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第一章 3「変わり映えしないMMOライフ」

 いつもようにエンデスに降り立った俺。息を吸う必要もないのに、深呼吸を繰り返す。


 現実の俺が四角い独房のような部屋にいるのに、こっちの俺は偽りの肉体のままで、現実よりも広い世界を体感し、現実以上に体験している。

 果たしてどちらが俺にとって幸福なのか。なんてナイーブな独り言を脳裏で霧散させ、一歩踏み出して動き出す。


「さてと、今日も一丁やりましょうかね。ん……?なんかいつもより人が多いな。イベントでもあったのか?でもお知らせも告知もないよな……となると、なんだ?」


 宙を2度ノックするように触れると、街のマップが開かれる。マップには赤い点のNPCと、青い点のPCのそれぞれが確認できた。

 ほんの少しの違和感を証明するように、最近街にいるプレイヤーの方が多いのだ。


 しかし今の時期にイベントもなかったはずだ。それでも強いて言うなら万年開催されているはじめたての新規・復帰勢向けのキャンペーンクエスト程度ぐらいで、特段目新しいものはないはず……



「待てよ、今日の日付は……そうか、今日から夏休みか……だからやけに人が多いのか。まぁ、プレイヤーが増えて、盛り上がっていくのは良いことだ」


 本来であればこの時間帯は学生なら学校で勉強、社会人なら仕事だったりするが、ゲーム内日付を確認すると7/21日10:35であった。

 夏休みの突入したであろう学生プレイヤーは普段であれば、夜から増えるもの。それが朝からいるのだから、時間帯の平均人口が増えるのも納得だ。


 勝手に納得した俺は、開かれたままのマップを閉じ、いつもの日課を済ませようとしていた。

 とはいえ日課といっても、ほとんどは追加された新要素の開拓、新装備と新敵の情報種集などで、日課というより、それが俺の日常であった。


「しかし、最近のアップデートは多いな。もうすぐ5周年だからか?」


 プレイヤーからの期待を一心に受けた多忙なエンデスの開発陣は、ベータ版を発売してから現在までずっとアップデートを繰り返していた。

 その更新頻度は課金を要求するソーシャルゲーム(いわゆるソシャゲ)レベルに仕様や環境が大幅に変わったりする時期もあったほどだ。


 周年ごとの大型アプデ以外はシステム面のアプデを繰り返していたが、プレイ難易度は変わらないまま。

 クソゲーになりそうで、ならない難易度調整のおかげで、現ユーザーの大半がよくて中堅層が大半。俺のような廃人ガチ勢が占める上位層が少数であった。


 まぁ、エンデス運営陣が掲げる【10年遊べるのはこのゲーム!】が俺には嘘に思えなかったが、今の俺がエンデスのサ終まで見届けられる保証はないのが遺憾であった。


 人生に後悔している老人と似たような遺憾を覚えながら、石造でできた市壁に囲まれた街中を淀みなく歩く。がしゃんがしゃんと鎧の音と、金属のブーツが石畳を小刻みに立てる音が重なる。


 リアリティを追求したVRMMOゲーであるエンデスは、ほとんどプレイヤーの動作がとてもリアルだ。水を掬えば、透明度の再現性は凄まじいし、物を壊せば塵や埃となって、地面に残る。

 普通の人からすれば、気にする必要もないごく普通の体験であろうが、俺にはこちらの現象の方がとてもリアルに感じられた上、感動した。


 それは装備や服なども例外ではない。俺が着ている装備、まず目立つ全身真っ黒の全身鎧フルプレート、狼のような造形のヘルム、テキストやフレーバー、そうあれかしと付けられた傷跡なども、とてもリアリティがある。


 武器にも余念がない。背中に背負った大剣も、リアリティをベースに、ファンタジーゲームらしさを重視した造形に仕上がっている。

 まるで鉄塊をそのまま切断し、形を整えたような出刃包丁のような剣身は、リアルじゃありえない、ここだけのリアルだった。


「ここも随分賑やかになったもんだ」


 俺がいるこの街は、初心者向けの都市型拠点であるアーファという街。初期に選べる初心者向け序盤の都市の一つではあるのだが、中堅層や上位陣も利用するほど快適便利な街であった。


 アイテム制作から鍛造、交易、栽培etc……それらの遊び要素を最大限するにはもってこいの街であったのは間違いない。商店街のように店同士の距離も近いので、さまざまなギルドが空き家に押しかけ、結果として身動きすらできない超過密の街であった頃が懐かしい。


 運営からのアプデによるエリア増設されたため、今ではサーバーが落ちることもないが、依然他の街より規模が大きい都市型拠点となったので、依然として初心者向けであった。


「よ、ヴァルツ調子はどうだい」

「あぁ、ぼちぼちってところかな」

「そうかい、いつもの納品頼むぜ」


 素材屋と呼ばれるNPCとの会話を済ませる。このゲームは変わらない台詞とはいえNPCとも人間同士ような会話を楽しめるので、没入感を大事にしていることがわかる。



 そんな訳で頼まれた依頼のついでに、俺は変わった活動のために街を出た。


 ────────────






「よし、これで納品分は終わり……ってもう昼近くか。さっさと済ませねえて、あそこに向かわねえと」


 牛のエネミーの消滅を見届けた俺は、とある場所へと歩みを進める。移動の際には不意打ちPKを避けるため、〈迷彩竜ステルシースケイルドラゴン外套フード〉を羽織る。これを着るとこちらの初撃までステルス状態を維持する代物だ。


 日差しが届かない薄暗い樹海を、歩く。歩き続けて数分、樹海の奥、山肌にできた大きな窪みの奥底、目的地である塔のダンジョンに到着した。


 目的地であるダンジョンを俺がみつけたのは、今から2ヶ月ほど前、アーファの街で受注してこなかったクエストのクリアを始めた頃だ。

 逃げたエネミーを追った際に、偶然発見したのがこのダンジョンだった。




 迷宮ダンジョン


 エンデスでは都市以外はほぼ戦闘エリアである。モンスターエネミーとエンカウント、ギルド同士の抗争バトル、個人同士のPKなど、バトルフィールドではさまざまなバトルがある。


 そのフィールドマップ内にあるのがダンジョンで、プレイヤー達は探索者となり、モンスターエネミーやトラップ、最下層の強敵のボスを倒し、報酬を獲得する。

 俺が見つけた【灰被りの地下墓】も、ここ最近の俺の楽しみの一つであった。



「今日はどこまで進めるかな。」


 入り口を前にして入念に身体をほぐすような動作を行う。仮想空間だからこそ、こちらの動きを、リアルタイムで反映させる仕組みらしい。そのまま昨日マッピングした探索用の簡易地図を取り出せば、進捗状況を再確認する。


「昨日は確か……B1の出口でブックマークしてから寝たんだっけか、じゃあ今日はその続きだな」


 地図にピン留めしたブックマークの印を解除し、入り口から瞬時にB1の出口に転送された。瞬間移動の際に発生する視界が揺らされる感覚には、いまだに慣れないが、じっとしていると次第に収まった。


 B1の出口、ボスがいた部屋を後にして、下へと続く通路を下っていく。小綺麗な階段を降りていけば、B1とは違った空間が広がっていたが、無事B2に到着だ。


 天井を見上げ、辺りを見渡す。どういう構造の迷宮ダンジョンがわからないが、全く見当のつかない初見のフロアに俺は、不思議とワクワクしていた。


 そんな不思議の迷宮ダンジョンごとゲーム自体から俺自身を巻き込んで消えたことを知ったのは、もっと先のことのことであった。


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