第十四話 夜明け前に鳴るもの(5)
夜半、荷場番がリュカの寝藁を火床脇に敷いた。
三台の留め綱は締め直してある。
リュカが外套を丸めて枕にしようとすると、サラが板屋根の端で靴を脱いだ。
踵の皮は剥け、巻き直した布まで血で濡れていた。
「靴、縫える?」
サラは脱いだ靴を差し出した。
リュカはそれを受け取った。
革も底も、破れてはいない。
「靴なら縫える」
「じゃあ、縫って」
「破れてるのは、おまえの踵だ」
「そっちは縫えないの?」
「縫えない」
サラは靴を取り返した。
「役に立たない」
「よく言われる」
「嘘」
「時々は言われる」
サラは小さく笑った。
握っていた靴紐が、指の間で少し緩んだ。
荷場番は布を湯で洗い、傷んだ踵へ巻き直した。
「これで、どこまで歩ける?」
「下の宿までは歩ける」
「北まで歩いたら、どうなる?」
「峠の途中で傷が開く」
荷場番は布の端を結び、火床脇の返却棚を顎で示した。
空の薬箱が二つ置かれていた。
「あの二箱を下の宿の薬屋へ返す仕事ならある。賃金は北越えの三分の一だ」
「それだけ?」
「それだけ」
「じゃあ、北へ行く」
サラは靴に足を入れた。
「三分の一じゃ、冬を越せない」
「その足を潰したら、次の冬も越せない」
「来年より、まずこの冬」
荷場番は、サラが履き直した右の靴を見た。
板屋根の奥で、若い荷運びが咳を押し殺した。
サラは自分の靴紐を見下ろしたままだった。
中央荷場の灰鐘が鳴る。
サラは伏せた荷札に掌を置き、柱に掛かった白い荷止め板を見た。
そのまま、右の靴底を石床へ下ろした。
布の下で、踵が脈を打った。
リュカは火床脇の藁へ横になった。
夜明けまで、あと一刻だった。




