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第五章 2「思いもよらない時もある」

「かの大戦で生き残った古英雄たちも片手ほどで、その後はそれぞれの英華を進んでいったらしいです」


 つまり現状ネームドはいるにはいるが、かつての古英雄クラスのユニットはいない。そりゃそうだよな、大戦が起きたのは何百年前で、呼ばれた存在が人なら死んでるわなと。



「ついでザルザール帝国。帝国も生き残りであった古英雄バレンスラインが建国した国ですね。マリュード一世とバレンスラインはかつての戦友であり、今でも協定が施行されているので、ここ数百年は争ったことはないですね」


 帝国と王国、全く異なる大国同士は、それなりに秩序と平和を守っているそうだ。メリネは視線を横にずらし、指差す方向も別の国を指していた。


「その代わりに帝国は北と戦争中ですね」


「北?北っていうと」


 メリネの指を追うように視線を西から上の北へ向ける。王国と帝国、そして第三の国。


「ええ、ガリウス北軍国ですね。帝国と並ぶ強国ではありますが、数年前に帝国と開戦して、今も戦争中だとか」


 詳しく聞けば、北軍国が連合王国と一方的に同盟を組もうとしていた。それを北軍国の南下政策と捉えた帝国が容認せず、そのまま戦争に発展していった。


「大変だなこのあたりも」


「あはは……」


 俺の発言に苦笑いが隠せないメリネ。確か歴史の先生も雄弁に語っていたことだけは今でも覚えている。


「戦争も外交の果て!戦争に至ることはつまり!どうしようもなくなってしまった両者の末路!」と力説してた先生は、今でも元気だろうか。


 

「で、帝国を支援しているのがザリーとユートンが今の勢力図となりますね。彼らも強権的な北軍国に来られるのは嫌なのでしょう」


 メリネの声に引き戻される形で勉強に戻る。幸いゆっくりと解説しててくれたため、抜けはなさそうだ。


「なるほどなあ。なら今後の行き先はアリュローンかユートン方面でしばらく滞在がいいかもなあ」


 そう言った途端、メリネは少し浮かない顔をする。彼女は弟子であると同時に軍属の兵士であり、勝手にここを離れることはできないのだろう。


 俺個人への特使であればなんとかできるはずと総督は言っていたが、ほとんど無名である俺の元へ幾許かの名声があったメリネの派遣は、不確定要素が多すぎて、総督の上の立場である領主と貴族が渋っているらしい。


 それにこの不安定な状況で、大事な戦力を減らしたくないのだろう。

 


「そう悲しそうな顔をするな。俺たちもすぐに旅立つわけじゃねえし、稽古つけてやれる時はつけてやるさ。俺もまだまだ未熟だしな」


 ゲームの頃は、あえて被弾前提のまま突撃敢行。攻撃した敵やプレイヤーの血を浴びてHP回復しながら、再度高速で突撃かます脳筋プレイしてた頃に比べても、だいぶ弱くなったなあと思うぐらいには、おとなしい戦い方だし。


 おまけにリアルでの戦闘経験がない分、ステータスの差を抜いてメリネよりぶっちゃけ弱いだろう。


 なんて思っていること言わずにメリネを励ますけど、メリネは首を横に振り、浮かない顔のまま俺にあるものを手渡してきた。


「師匠……これを」


 どうやらこれがメリネが元気がない原因みたいだ。たかが紙切れ如きでこれほどしおらしくなるとは、いったい何が書かれているのだろう?


「ん?なんだこれ」


 なんの変哲もない一枚の羊皮紙。ざらざらとした羊皮紙を紐解けば、中には人名やら特徴が描かれたごく普通の手配書一覧だ。


 疑問が解決しない。なぜメリネが浮かない顔をしているのか全くもって謎であった。


「そこの最後に師匠が、載っています」


「……はい?」


 素っ頓狂な声を出しつつ、再度目を凝らす。黒い鎧、人を背丈を優に超える大剣。名を黒騎士 と 簡潔に新しく印したのか、インクが濃い。


「おいおい、これってまさか」


「そのまさか、です。師匠が賞金首になりました」


 嘘だ。なんの冗談だと言いたくなったが口を塞いだまま落ち着くように念じた。これは一体どういうことなんだ。


 俺はただ借りのあった人々への助太刀しただけで、なぜ賞金首になるのか。もしかして俺の正体がバレてしまったせいで、賞金首になってしまったのか?

 

 先程地図で見たどこかの国の人族主義の連中の仕業かと思ったが、断定するには情報が足りない。それにかけられた額もとんでもない高額だ。


「総督たちも一丸となって師匠の賞金首の抹消に申し立てしていますが、今のところ難しいままかと……」


「なんてこった……つか、なんでこんなに早いんだ?」


「わかりません。あくまで懸賞をかけてるのは帝国と、北軍の大国二つなので……」


 戦争中の国がわざわざ賞金首更新?それも名指しみたいな高額の賞金。もしかして捕まえた俺を戦争に参加させようってことか?


 そんな憶測に過ぎない考えもあり得そうだから困るので、思い込んでしまうとそういうことかと勘繰ってしまうのは、とても、とても……嫌な気分だ。


「一応これを知ってるのは上層部だけです。他の皆には伏せていますが、ここの情報の統制も持って一週間ぐらいかと」


「詳しい話が聞きたいから、総督のとこにでも行くか……」


 そんなことがあって、その日の晩に総督たちの元へ赴いた結果、俺だけ旅立ちを早めることになった。


 すっかり元気になったアリサも、事情を知った上で、俺について行きたがっていたが、危ない目に遭わすわけにはいかないと伝え、納得はして、この都市に残ることなった。

 寂しがり屋のアリサのことは、メリネに任せることになった。安全になれば、また一緒に旅に出ようと約束したので、大丈夫なはずだ。


 そうとなればと俺だけの作戦のために準備に取り掛かった。

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