第十四話 夜明け前に鳴るもの(6)
夜明け前、最初に動いたのは火床の灰だった。
風もないのに、灰は火床の縁から中央荷場の灰鐘へ、一筋になって流れた。
次に、板屋根の奥で木札が鳴った。
一枚。
二枚。
三枚。
四枚。
荷隊の四人が休んでいた藁の上に、四枚の荷札が置かれていた。
四枚すべてに、「北」と記されていた。
中央荷場の灰鐘が低く鳴った。
少し遅れて、上門と下門の灰鐘も鳴り、足元の石が震える。
リュカは火床脇の藁から起き上がった。
荷場番は、四枚の荷札から名を読み上げた。
四人はそれぞれ札を受け取り、腰に下げて三台の荷車へ向かった。
サラは初めから起きていた。
右の踵は布の下で脈を打ち、板屋根の外では北道が白み始めていた。
同じ荷隊の若者が、その横に並んだ。
頬は赤い。
息も浅い。
それでも若者は靴紐を結び、塩袋の革帯を背に掛けていた。
まとめ役が板屋根から出てきた。
北行きの札を下げた四人が揃っているのを見て、頷いた。
「早いな。ちょうどいい」
男は四人を数え、サラの靴の下に残る血の跡をまたいだ。
「革帯を掛けろ。風が来る前に出る」
サラは息を吸った。
「はい」
声にした途端、息が喉で詰まった。
「サラ」
リュカの声が、その背を追った。
「今、北へ行きたいか」
サラはまとめ役を見た。
まとめ役もサラを見返した。
ここで迷えば、北の荷から外される。
「行きます」
「行くかじゃない。行きたいかと聞いた」
まとめ役が舌打ちした。
「話は歩きながらしろ。荷車を出す」
一台目の車輪止めが外された。
石と木がこすれる。
その音に、中央荷場の灰鐘の低い響きが重なった。
アシェルは灰鐘の石縁に片手を置いていた。
黒革の指先が触れた細い溝にだけ、霜が浮いていた。
サラの右足が、北道へ続く石坂にかかった。
踵から血がにじみ、踏んだ場所に小さな跡を残す。
若い荷運びが、その隣でふらついた。
倒れまいとして、若者がサラの腕をつかむ。
袖越しにも、掌の熱が伝わった。
「平気です」
若者は、誰にも聞かれていないのに言った。
昨日のサラも、血のにじむ踵で「平気です」と言った。
若者の手はすぐに離れた。
サラはその横を通り過ぎる。
止めれば、自分も外される。
「サラ、来い」
まとめ役が一台目の先から呼んだ。
板屋根を支える柱の釘には、太い横線を引いた白い板が掛かっていた。
手を伸ばせば届く。
だが手を伸ばせば、自分から三台を止めることになる。
サラは白い板の前を一歩通り過ぎた。




