第十四話 夜明け前に鳴るもの(2)
リュカが二台目の留め綱を締め直している間に、サラは荷車の陰へ入った。
右の靴を脱ぎ、踵に巻いていた布を取り替える。
外した布は、折り重なった内側まで赤かった。
「いつからだ」
声をかけると、サラは慌てて靴に足を入れた。
「見ないで」
「見られたくないなら、俺のいる荷車の陰で替えるな」
「皆、出立の支度で忙しいから、誰も見ないと思ったの」
「その踵では、北まで歩けない」
サラは靴紐をきつく締め直した。
血は革の内側に隠れた。
だが右足を着けば、肩が跳ねる。
「北で荷を下ろせば、冬を越せるだけの金になる」
「そこまでして行くのか」
「宿代と靴代が要る。今回歩ききらないと、次の荷札から名前が消える」
峠越えの荷隊は、足の速い者から声がかかる。
一度でも列を遅らせれば、次の北荷には呼ばれにくい。
「前に一度、隊を遅らせた」
サラの指が、靴紐の結び目で止まった。
「靴擦れを黙って歩いて、途中で動けなくなった」
サラは右の靴紐を親指で押さえた。
「あの時、次はないって言われた。今回は、人が足りないから拾われただけ」
「また黙って歩く気か」
「今度は最後まで歩く」
「その踵で?」
「歩けば、着く」
「着く前に足が駄目になる」
「止まったら、仕事がなくなる」
中央荷場の板屋根を支える柱の釘に、白い板が掛けられていた。
煤で太い横線が一本引かれ、上端の穴には短い革紐が通してある。
「あれは何だ」
リュカは顎で白い板を示した。
「荷止め板」
「どう使う」
「荷が崩れそうになったら、あれを柱に打ちつける」
サラは白い板を指した。
「音を聞いたら、荷を下ろす。荷車も止める」
「全部か」
「どの荷が危ないか、音だけじゃ分からないから」
サラは立ち上がった。
中央荷場の灰鐘が低く鳴った。
サラは白い板と、一台目の荷車を見比べた。
それから白い板に背を向け、一台目の荷車へ戻った。




