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第五章 序幕「指針はどこへ向かう」

「────どうしたもんか」


 太陽は天まで登った頃、宿泊させてもらっている三階建の一室で、俺はただ呟いた。

 ベッドの真ん中に腰を下ろすと、残りわずかであろう銭袋を上下逆さにして揺らす。


 普通ならじゃらじゃら、となるものだが、そうでもない。緩慢に袋を振れば、当然中身が外に出れる。飛び出した貨幣は一枚、鈍い銀色の硬貨が一枚。手にとって眺めるように見つめて、再度袋へ戻す。


「銀貨一枚。当面は大丈夫だが……どうしたもんか」


 人生初と評したあの凄まじい戦いが終わった後、俺とアリサはご厚意に甘える形で、都市に滞在していた。おそらく今日で四日目になる。


 特に皆から歓迎されているらしく、最初こそ戸惑いを隠せなかったが、慣れというのは恐ろしいもので、たかがものの数日で、それが普通となっていた。どうやら俺はまだ人間らしい部分が残っていたらしい。


 だからこそ、新たに噴き出した問題に頭を悩ませているのだ。集中できずに気が散った俺は横を見る。

 ベッドに体を横にして眠りにつく唯一の家族であるアリサ。彼女の頭を適当に撫でてやると、まんざらでもない笑みを浮かべて、逃げるように寝返りを打った。



 利口で気丈な彼女には随分と迷惑をかけてしまっているなと思う。当のアリサも何もわがままも言わないのが、余計に鬱屈になってしまいそうだ。


 戦争が終われば少しはゆっくりしようと彼女に約束したはずなのに、これでは兄失格ではないか。アリサへの詫びを片手に、もう片方の手で握った羊皮紙を開いて、恨めしい気持ちを喉までで抑える。


「ったく、なんだよ”指名手配”って。しかもいい額してるじゃねえかよ」


 廃村でごく僅かだが、俺の先生を務めたアリサと健気に勉強した甲斐があって、この世界での常識などを身につけることができた。現実世界での教養の下地、経営シミュレーションゲームなどの豊富な見識らが合わさって、理解も早かったのもある。


 ……話を戻すが、簡単にだがこの世界での常識である貨幣についても理解出来ていたからこそ、今の俺が置かれている事の重大さを重く受け止めている。何せ一朝一夕で解決するとは思えない、少なくとも自力ではだが。


 信じられないことに、俺の首にかけられた賞金額は金貨一億枚で、それもご丁寧に生け捕り。自首したら半分でももらえないだろうか、無理か。


 それほどまでに、この世界での金貨の価値が凄まじい。

 日常的に使われる赤色に近いアザ銅貨、商人同士の取引、あるいは普遍的に使われる貨幣の中でも最上級であるデド銀貨。

 最後に国家が用いる中で、最も高価で、最も現実味あるザール金貨。


 普段使いの銅貨が日本でいう100円から1000円まで計算であり、100円以下の端数はないらしい。銀貨は差し詰め一万円札、金貨は100万円の1束といったところだ。


 そんな金貨をなぜか1億枚かけられた賞金首になってしまったのが、俺である。褒賞なら喜んで受け取りにでも行こう。アリサのために新しい家でも買ってもいいし、彼女の欲しがっていた本なども買ってあげたかった。


 なのに現実は懸賞だと来たもんだ。正直借金の方がまだマシ、かもしれないとだけ気怠げに思えた。

 気怠げから憤り、それから鎮火。それらを繰り返し、二度目の憤りの果てに羊皮紙を破りたくなってしまったが、危うく鎮火が間に合って羊皮紙を開く。


 ご丁寧に書かれた該当ターゲット項目には、こう書かれている。


 全身を黒い鎧に包み、魔物を屠る巨大な大剣、鮮血よりも深い真紅の長布を纏う騎士。


 とだけ書かれてはいるが、キャラクター紹介とフレーバーテキストに使えそうな語彙をご丁寧に並べてくださって誠にありがとうございます。

 ────確実に俺のことを名指してるだろうこれ。


 なぜ、なぜだ?

 そもそもこれほどまでに緻密な情報を有しているのか?他の賞金首なんて、言っては悪いが、特徴も聞き耳立てた程度で集めただけの、大雑把な特徴がほとんどだ。


 それに比べて、俺が公の場に出てたのはメリネたちの救援の時が初めてであり、あれから一週間も経っていない上でのこの情報伝達の速さである。


 おそらくだが、魔法使いが使役する使い魔的なもので筒抜けだと、総督は言っていた気がする。

 確かに生活していた際に監視カメラで見られていたんじゃ、そりゃ情報精度も高まり、人物像が精査しやすいか。


「しかし、なぜ今なんだ……?」


 再度話を戻す。

 現段階で最も重要な問題は、俺の首にかけられた賞金首をどうするべきかに尽きる。


 暴力と破壊の限りを尽くし、無くさせるのは簡単だが、俺はもう一人ではない。皆に迷惑をかけられるわけでもない。それに俺はアリサのヒーローなのだ。


 そう思うのは立派だが、いまいち解決の糸口が見えない俺は、うーんうーんと唸らせながらも、きっかけであるこの手配書を知るところまで遡る。



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