第一章 6「終わる幻想、始まる日常」
「なんで俺なんだ?お前さんに会うのも初めだよな?」
「そうだよ。実はねえ、ボクはある世界を管理してるんだ。そこでちょー強くてちょー善良な人が欲しかったんだ。でもボクってば眷属もいない神様だからさ、どうしたもんかって思ってたら、そこで異世界の住人ってわけ」
「で、女神さんに選ばれたって訳か?」
世界を管理やら、眷属がいないなど聞き馴染みのない言葉に戸惑いながらも、女神を詰めていく。当の女神は飄々としているばかりで、質問には律儀に答えてくれた。
「うーん裁定基準はあるんだけど、一つは魂が善良であること。世界を滅ぼしかねない可能性の持ち主を選ぶわけにはいかないじゃん?その点で君はクリア済み。何せゲームバカではあるけど、フィクションなどの区別がつく大人だからね」
善良さ、なるほど。確かに世界征服や悪事を働く人間を嬉々として歓迎することはないということか。学生とかは偏見になるが、律することなく好き放題しそうではあるな。
自らの管理してる水槽に、わざわざ外部から有害そうなやつを入れるバカはいない。
「それとついでに救える人間なら、救ってやろうってね。それが君だよ有一くん」
「俺、か。理由を聞いても?」
救うべき人間。突拍子もない理由で選ばれたのか、それも異世界に。ほんの少しだけ俺である理由を、彼女に問い詰めた。
彼女は黙ったままで、俺が言いたいことを言わせてくれるらしい。
「なぜ俺を?こうして話しているこの姿も仮初で、現実の俺はもう歩くことも起き上がることもできないほど弱りきっている。そんな惰弱な俺よりも、もっと優れた人間が選ばれるべきじゃないのか!?異世界にいって何かをするんだろう、だったら……!」
「だからこそだよ」
「!」
つい感情の抑えが聞かずに、彼女を捲し立てるように口数が増えていった。だがそれを彼女は一蹴した。
「たしかに人間基準で言えば君をそれに該当するだろう。君の言う個々の優劣などは人が決めたことだ。それが正しくないとはボクは否定しない。
だがボクは神だ、人じゃない。人間どものよくわからない物差しを参考にするより、君を選んだ。その上で言う、君は今まで誰にも文句を言わず頑張ってきた。
どんなに苦痛に苛まれていようとも、決してそばにいる人物を呪わなかった。他者を巻き込んで自らの手で人生を終わらせることもできたはずだ。だけど君はそれをしなかった。己が運命と闘ってきた。その賞賛すべき不撓不屈の魂に神であるボクが惚れたのだよ、誇りたまえ」
まるで俺の全てを見てきたような言い草に何も言えなかった。誰も言わず、俺が隠してきたものだ。暴かれたようで口を荒げてしまう。
「そんな立派なもんじゃねえ!ただ諦めて何もかもに絶望してただけだ」
「ではなぜ今も生きている?人間は絶望の淵に追いやられただけで、生きようとせず死を選ぶはずだ。君の場合なら尚更死を選ぶはずだがな」
「それは……」
詰め寄る俺を、女神は一蹴する。まるで触れらない壁のようなもので遮られたが、今度は女神が詰め寄ってきた。
「君以外の人間のことも見てたよ。絶望した人間はすぐ死んだ、存外呆気なく、惰弱極まりないほどに、君はどうだ?」
「俺は……」
そう言われてしまっては反論すらできなかった。言われた通り、こんなに辛いものならすぐ終わらせることもできたはず。
「君は本当は生きたいのだろう?」
「……!」
その言葉は誰かに言いたくても言えなかった言葉。だがそれでも誰かの迷惑になりたくはなかった。皆が優しすぎるからだ。
「たとえ本心を隠そうと、最後まで生きていたいと願ったのが君だ。だからこそ、君は今日まで生きてきたんじゃないか。だったら君にチャンスぐらい与えても、いいだろうってボクは思ったのさ」
「だから俺を?」
その問いを彼女は肯定するように頷いた。同時にこうも答えた。
「その通り。だが異世界に連れていくと行っても、世界への影響を考慮しないといけないけど、死ぬ間際同然の君なら問題ないだろう。それにその魂の色がボク好み……おほん。とにかく君にはチャンスをあげよう。どうだい?」
そうだ。本当は生きたかった。何も囚われず、皆のように思うがまま色んな事を、やりたいことをしたかった。でも俺は現実ばっか見て、最後まで我慢していた。
彼女にそう言われてやっと気づいた。真面目すぎたのだと彼女は告げる。だからこそこうして彼女の提案に、戸惑い、困惑を隠せなかった。
今までの人生振り返っても、幼馴染やその家族のおかげでここまで生きてこられたし、ゲームのおかげでこのチャンスに巡り会えた。
だったら折角もらった二度目の人生を始めるなら……
「……俺は生きたい、生きて誰かを助ける番だ」
「そういうと思ったよ、ようこそ私の英雄くん。歓迎しよう、この律と混沌が渦巻く世界へ」
心の底から出た偽りのない本心を、彼女へ伝えた。だが別の世界に行くと決めたのなら、この世界を去るということに少し後ろ髪を引かれそうになっていた。
「(最後に皆に挨拶ぐらいしたかったな)」
と思いながら思い出すのは世話になった義父たち家族。それと幼い頃からの付き合いのある幼馴染のあいつ。それから色々世話になった人たちに思いを馳せてながら、女神について、ダンジョンの奥底へ向かう。
後から知ったが、この時の俺はすでに魂だけ存在で、現実の自身は眠ったまま死を迎えたことらしい。俺は元の身体を労いながらもご苦労さまとおやすみなさいと心の中で思うことにした。
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そうして有一が現実世界からロストした後に、一つのスレが立てられた。内容はヴァルツの目撃情報の更新と出没エリア情報。
それ以降も彼の名は、エンデス内でも燦々と輝きながらも過ぎ去る時の中に埋もれていく。本人なきランカーの称号は、彼本人の殿堂入りをもって次の者に引き継がれた。
皆が忘れていく中でただ一名、有一の捜索を諦めていないプレイヤーがいたが、彼女もまた数奇な運命を辿ることになる。
「絶対、絶対に見つけてやるわよ、有一……!」
現代編はこれにて終わりになります。




