第六章 2「激突」
ボックと俺、二手に別れた俺たちはそれぞれの武器を携え、岩グモの左右両脚へと飛び出すように向かっていった。
大部屋に舞う砂塵を掠めていきながら飛び出す二つの姿に、岩グモは大きな単眼をぎょろめいて、後ろへゆっくりと後退していた。
「到着!」
俺は滑り込むように右脚へ辿り着けば、向かい側にいたボックも少し遅れて左脚へとたどり着いた。息をつく暇なくそのまま武器を構えた俺たちは、ほぼ同時に岩グモの両脚に攻撃を仕掛けた。
「ふっ……!」
「どりゃっ……!」
岩グモの光沢のある外殻に互いの武器をぶつけ、異なる音が空間に鳴り響いた。
まず小盾の円盾で殴った俺のシールドバッシュ攻撃が外殻とぶつかる。多少の耐久力が削られるのを目視で目撃したが、気にせず鈍器のように振るった。
「よし──通った!」
俺の膂力+打撃属性だったのもあってか、外殻を砕かず岩グモにダメージが通った。それに遅れて、鈍い音を立てて外殻にひび割れが入った。
「くそ、弾かれ……!」
だが片手剣を両手で振るったボックは、硬い外殻に大きく弾かれていた。大きく反発するように弾かれた片手剣に持っていかれる形で、ボックは一瞬でぐらりと体勢を崩した。
「……まずい」
それを目撃した俺は、すかさず初撃のバッシュに続き、二撃目のバッシュを繰り出した。小盾での打撃攻撃のコンボを加えて、ひび割れた箇所へと集中攻撃を仕掛ける。
初撃の様子見とは違い、加減なしの思いっきりぶん殴った分、予想通り外殻を割られた岩グモの敵意ヘイトがこちらに向いた。部位破壊による岩グモの敵意を十分に稼いだ俺は、即座に攻撃の手を止めた。
「シャアアアアア!」
無防備を晒していたボックのことを意に介さず、俺の方へ顔を向いた岩グモは、閉じていた口を閉じ、そのまま再度口を開いた。
「……!」
強化されていた視力のおかげで、攻撃を直視した俺は、さらに後ろへ大きく飛び下がった。もの数秒後、俺がいた位置には大きな岩石がフロアの地面にめり込むぐらい埋もれていた。
再度口を閉じた岩グモは喉奥を鳴らし、腹から同じように岩石弾を再装填するように蠢いていた。
「(この大きさの岩石に圧死されたら、流石に動けなくなるな)」
「にゃろう……!どこ見てやがる!」
俺へのヘイトが向いている間に、ボックは持ち上がった片手剣を地に下ろせば、体勢を整えた。
それから数拍の呼吸を整えたのち、再度攻撃を仕掛けた。
が、今度は脚ではなく別の部位を狙うべく、岩グモの間合いに飛び込んだ。片手剣を片手に姿勢をできるだけ低くして、岩グモの脚の隙間を潜るように駆けていけば、脚よりはまだ柔らかいであろう胴体へ。
その動きは攻撃を当てるだけしか考えていないの突貫行動、やれやれと内心思いつつ、こちらからサポートしてやる必要があった。
「ちょっくら先輩を援護しますかね」
「お待たせしました!自分も出るっス!」
「ぬ?」
後ろを振り返れば、背中に抱えていた大きな丸盾を手に持った金槌のようなハンマーの面に貼り付けたような、全く見たことない武器を携えていたメライがいた。
準備ができた彼女が参戦してきてくれたので、現場でできる最大限の援護できる準備が整った。
「メライか!ならお前さんは左脚だ。俺は正面から行く!」
「了解っす!」
パッと見るからに打撃武器であるなら、残った左脚にも有効だろうと踏んだ俺はメライに指示を出したのち、真正面から岩グモの正面に乗り出た。
ボックが攻撃を当てる前に誘導すべく、急いだ俺は岩グモの真正面に立って、拾った小石などを岩グモへ鋭く投じ、できる限りのヘイトコントロールに努めていた。
「おりゃあああ!」
その掛け声はボックが胴体の真下へ到達したことを教えるもの、ボックは無防備な岩蜘の脇腹に向けて、全力を込めた片手剣の突きを胴体へブッ刺し、捻った。
岩グモの緑黒っぽい返り血を頬に数滴浴びたが、それでも吠えるように剣先から鍔まで押し込んだ。
「たああああ!よいしょおおお!」
メライも左脚に向けて、助走をつけて左脚の側まで近寄れば、そのままハンマーを大きく振りかぶってぶつける。
岩グモのほぼ無傷の左脚の外殻を、空間を震わすぐらいの衝撃音を立てて、見事に打ち砕いた。
オークの2メールを超える体躯であった岩グモを、ほんの少しだけ動かすほどのパワーで殴られたのだ、岩グモはバランスを崩したが、その牙城は健在で、まだ倒れなかった。
それよりも流石に胴体へのダメージより、左脚へのダメージがデカかったのか、岩グモは発狂するように岩石を宙へと撒き散らして、地団駄を踏むように暴れていた。
「ちょ、あぶねえっす!」
メライは振ってきた岩石を、できるだけハンマーで砕いて発狂攻撃を凌いでいた。岩グモの近くにいたボックも、片手剣を岩グモに刺したまま、瞬時に俺の隣まで戻ってきた。
「……ロロ!まだか!?」
「いけるわ!伏せて!」
息が荒いボックの怒鳴る声に応じたロロは、ロザリオを天に掲げた。
「天におわす白き神よ、我が祈りに応じ、我が敵を打倒する力を!────《フル・ライトニング》!」
ロザリオに光が集光すれば、一瞬で眩い光が集結し、ロロが突き出した右腕から凄まじいほどの光量の電撃の槍が放たれた。
雷鳴はフロア内で轟き、岩グモの胴体を瞬時に貫く。
「キシャアアアア……!」
詠唱が長い分、貫いた雷の槍は命中……というよりは、ボックの刺した片手剣に着弾し、それを媒介に岩グモの内部から身を焼き切った。
図らずも雷属性の片手剣による攻撃になったわけだが、それでも致命傷とはならずに岩グモの動きが少しだけ鈍ったように見えた。
「まずいわ、あれで仕留めきれていないとなると……手強い個体かも知れないわ」
「あぁ。いつものノーマル岩グモならこれで仕留めきれたはずだが……」
ボックに耳打ちしたロロに頷くボック。メライも急いで戻ってきたので、第1ラウンドは振り出しに戻った。
「ロロ、槌貸せ」
「いいけど、何するのよ?」
「こうなりゃ、地道にダメージを当てて、体勢を崩してもう一度雷撃を浴びせるしかねえ。ヴァルさんとメライ姉もまだやれるか?」
槌を腰に下げ、もう一本の片手剣を抜いたボックが俺らに尋ねてくる。俺はまだまだ余裕なので腕を上げ応じ、メライも頷いたのち、気合を込めてハンマーを構え直した。
「だが弱点か、有効打がねえと厳しいぞ先輩」
────その言葉に、静まり返る。四人が思っていたことをあえて俺が言った。そうするとわかっているボックが口を開いた。
「わかーってる。岩グモの弱点はあの頭と背中だが、ぶっちゃけ狙うなら今は胴体が狙い目だと、思う。ロロは時間がかかっていいから再度詠唱を。二人は俺と攻撃だ」
「わかったわ」
「はいな!」
「よし。────仕掛けるぞ」
ポケットから黄色の液体の入ったポーションを飲み干したボック。《スタミナ回復ポーション》は俺の目に映るボックのスタミナが回復していく。
瓶を投げ捨て地面に落ちた瞬間、双方が動いた。
「っしゃ!いくぜ!」
先手必勝ばりに駆け出したボック。次いで俺がボックのバックアップを担当、身重のメライは火力アタッカーではあるが、ロロの側で護衛・待機であった。
メライの背後に再度詠唱を始めたロロに勘付いた岩グモは、前へと動き出した。
外殻が擦れるように脚を持ち上げるよう動かせば、勢いをつけて地面を踏む。それだけで一種の攻撃になる行動を、避けて前に進むしかない。
それでもボックは岩グモに接敵するぐらい全力走ってた。それを見た俺はボックの言っていたことを思い出す。
「これから、どうするんだ?」
「あの剥き出しの脚たちと、脇腹を狙う!ヴァルさんも頼むぜ」
「おう」
そのタイミングが来たので、俺は後方にいたメライにわかるように指差しで誘導した。メライも承知した様子で近かった右脚へ、前と同じように駆け出していく。
「俺もこいつを抜くか……!」
現縛りプレイ中最高火力の、片手剣。《ラモールソード》最大限鍛えただけの製作級等級の武器。それを抜剣し、外殻が割れた左脚の柔らかい肉質へ剣を振るう。
ラモールソードの一振りは、容易に岩グモの肉を裂いた。外殻という防具を失った今、生身に晒された箇所に刃を振るえば、ダメージは跳ね上がる。
ゲームでよくある、極端に硬い部位を持つモンスターの部位破壊に成功すると、与えるダメージが増えるのだ。
それは一種のゲーム的仕組みであり、世界の道理でもあった。
俺の片手剣は肉を裂いたが、メライのハンマーは生身に衝撃を与えた。2度目のハンマーによる打撃攻撃により、岩グモは体勢を崩し、地面に倒れた。
「押し切るぜ!」
そこを突っ切ったボックの手が岩グモの胴体まで届く。刺さったままの愛剣を抜けば、岩グモは大きく身悶えた。
2対の剣、《ツインハンド・ソード》を構えたボックは、胴体に向け、己の力の限り切り刻む斬撃の嵐を振るった。
我流で荒いが、二刀流の練度とその戦闘センスだけで成している斬撃技。的確に刺し傷から傷を派生させるべく、斬撃を浴びせていくが……
「がっ……!」
岩グモの脚がボックの脇腹を掠めた。正確には身を捩って避けたボックは、岩グモから離れるように飛び退いて、距離をとって大きく息を吐いた。
それを皮切りに、荒く早い呼吸を重ねていく。
どうやら息を止めての連撃に加え、被弾したことも重なって酷い汗の滝が吹き出すように出ていた。
掠めた脇腹には血が出ているが、まだ動ける範疇の傷でもあった。
メライも果敢に攻めるが、タンク役がいなくなったので攻めるに攻めきれなかった。
「はっ!」
ロロも呪文を岩グモへ叩き込んだか、十分な成果を得られずにいた。
「(こいつは撤退した方が良さそうだ)」
俺とメライ以外はボックが負傷、ロロはMPが切れたのだ。これ以上の作戦続行は不可能だろう。
そうは思ったが、ボックが立ち上がった───




