第五章 9 「地下への冒険は、終わらない」
「なんか最近の砂ネズミ小さい気がするな」
息込んでいたボックはやる気をなくしたように、殺したネズミの死体を足で転がしていた。
「そうなんです?」
メライがロロに尋ねると、ロロは頷いた。
「えぇ。こないだまではもう少し大きかったの。でも今は膝まで超えないわ」
巣穴に泥スライムの残骸を引きずる砂ネズミは、確かに小さい。小さいと言われたのだからそう思うだけかもしれないが、仕事をしてきたであろう二人が口を揃えていうのだから、間違いはないだろう。
それからも適度に泥スライムとネズミを駆除していきながら、深部へ潜っていく。
ボックいわくこの廃坑は次の階層で最後らしく、そこには最後の目標がいる。
だがそれは岩グモがいるはずの部屋の奥で覆されることになる。
「え、これダンジョンじゃないか?」
なぜか岩グモがいる大部屋(現地では岩グモの巣という表現)にいたスライムの群れを駆除すれば、ボックは松明ではなく、広範囲を照らせるランタンに切り替え、奥を照らしていた。
「嘘でしょ……こんな穴、前までなかったはずなのに……」
ロロも同意するようにボックの隣から深穴を覗くので、俺とメライも覗いた。地下への道は出来上がっているようだが、まるで”今朝にでも”出来たばかりと言ったところだ。
ここはただの廃坑で、ダンジョンではないのだ。なのにこの場所で、深穴は新たなる階層を拡張している。先ほどの二人の発言から未踏域のダンジョンが生まれていることを示していた。
「どうする?行くべきか?」
「上の判断を待った方がいいんじゃないかしら?」
「でも新しいダンジョンだぜ?俺様たちの功績になるかもよ」
「だ、大丈夫っすか……?」
「どのみち岩グモも探さねえといけねえんだし、行くしかねえだろ」
泥スライムと砂喰らいは規定数に達した。残りはこの廃坑のボス格、岩グモと呼ばれる存在の調査ならびに討伐である。
「ったく残業になっちまったが、頑張るか!」
本来の岩グモは滅多に地上に上がらない、この深部の大部屋に生息しており、先ほどの大部屋に本来ならいるはずだとボックは律儀に教えてくれた。
個体数も少なく、大きい親グモが子グモ達を背中にある岩の中で育てているらしい。だが岩グモは滅多に動かない性質で、親グモの生息域は不変のはずだった。
そんな出不精の岩グモが未知のダンジョンへ移動した、それを確かめるべく俺たち4人はダンジョンへと降りていく。流石に未踏破なだけあって、全く人の手がない地下道になっていた。
「お?こいつは……」
道を下っていく途中の道中では、見事な大きさの鉱石などが見られた。ボックは目ざとく鈍い色の鉱石と白ずんだ鉱石を確保した。
両手に抱えるほど鉱石を集めたボックは、中身スカスカのバックに放り込んでいく。報告の際に持っていく分と、自分たちが使う分だそうだ。一方でロロとメライも必要数の両方の鉱石をバックに仕舞っていた。
「それをどうするんだ?」
俺も適当な鉱石を道具を使わず、素手でごりっと引き剥がせば、にぎにぎしながら尋ねる。
「これをギルドに出せば、別の報奨金が出るのさ。なにぶん今は鉱石とか不足してるみたいで、ある程度は俺様たちが頂くわけよ」
「えぇ。なんならある程度なら、発見者特権でお目溢しがもらえるの」
なるほどな。持った鉱石を皆にバレないように空間に放り込んだ。この空間もあれから使いこなせるようになって、入れたアイテムや素材を勝手に解析してくれるようで、それどれ鉄鉱石とエドラ鉱石と出た。
一般的な鉱石である鉄鉱石と、都市で売られている武器の材料になるエドラ鉱石らしく、売却価格もそれなりだ。
「でも鉱石って岩グモの餌なのに、手がつけられていねえな」
ボックはそっと呟いた。ロロも頷きながら、怪訝そうな表情だった。
「餌?」
「あぁ。岩グモは鉱石を食う魔物で、石ころから岩、鉱石とか食うんだ。最近は廃坑の鉱石はほとんど俺たち冒険者が採掘していくから、こんなに鉱石があったら食うと思うんだがな」
岩グモは獲物だけでなく、鉱石類も食べるらしい。食べた分だけ身体を硬くしていく習性を持っているが、冒険者達が鉱石を先に取れば、残るのは岩石や、石ころを食べるようになるそうだ。
つまりは耐久力と防御力で成長した岩グモを、駆け出しのウッドランクの初心者でも頑張れば倒せるようにギルド側が管理しているらしい。故に深度深めの魔物である岩グモの調査対象にするのも納得だ。
「……いくぞ」
何かの違和感を感じたボックの発した声に俺たちが頷けば、変わらず先頭をボックに、道の奥へと進んでいく。
暗黒、そう形容できるほど、全く光も全くない洞窟の中でも、魔法石で灯されているランタンの小さな炎が揺らめく。
「よ、よし、もう少し先まで行くぞ」
ランタンが照らす先もどこへ続くかわからない道で、先ほどまで鉱石を見つけてウハウハ小元気であったボックは、打って変わって浮かないままであったし、不安が声にでも出ていた。
「皆、油断しないように」
ボックの一歩後方にいるロロも同じ。ボックよりはマシ───と言えるかどうか定かではないが、少なくとも自分を律している背中は、気丈であまりにも小さく見えた。
「うぃ、だ、大丈夫でしょうかヴァルさん……」
少し離れ最後尾を務める俺の方へ寄るメライ。ほとんど光源なしの道を歩いているが、不安と震えが、俺の腕を掴む手越しに伝わる。
「まぁ、危なくなったら撤退すりゃいいだろうし…」
一方の俺は身体のおかげか、ほとんど普段の生活と同じぐらい明るい視界をもてているので、最後尾のはずなのにメライを誘導する係になっている。
一歩先も見えない二人と違って、余裕であった俺は、自らの視界内に映るパーティメンバーの情報、HPとMPで3人の生存を常に把握しようと努めていた。




