第一章 4「灰被りの地下墓」
「しっかし……このダンジョンはなんだ?攻略wikiにも載ってなかったぞ」
このダンジョンを見つけた時はウッキウキではしゃいで攻略に勤しんでいた。変化を感じ取ったのはB1をクリアした時だった。
もちろん今までの経験に基づかない異質な空気は感じ取っていた俺には、このダンジョンは怪しかった。
まず今までの開発陣が作り上げたきた、数々の精密で練られたダンジョン達とは毛色が違うこと。初心者が作ったような簡素的な迷路のようなフロア構成のくせにB1の時点で、配置されているエネミーとトラップの難易度が高すぎる。
次に他のプレイヤーがここを見つけたという形跡がない。いくらなんでもとネットを漁ったが、報告例がないのだ。
俺がここを発見からとうに何ヶ月たっているというのに、今でも俺以外のプレイヤーからの目撃情報や挑戦報告が皆無なことも不可思議である。
これら得られる全ての情報を踏まえた上でこの迷宮自体を疑っていたが、運営への報告を控えていた。
何せここは未発見ダンジョンなのだから。そのダンジョンの第一発見兼攻略者として、俺の中のゲーマー魂が求めていたのだ。喝采を。
これほど熱中するほどハマったゲームなら尚更であったので、報告するのもクリアしてからと決めていた。
そんな滅多に得られないワクワクするようなチャンスを逃したくない。そこにあるはずのない自らの心臓の鼓動が昂っていく感覚は生を実感させてここを、今だけは独り占めしたい。
だからこそ失敗はできない。何せ誰も踏破したことのない未開拓ダンジョン。油断しないように心がけても、未知数しかないこの地下墓で気を抜くことはできない。
「ここからB2ってとこか。ってなんだあの看板。やけに目立つが…いや殺風景すぎるだけか?もしかして罠、とか……?」
B2にはB1のような迷宮フロアと違った景色がそこには広がっていた。
そこは清潔感のある石のレンガで構成された場所であり、それ以外は変哲もない木製の看板が、フロアのど真ん中にあるだけで、特に目新しいものはない空間。
胡散臭い感じがして嫌なのだが、進むしかないので看板の前まで進んだ。
「拍子抜けだな。昨日のB1だってモンスターの群れが、迷路に山ほどいたんだがな。ふむ……?やはりこの看板が鍵か?」
B1では入り口からボス部屋まで、びっしりとエネミーが配置されていた。それも大型エネミー1匹に小型エネミーが数匹のいやらしい配置であり、タイマンできたのはボス相手のみであった。
そんな敵配置とトラップ解除が溢れていた迷路がB1の大半で、攻略に時間がかかってしまった。だがここB2には、拍子抜けするほどに看板以外何もない。
これならばB1のあのモンスターの群れと戦う方が楽しいじゃないかと少し落胆するも、同時にここをさっさとクリアして次へ行こう。そう思い込むことにするほど、俺は単純であった。
そう、俺はゲームが好きである。特にバトルがあるRPGが好きだ。大好きだ。
思い返せば、あの迷路にいたモンスター達は通常個体よりも耐性や無効ガン積みがほとんどで、弱点をつけばこちらのリターンのもわかりやすくて助かる。
その快感こそ俺がバトルが好きな理由の一つかもしれない。
防御力やHPが多いくせに弱点を突くと脆くなるやつ。耐性などで尋常なまでに固いくせにクリティカルで簡単に死ぬやつなど。
だからこそ面白い。俺からトライアンドエラーが活かされる時に悦を感じるし、ちゃんと弱点や対策した上でこちらが有利に戦う快感こそがゲームを楽しむスパイスだと思っている。
「えーと、なになに、試練の間……?ほーん、ギミック系ってことか?最近じゃもっぱら火力やらデバフとか必須なボス攻略とか多いが……こういうのも初めてだな」
触れ書きを読み終わっても看板周りは相変わらずの殺風景。敵対モブが一切見当たらないのは、騒乱じみたモンスターハウスじみたB1と比べても物寂しいものだ。
それからも看板の前で待つも時が過ぎるだけで何も起こらない。時刻はここに来てから約10分経過していて、次へ行こうとした瞬間、地響きが空間内に鳴り響いた。
ごごごごっっ……!と右手側の視界に映る壁から、こちらの倍の背丈をもった《ストーンゴーレム》が身体を形成し、下への道へと立ち塞がった。
「こいつは……大物だな……!」
いつ見ても惚れ惚れするぐらい綺麗に現れるモンスターに、さすがと言わざるを得ない。ラグもバグもないリアリティ重視のエンデスの描くファンタジーに心が踊る。
何せ昔の据え置きゲームは、ほとんど機種が古いものだし、出現が遅いのはほとんどだ。なんなら消えたまま攻撃してくるケースもあったりする。
ゴーレムはゆっくりとだが侵入者である俺の元へ、ずしんずしんと歩き出す。先ほど出来上がったとは思えない安定性がある動きと、フロア一帯を揺らすほど重量を感じさせる歩みは凄まじいものだ。
俺は先手を打つべく駆ける。そのまま前傾姿勢でダッシュして懐へ飛び込んだ。ゴーレムが戦闘体制に入る前に、その無防備な頭上目掛けて、背中に背負った大剣を力任せに抜けば、重い一撃を叩き込む。
繰り出したのは大剣の初期技。斬るより叩き切るのが似合う大剣での《スラッシュ》がゴーレムの頭を襲う。
抜き放たれた愛用の大剣での渾身の一撃、自らのステータスを調整した際に獲得した筋力を活かした大剣の一振りは、重くデカいダメージを期待させる。
ゴーレムへの直撃の手応えと深く刺さらない行き詰まった感触が手に伝わる。怪訝そに一瞬だけ視線を剣筋から剣先を辿る。大剣は四角いゴーレムの頭を叩き割ってはいたが、仕留めるのは至らなかった。
───仕留め損なった。
そんなはずはないと俺が大剣を押し込もうとすると、ゴーレムも押し返すような強い反動行動を取った。俺はすぐさま大剣を抜くように引き戻し、後方へと距離を取るようにジャンプした。
俺に頭を叩き割られたはずのゴーレムは、俺を気にせず、何かを探すように手探りで探し回っていた。そして器用に手頃な石レンガを掴めば、自らの頭を石レンガを押し込んで簡単に修復させた。
だが修復を終えたゴーレムは、こちらへ反撃することなく、たた茫然と不気味なほどに、道に佇んで通せんぼしているだけだった。
「……一撃で葬らないといけないタイプか」
その場にただ佇んでいるゴーレムに対し、気合を入れるが如く再三大剣を肩で担いだ。俺の視線は有効打にならなかったゴーレムの頭ではなく、今度は無防備に近い胴へと狙いを定めていた。
さきほどの部位破壊攻撃も大した意味もなさない。ならばと、空中でバトルコンソールを指で動かせば、別のスキルを選択。
ゴーレムも俺のスキル発動を察知したのか、即座に臨戦態勢になった。ゴーレムは半身を捻るように右腕を振り被れば、此方へ重心を戻す勢いを乗せた拳をまっすぐぶつけてきた。
放たれたお手本のようなテレフォンパンチの風圧は凄まじく、対峙した俺にすらゲームだと忘れさせるほどの単調だが臨場感を体験させてくれる。
そんなパンチを触れるぎりぎりでかわし、その懐へ飛び込めるほどの距離を維持しながら、その無防備な胴へと飛び込む。
片手ではなく両手で持った大剣を、ゴーレムの胴の根本まで深く奥まで刺さるようにグッと押し込んだ。
パンチが不発に終わったゴーレムは、自らの肉体は押し込んだ異物《大剣》を抜こうとしているが、俺はその場から離れインベントリからもう一本の大剣を取り出す。
そのままゴーレムの脇から滑り込むように背後に回れば、大剣が刺さっている箇所へ、背中から二本目を突き立てて、重なるようにぶっ刺す。
そうやってゴーレムの中で二振りの大剣の刀身が重なり、そこから黒い液体が炎を伴うようにゴーレム内部を伝って、外部へと漏れ出している。
《酷腐の炎》、「デッドナイト」で獲得したスキルであり、武器に付与できるエンチャントの一種。効果は一定時間の確定ダメージ付与であり、エフェクトは黒い炎が剣身に纏うもの。
当初は発動条件が安易だったため愛用したユーザーが多くいたが、調整のアップデートにてそれが変更された。「武器による攻撃連続成功時」という前よりも使い勝手が悪いものになってしまった。
だがエンデスではスキルの発動条件にそこまで制限はない。先程の俺の攻撃でゴーレムの物理耐性や高体力を踏まえた上で、HPを全部削りきれないと断定。
ならばと確定ダメージを付与した攻撃で最後まで削り取る。確定ダメージは耐性すらお構いなしで有効であった。
液体を燃やすように燃え盛る黒炎に包まれながら、ゴーレムはご自慢の耐性や高HPが意味を成さないまま燃えていく。
ゲームならではの光景を、俺へ見せつけながら、先ほどまで動いていたゴーレムは後方へと倒れ、ただの石レンガの残骸となって朽ち果てた。
その瞬間ステージクリアを知らせるファンファーレが鳴り響くが、俺はゴーレムの元へと赴く。
先ほどまでゴーレムだった石レンガの残骸には、ドロップ品であろう宝箱が自己主張するように自らの端を見せていた。がさつに手探りで掘り出した宝箱を開けると、中には見たこともない一枚の世界地図しかなかった。
新しいエリアの宝の地図と判断して、即座にインベントリにしまう。そうしてうるさいぐらいに鳴り響くボス撃破のファンファーレを聴きながらもB2を下っていった。
振り返ることもなく下へと下ったので、俺はB2のフロアごと消えたことに気づくこともなかった。




