第五章 幕間「最下層へ」
「俺が前に行かなくて大丈夫か?先輩」
「お、おう!問題ねえ!」
ボックのこの反応、慎重というには腰が引けていた。彼にだけ何かを感じ取ったのか、あるいは怯えているのか、あるいは見えない恐怖効果でも喰らっているのか?
「情報が足りないから、迂闊に動けないな」
いざとなれば、彼らを守るために、俺はこの鎧を脱いで正体をバラすしかないだろう。当然、俺の作戦も失敗になるだろう。
単独行動がバレた結果、アリサたちに怒られてしまうかも知れない。だが不思議と、俺は彼らを守るつもりであった。
今でも緊張と不安が混じる顔つきのボックとロロ、俺に付かず離れずついてくるメライ。
彼らに肩入れする義理もないはずの、ただの仕事仲間ではあるが、少しの間とはいえ、仲良くなった彼らを見捨てるのも、なんだかと思えた。
この世界に来てからお人好しになったかもしれないと俺は、自ら肩を竦めていた。
「(ひとまず安全第一、かな)」
そもそも作戦とは言うが、やったことのない成功率30%程度の拙い作戦。冒険者を偽って、俺に賞金首をかけた首謀者を炙るような仕向けた罠に、ほいほい引っかかるとは思えない。
それならば、今は3人の安全を優先することにしよう。
「む?」
「ヴァルさん?どうされました?」
俺の声に反応したロロは足を止めて振り返る。ボックも遅れてこちらに戻ってくれば、3人の視線を集めた俺は、口を開く。
「いや、道の先で血の匂いがしたもんで、どうしたもんかと」
「なにィ?」
「ち、血ですか?」
「あ、うん。バッチリと」
俺の話を全てを聞き届ける前に、ボックはランタンを片手に先の道に進む。ボックを追う俺を、メライとロロは互いに顔を見合わせて、続く形で後を追った。
「マジかよ……」
ランタンを地面に置き、確かめるように地面や壁を触れていたボックは、追いついてきた俺らに構わず、警戒していた。
「どうボック?状況は」
「わかんねえ。それよりもヴァル……さん!あんたよくわかったな、しかも後ろで」
その言葉にロロも同じ気持ちだそうで、何も言わないが同意する表情。怪しまれていると勘違いした俺は淡々と頷き返せば、用意していた言葉を紡ぐ。
「幼い頃から訓練してたもんで、血の匂いには敏感なのさ」
そういうことだということで、ボック達も納得してくれたようだ。
「どう思う?」
道の窪み、ゲーム風にいう小さいセーフティエリアに集った一同がランタンを囲むように座る。
俺が鼻がいいというアドバンテージを得たのか、幾分落ち着きを取り戻したボックは、パーティーリーダーらしく、拙いリーダーシップを発揮する。
「まず手分けして捜索するのは悪手だと思うわ。皆で行きましょう」
参謀らしくロロは異論のない意見を出し、全員が意義なしと頷く。それから各々の意見を参考にしたいボックは口を開く。
「俺はまず右だ」
「私は左ね」
「じ、自分は足が遅いんで、ついていくだけっす」
ボックとロロは見合わせたように視線を交差させる。左右どちらか、メライは身重を理由に逃げたので、最終決定権は見張りをしていた俺の発言に回ってきた。
代わると言ったメライと交代すれば、腰を降ろして重々しく口を開く。
「俺はどちらでもいい、と思う」
ロロはホッとして入るが、ボックと同様答えになっていないと言った表情だった。
「どのみち、この先何かいるのは明白。なら下手に緊張せず、自然体で対応しよう」
「あぁ、それしかねえな。ロロもいつもで頼むぜ」
「全く、無茶しないでね」
改めて編成を再構築した。
重武装で耐久力のあるメライが前衛。遊撃として援護もできる中距離に鼻が効くと思われている俺と、アタッカーのボック、最後尾に冷静に判断できるロロの編成。
セーフティエリアに出ると、四人でゆっくりと最下層への道を下っていく。
ここでの冒険は、すべての始まりであった。




