第七章 2「集合」
少年は道を走る。さっきまで隣にいた俺を置いて、一足先に着いたギルドの扉を開けた。中にいた群衆は習慣とばかり来訪者に目を向け、興味をなくしたように元にあった視線の位置へ頭を動かす。
少年は普段であれば群衆の一人であったが、今日ばかりは事情が違う。苦楽を共にした同胞であるロロの元へ早歩きでギルド内を歩き、ロロとメライがいる2階の部屋へ向かう。
「仲間想いってのは冒険少年の特権だな」
少年ボックに遅れて、俺も遅れながら到着。駆け出しにあるまじき鉄鎧一式を見に纏う俺への好奇の視線を気にせず、ボックの後を追う。
歩けば軽めの金属音がする具足も、ギルド内の敷地に敷かれた赤いマットの前では踏みしめる音だけ聞こえる程度。
木造りの階段を登り、ボックの後を追うように2階の奥の部屋へ向かう。
「ロロ!」
部屋の扉を豪快に開けたボックは、ロロの身を案じる。ボックとて病み上がりだというのに、熱血タイプはおおよそ自分を蔑ろにするらしい。
「しー!っスよボックさん」
今にもベッドの上で眠ったままのロロを揺さぶりかねないボックを制止させたのは、俺たちよりも先にギルドに来ていたメライであった。
土埃で薄汚れた鉄兜を手拭いで拭いていた矢先にボックの突然の訪問。ボックの後ろから部屋を覗いた俺ですら、さぞ驚いただろうなと、床に転がる鉄兜を見る。
「……ご、ごめん。そ、それで!ロロの容態は!?」
「一応、疲れ切って眠ってるだけっすよ。神官の人と、薬師の人が診てくれましたから」
「そ、っか……よかった」
急に脱力し、床にへたり込んだボックの首根っこを掴んだ俺は、ボックが暴れる前に適当に空いてる椅子の上へ座らせた。
「邪魔ですよ先輩」
「……わりぃ、ちょっと気が抜けちまって」
「でも、みんな無事でよかったっス!」
「……だな、先輩」
「あ、あぁ……」
歯切れ悪そうに答えたボックと、俺の右手を握って両手で上下にブンブン上げ下げしてるメライ。ミチミチとメライの腕力で徐々に腕の付け根がもげそうになってヒヤッとしてる俺。なんつーパワーの子っと「痛い痛い」と言えば、やめてくれたメライ。
「とりあえず、これで本当に全部終わったな。メライも元気そうでよかったぜ?」
「そ、そんな!ヴァルさんが頑張ってたから、自分も頑張れたっス!」
「そうか?」
俺の視界には、パーティー全員のHPバーが見えている。普段よりは多少消耗してるのは、緑のバーより若干黄色ではあった。ロロも眠っているだけで、特に外傷もなさそうだ。
「あ、そういやこの後報告があるんすよね、全員集まった時にここに来るそうで」
「え、ここに来んのか?」
「そうっス」
ボックが信じらないといった顔持ちでメライに問う。メライはロロがいるベッドの隣へ座り込んで、投げられた問いへ肯定を示すように頷く。
何か差異なことが起きていたが、何も知らない俺は黙ったまま近くのソファへ腰を下ろす。
「でも、普通は下のカウンターでするんじゃねえのかメライ姉」
「それが、今回は特殊案件と判断されたようで、秘匿性があるらしいっス」
「特殊案件……!?」
酷く驚いているボックをよそに、首を傾げる俺。言葉から察するに、普通ではないことがわかるが、あえて今回は尋ねることで情報を得ようとした。
「特殊案件ってなんだ?」
「あ。ヴァルさんは知らねえっスよね?じゃあ自分が教えます!」
俺が素朴に”特殊案件”に尋ねると、嬉々として立ち上がったメライが俺の眼前まで近寄ってくる。その目には何も知らない俺への奉仕といった様子が見てとれた。若干距離が近いのは気のせいだろう。
「特殊案件ってのは、滅多に起こらない秘匿性を内包したクエストっス!こと特殊案件になるのは二つ条件がありまして。一つ、過去に似たような前例があり、その際の被害と情報を参照し、カテゴライズすること。二つ、そのカテゴライズの結果、危険度とどのランク帯でこなせるか吟味した上で、精査します。でも今回は特殊すぎて、まだギルドの中でも判断前っス」
「へ〜……その特殊すぎるってのは?」
部屋に備え付けであった小さな黒板片手にメライの説明を受ける俺とボック。俺は追撃の質問が飛ぶと、メライが頷く。
「本来であれば前例があって、前提条件である一つ目がないんすよ。なので今回は二つ目の条件を主軸に、自分たちの情報で最終的な精査を下すってことっス」
「でもよぉメライ姉、上位のランクの討伐とか前例がねえぜ?あれも違うのか?」
それはそうだな。前に一度だけ見たドラゴン相手の討伐なんて、過去にいた同一の個体でもないだろうし、種族ごとに討伐が発生してるのか?とまあ、狩ゲーでも似たようなフレーバーあったような気がする俺は、ボックの質問に頷いていた。
「それはですねえ、ギルド内で情報を把握してる相手だからっスね。確かに同一の個体はいないし、別個体になりますが、クエストが発生する前での情報収集が入るらしいっスよって、自分の兄がギルド内の査察官なんで教えてくれました」
へえ、お兄さんが。って教えていいのかよ身内に。まぁコンプラなんてもん、この世界にある……のか?
やけに詳しいメライの説明を受けたボックは、口を開く。
「つまり、今回は前情報もギルドにもない異常が発生したから、俺たちの情報で調書?するってことか?」
「端的に言えば、そうっスね」
頬杖ついて、淡々と述べるボックに同意するメライ。そこへドアをノックする音が聞こえた。
「失礼する、そろそろ宜しいか?」
ドアを開いたボックの目の前には、ギルドの職員と、口元を布で覆ったおそらくメライの言ってた査察官だろう。
彼らを部屋に招き入れ、俺たちへの調書が始まった。




