第十四話 夜明け前に鳴るもの(3)
日暮れ前、北荷のまとめ役が車輪を調べに来た。
「明日は夜明けと同時に出る」
男は四人の荷運びを見回した。
「北道の雪が緩む前に峠を越す。靴と綱は今のうちに確かめろ。朝になってから手間取るな」
サラは右足だけを荷車の陰へ引いた。
まとめ役は、石床の血と、隠しかけた右足を見た。
その口が開きかける。
サラは腰の荷札をひねり、「北」の字を向けた。
まとめ役は荷札を見て、次の荷運びへ目を移した。
三台目へ回ったところで、灰鐘のそばにいたアシェルが言った。
「荷札が北なら、四人で出る支度をする。朝になって一人外せば、積み直しで出立が遅れる」
リュカは、サラの足元に残った血を顎で示した。
「その足も見ないでか」
「北へ行けば金になる。止まれば次がない」
アシェルはそう言って、サラの右足へ目を落とした。
「だから、その事情を本人の答えにするのか」
アシェルは計量台、荷車、倉の入口へと順に指を向けた。
「この荷場で、一人ずつ答えるまで、誰が荷を止めて待てる」
「だから勝手に決めるのか」
荷場番が札束を腰へ差し、二人の間へ割って入った。
中央荷場の灰鐘が、また低く鳴った。
サラは腰の荷札を押さえた。
「サラ」
リュカの声が、鐘の余韻を断った。
「北へ行きたいか」
「行きたい」
「その足で、明日の朝に出たいか」
サラは口を開いた。
その答えより先に、荷車の男が「北」の字を見て、塩袋を背負う革帯を一台目へ掛けた。
「……今の足では、行きたくない」
リュカは一歩退き、道を空けた。
サラは腰から荷札を外し、「北」の字を下に向けた。
一台目の荷車から一歩離れた。
右の靴底が石をこすり、痛みに息が詰まった。
アシェルは初めて荷札から目を離し、サラの顔を見た。
「夜明けにも言えるか」
サラはまとめ役と、北へ出る三台を見た。
「……分からない」
サラは「北」を伏せた荷札を握ったまま、その場を動かなかった。




