第六章 5「真激突」
────俺と目の前のあいつ、追うものと止めるものの激突が始まった。
初めは、お互い睨み合うように相対してはいたが、オークカーストが先に動いた。
自らの前脚を持ち上げ、風を切るように前に突き出す。2本の丸太のような太い黒足が、突撃槍の如く突き刺すように、俺の元へ届く。
「っ……と」
俺は両手に持った武器を地面へ落とし、突き出された前脚をしっかり受け止めた。
摩擦。後退。そして静止。
鋭利な槍と変わらないほど危険であった前脚二足の先端を、片手ずつで受け止めて掴む。押される形で数歩後ろへ下がった、俺は掴んだ前脚を地面へはたき落とす。
はたき落とされた前脚と連動し、引っ張られるようにクモの体躯は地面に倒れた。
そこへ飛び込んだ俺は拾い上げたボックの剣で、そのままオークカーストへ切りつけた。
「……!」
────オークカーストの上、クモの上に鎮座する人型の部分が動いて、俺の攻撃を弾いた。
ほとんど鋏のようになったオークの両腕が、ボックの二対の剣を弾いて反撃を繰り出した。
「ちっ……!」
それを躱し、折れそうになったボックの剣を雑にインベントリへ仕舞う。距離をとりつつ、手隙になった左手が腰に下げたロロのハンマーを抜いた。
「……面倒だな」
短く言い捨て、視界に映るタイマーをチラ見する。
皆の撤退完了まで残りの時間は04:00。崩壊は05:00となっていた。
「正念場かも、な」
────槌を片手に、オークカーストと再戦。地鳴りのような振動がフロアを揺らし、それから俺は何度目かの槌をオークカーストへ振るった。
俺が槌で甲殻を砕けば、オークカーストが暴れる。暴れ始めたらすかさず離れる、互いにうんざりするような、泥沼のバトル。撤退が終わる時間まで続いた。
力を制限せざるを得ない俺と、仕留めきれないオークカースト。
それでも撤退タイマーは崩壊より先に、00:00になった
「……ようやく、か」
止まったタイマーを横目で確認し、ようやく一息つけた。手に馴染んだはずのロロの片手槌は酷くくたびれており、ロロへ謝らないといけないレベルであった。
投げ捨てるように片手槌をインベントリにしまい、身分を偽った兜を脱いだ俺は、素顔を晒してオークカーストを再度目視した。
「……もう遠慮する必要もなくなった。てめえは5秒で倒す」
誰も彼もいない空間、正体がバレることもなくなった俺はインベントリから武器を抜いた。
メライの持っていた槌よりも大きい、戦鎚。鉄の小山を削って作ったような無骨さが滲み出ているだけの武器。
《戦鎚 ベルヴェク》
エリートエネミーのモブ巨人からのドロップ品。とんでもないSTRのステを求められる、ザ・脳筋武器。加えてデフォルトで防御無視もあって格上相手にも性能は申し分なし。
「圧倒的な暴力で叩き潰す……!」
まどろこっしい時間制限内での時間稼ぎ。フラストレーションが溜まっていく俺は、フロアをぶっ壊してもいいタイミングまで待っていたのだ。
戦鎚を肩に担いだ俺は、獣のように体勢を低く屈んだ。────そして跳んだ。
オークカーストが反応する前に、遠心力を加えた両手の大振り。お手本のメライの綺麗な構えを見てよかったと思いつつ、同じようにオークカーストの前脚を叩いた。
「せい!」
この世界において、化け物スペックの肉体による戦鎚の打撃は、文字通り空気を叩く衝撃波を産んだ。
戦鎚で叩いたオークカーストの甲殻はほとんどが砕け散り、前脚ごと体躯から捩じ切った。1秒
それでも戦鎚の勢いは止まらず、そのまま胴体へ前脚の残骸ごと接触し、粉砕していく。2秒
胴体にあったクモの瞳が次々と潰れていく音と、潰れた生々しい独特な腐臭を増していき、オークカーストを破壊していく。3秒
オークカーストの人型部分が俺へ攻撃の手を向けるが、戦鎚による自身の崩壊に巻き込まれる形で、人型部分が弾け飛んだ。4秒
そしてそのまま、俺の戦鎚はフロアの壁目掛けて、オークカーストを叩き潰した。5秒
「やっぱ、ぶっつけ本番はきちいな」
戦鎚を絶命したオークカーストから引き抜いたおれは、血払いしながら思いの外加減できなかった惨状を見て呆れた。
オークカーストはほとんど原型がないぐらい圧縮粉砕されており、また俺の体、特に右の二の腕がちぎれそうになっていたが、すぐくっついて治る。
力みすぎたのと、血を飲んで活性化した肉体の相乗効果で予想以上の馬力、STRになってるに違いない。
血を飲むのは余計であったと、自責しながら大地が揺れた。
「ヤッベ、今のでタイマー早めたか!」
戦鎚を取り出した時は00:50とあったはずなのに、今では00:30を切っている。
急いで戦鎚を仕舞って、瞳に刺さったままの自分の剣を回収する。俺が全速力で走っても、脱出するには10秒は欲しい。
────そんな中、俺はオークカーストからこぼれ落ちた黒い魔石と大きな甲殻の一部を手に取って、急いでフロアを後にした。




