第六章 3「冒険者たちの灯」
「まだやるつもりかい、先輩」
「……おうさ、俺様はまだまだやれるぜ!」
ぜいぜいと息を荒げて立ち上がったボックは、腰のバックから緑のポーションを2つ、瞬時に口から喉奥へと流し込んだ。数滴残るだけの空になった瓶をバックへ雑に仕舞えば、脇腹に負った傷口の血も、目に見えて止まる。
ロロも水色のポーションを天を仰ぐように飲み干せば、俺の視界に映る二人それぞれのHPとMPが、徐々にだが一定量回復していくのが見てとれた。
だがそれでも攻勢に出れるのは、この一回が限度。次で岩グモを仕留めないと、今度こそ撤退だろう。
「……ロロ!」ボックは後方を振り向いた「頼んだぞ!」
それに言葉を返さず頷くロロは、再度地面に膝をついて祈りと詠唱を始めた──。
先ほどよりも濃い魔力と視界に映るロロのMP消費、あの雷撃の呪文以上の奥の手でも使うのだろうか。岩グモも先ほどより大きく反応を示していた。
「俺様が先鋒、ヴァルさんとメライ姉でご詰めを頼む。判断は各々に任せる」
ボックは地面に転がっていたの2対の片手剣を拾い上げ、ぐるりと手の内で回し2本とも逆手に持った。腰に差したロロの槌が落ちないか確認し、準備を整えていた。
「先輩はどうすんだ?」
「知ってんだろ?俺様には殴るしかねえよ」
「じゃ、これで最後の一撃、ですね」
「ちげえよ、メライ姉。とどめの一撃だ」
疲労の色が見える顔に気丈にも笑みを浮かべるボック、俺とメライは珍しく驚かされてしまったが、自然と笑みが溢れた。
お調子者の夢見るガキと思っていたが、なかなかどうして勇猛であった。
「だったら、先輩を手伝うのも後輩の役目……かな」
俺も片手剣を抜けば、ボックの右後方へ立つ。俺をチラ見したボックは静かに頷き、その顔は少しだけ嬉しそうであった。
「自分も頑張ります!」
遅れて返事を返したメライは鎚を構え、どっしりとボックの左後方へ並ぶ。
「……いくぞ!」
ボックは声を張り上げ、思いっきり飛び出した。空中に舞う岩石の破片が、ボックの顔を掠めていくが、そんなこと気にせず岩グモの元へ走り出した。
俺とメライもそのままボックの後を追うように、追従し始める。
岩グモは目の前に迫るボック目掛けて、三つほど岩弾を吐いた。俺たち一行の眼前に迫る岩弾を、ボックの後ろから俺はメライを投げ飛ばし、メライがボックの前に躍り出た。
槌を構えたメライは、腰を低く、体勢を維持したまま岩弾と対峙した。
一つ目は渾身の振りかぶった鎚で砕き、破壊。
二つ目は鎚と合体していた大楯で受け止め、その際に生じた衝撃を踏ん張りながら耐え、なんとか岩弾を横へ受け流した。
だがメライが防げるのは2度が限度。最後の岩弾は防ぎきれない。
「────よくやったなメライ、俺の番だ」
最後の一番大きい岩弾に向かって、ボックとメライを押し除けた俺は、円盾越しの右ストレートを岩の塊へ殴りつけた。
「うおおオオオラァァァ!」
普通に考えたら、腕に巻きつけた小さな円盾があるとはいえ、ただの殴りで岩の塊を壊せるわけがない。だが、俺は普通ではなく、化け物の吸血鬼である。
皆に隠しているステータス、人間離れしたSTRの暴力を込めた殴りの一撃は、いとも簡単に岩弾にヒビを入れ、皆の前で易々と砕いて見せた。それを見たボックたちを唖然とさせたが、俺は声を上げた。
「いけよ先輩!────決めてこい、とどめの一撃を!」
ボックは頷き、俺を見ずに走りを継続し勢いを殺さず、逆手に持った片手剣2本に力を込める。
ボックが覚悟を決めて向かう先は、ダメージで負傷した胴体にある岩グモの頭であった。
「キェェェェエェアアアアア!」
吠える岩グモはボックを食らおうと、大きな口でボックを丸呑みしようとしていた。
「ちぃ!」
ボックが身を捩って避けようにも、散らばった岩石が邪魔で動きが制限される。
そこへ空を切るように、ボックの後ろからひゅいんと鈍い閃光が煌めき、岩グモの瞳一つにめり込む。
「あっ……!」
岩グモの目に刺さった剣、ボックにはそれが俺の剣だと一目で分かったようで声に出していた。
「ったく、介護プレイは久しぶりだぜ」
現状できる最後の援護として、俺は抜いた片手剣を振りかぶって目にも止まらない速さで投げ撃った。
投げ撃った片手剣は岩グモの眼球を貫き、柄で止まるまで深々と激痛を与えていきながら、岩グモの眼球の奥まで刺さった。
「ギャニアアアアアアアアアアア……!?」
瞳にめり込んだ片手剣に悶えるように攻撃を止めた岩グモは、半ば狂乱じみた悲鳴を空間に轟かせるように叫んだ。
「ロロ!」
ボックはロロへ向けて叫んだ。ロロも詠唱が完了し、充填した魔力を再度、岩グモに向けて放った。
「《フル・ライトニング・エス》!!!」
人の身で行う人力雷撃砲は右腕の付け根から、電撃の光が這うように掌へ収束していく。全ての光が集まった右腕の掌から、呪文を唱えたロロは、強く雷撃の槍はまっすぐと飛ばした。
雷撃の槍は以前にも増して、岩グモの頭に照準を捉え、一瞬で着弾。すべての力を使い果たしたのか、呪文を唱えたロロはうつ伏せで倒れた。
バリッ。
岩グモに刺さった俺の片手剣に雷の槍が着弾すれば、そのまま岩グモの全身へ、雷撃が伝わり走る。
「これで、終わりだ!!!」
間髪入れず、雷撃を喰らい終わった岩グモ目掛けて、ボックが2対の片手剣を振り抜く。
「戦技!」
逆手に持った2対の剣による斬撃。切り上げて交差するように振り抜き、そのまま交互の2連撃、そして終いに2対の片手剣同時に斬り付ける。
計6連撃の二振りの片手剣の戦技攻撃が、岩グモの頭へ追加ダメージを与える。感電状態でまともに動けなかった岩グモは、モロにボックの全部の攻撃を喰らった。
岩グモは身体を数回痙攣させ震わせたのち、今度こそ大きな砂煙と物音を立てて、岩の城は地に崩れ落ちた。
「や、やったぞみんな!」
ボックは振り向いて喜びを伝えようとしたが、メライと目が合った。
その目はボックではなく、その後ろを見ており、瞳には困惑と恐怖の色が映る。
前を向き直したボックは、眼前で倒れたはずの岩グモの頭から生えた腕に、入口隣の壁まで殴り飛ばされた────




