第七章 1「再起」
「ここは……」
少し長い眠りから覚めたボックは、上半身だけ身を起こし、今いる場所と周りを見渡していた。ボックは自分がいる場所が、倒れる前にいたダンジョン最下層の薄暗い場所ではなく、夕暮れが差してくる外の地面であったことに気づいた。
「……お?やっと起きたか」
そんなボックを見守るように石の上に座り込んでいた俺は、ボックの方へ座り直した。
「あんた……無事だったのか?ッ……ロロはッ?無事か!?」
「まぁまぁ落ち着けよ先輩。ロロ先輩も無事だし、念の為メライがギルドに運んでいったよ」
「そ、っか……そっか」
側にいないロロに気づいたボックは慌てふためき、急いで立ちあがろうとするのを手で制した俺は、彼を座らせたまま、そのままあのダンジョンでの顛末を伝えた。
ボックとロロが倒れた後のこと。その後のオークカーストとの戦い含めて、出来る限りの事を教えてやった。ロロも外傷はなかったが、メライがギルドへ運んで行った事も。
メらいのタフネスとあの気丈さには、俺からも褒めてやりたくなったが、「自分の役目っス」と言い放った彼女の横顔は少し、泣きそうにも見えた。
「あ、そうだ武器も返さないとな」
「武器?俺らのか?」
「ああ、ほい」
流石にインベントリから直で取り出すとこを見せるわけにもいかないので、先に取り出しておいたボックの双剣と、ロロの槌を彼に差し出した。
「ははは……無茶苦茶だな、ってロロのも?」
「すまねえな、俺が拾った時にはこんなザマだった」
「いいって、元は言えば無茶した俺様の招いた結果だ。まぁこんなになったのは残念だけど」
ボックは愛剣であった剣身が折れ曲がった双剣を鞘に戻し、双剣を労うように抱きしめていて、強く握りしめていた。
「そういや、あいつ、あのバケモンはどうなったんだ?」
ふと話題をオークカーストに戻したボックは、伏せていたオークカーストの生死について俺に尋ねてきた。
ふむ、とどう言ったものかと悩むことになった俺。無論考えていなかったわけではないが、どのみちギルドにも報告せねばならない事柄でもあった。
なので、嘘偽りなく教えてやることに。どうせ後でわかることだしな。
「一応、死んだとは思うぜ。あの崩落するダンジョンの中で生きているとは思えないからな」
「ほ、崩落?崩落ってなんだよ」
「あぁ?あのダンジョンで廃坑まで巻き込んでの崩落起きたのさ。ほら、あれ」
ボックの後ろ、廃坑の入り口を指差して見せる。昼に突入した廃坑の入り口は封鎖されており、メライが押して入り口を塞いだ岩の裏には、ギッチリと岩石の山が通路を埋めていた。
「そんなことが……あったのか」
「ま、そういうわけで、あの怪物も今頃地中の中だろうよ」
「……」
ボックはそれを聞いて、やせぼった顔つきを青ざめていった。
差し詰め、もし逃げ遅れていたら怪物ごと自分達が生き埋めになっていたという事実を、思い浮かべ想像してしまったのだろう。その仮定も噛み締めているのだろう。
震える右手を左手で固定するように押さえつけてはいたが、俺が立ち上がってボックの肩を叩いてやれば、次第に落ち着いていった。
「俺はこれからギルドに報告へ向かうんだ、先輩はどうだ?」
立ち上がった俺を見上げるボックは、恐る恐るだが口をゆっくり開いた。
「お、俺様も……いくぜ、リーダーだからな」
声を震わしたボックも、俺と並ぶように意を決して立ち上がった。おぉ、と俺は小さく声を漏らす。病み上がりというのに、その気概、その心意気を持った少年を、俺は少しだけ手助けしてやろうと思えた。
「いいぜ、ロロ先輩のことも心配だしな。行こうぜ先輩」
「おう!俺様がいなくちゃ話になんねえからな」
双剣を背負ったボックは俺を追い抜き、先にギルドへの道を歩き出していた。その後ろ姿のボックは健気にも、以前のような振る舞いを無理して、俺に見せつけているようにも見えた。
それが俺には、かつての幼い頃の友人の後ろ姿を重ねて、兜の中で苦笑いを浮かべた俺はボックの後を追った。
────この少しだけ、小さな冒険が全ての始まりであり、とんでもない大冒険の始まりでもあった。




