちた。
重い音だった。
今日の仕事がなくなる音だった。
若い荷運びが、落ちた塩袋の横を通った。
「まだ行けます」
まとめ役は、サラの革帯を持ったまま若者を見た。
サラは白い板を抱え直した。
若者は一歩だけ北道へ進み、止まった。
自分の革帯に手を掛けた。
「でも、熱があります」
若者は自分で革帯を外した。
「俺も、外してください」
まとめ役が革帯を受け取った。
二つ目の塩袋が、サラの袋の横に落ちた。




