第十三話 灰鐘は鐘ではない(5)
キアラに追いついたのは、古い水路へ下りる分かれ道の手前だった。
霧はもう岩壁の上から落ち始めている。
道の先が白く薄れ、積まれた石の印も二つ先までしか見えない。
「右へ行くな!」
シェイラが叫んだ。
キアラの右足は、すでに古い水路へ向いていた。
声に驚き、足を止める。
右の道と左の道を見比べた。
「こっちが上へ行く道じゃないんですか」
「右は一度上がってから下へ戻る。
水路の見回り道だ」
「石の印は上を指してます」
「水が流れてくる方を示す印だよ。
上へ行く道の印じゃない」
キアラは唇を噛んだ。
シェイラが追いつき、肩で息をする。
「道を知らないって言っただろ」
「知ってる人が誰も来なかったでしょう」
「だからって一人で行くな」
「待っていたら日が暮れます」
「霧の山で迷ったら、日暮れどころじゃない」
「じゃあ戻れって言うんですか」
シェイラは左の道へ入った。
「ついてきな」
「谷の仕事は、どうするんですか」
「門を抜けた旅人を、霧の中で迷わせるわけにはいかない。
それも谷守の仕事だ。
呼び台はあいつに任せた」
シェイラは奥歯を噛んだ。
「大丈夫なんですか」
「あいつ一人に呼び台を任せるのは初めてだ」
「戻った方がいいんじゃないですか」
「戻れって言われると腹が立つね」
キアラは結び直した肩紐の端を引いた。
それから、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「私もです」
「知ってるよ」
二人は左の道を登った。
シェイラが振り返る。
「その綱、何に使う気だ」
リュカは門から借りた綱を持ち上げた。
「崩れた足場で使う」
「なら、後ろを歩きな。勝手に先へ出るんじゃないよ」
リュカが後ろにつく。




