第三章 2「集うは灯火」
ドランの後を歩くようにしていた黒騎士こと俺の元に、その場にいないはずの声が届く。
「お兄ちゃん!」
「え?おま、アリサか!?なんでここに!?」
それは戦場で聞くには、いささか急であった。ドランの後を追う形で都市へと入った途端、後方からから自分を呼ぶ声。振り向くとそこにはアリサと女王がそこにいて、アリサは俺の元へ駆けていた。
「黒騎士殿、そちらの方々は?」
「あー……、えっと、俺の旅の、仲間?」
当然尋ねられると、どう答えたものかと、なんとか誤魔化して答えた。幸い、納得してもらったようで、余計な詮索をする暇がないのか、都市の内部へ進んでいく。
増えた人数ごと、俺達とメリネたちは、都市の中へと入ると、盛大な歓声が轟いた。なんだなんだと戸惑う俺の手を、メリネは掴んで心配しなくていいと教えてくれた。
そんなメリネの元へ、部下たちは駆け寄ってきた。自分たちの無事よりメリネの無事を大層喜んでいた傷だらけの連中は、誰一人かけることなく、喜びと歓喜に満ちていた。
助けてよかったぜと内心思っていると、部下たち一同はこっちに振り返って頭を下げてきたのだ。
「(え、お、俺ぇ!?)」
とすっとんきょうな声が出そうになる俺は自らを指差して周りに確認する。メリネたちも頷いていたし、部下達は礼を尽くしていた。
「メリネ隊長と、我ら一同を助けていただき、誠にありがとうございます。このご恩は我ら、いや都市全員が忘れることはありません!」
「あ、いや、うん。よかったよかった。皆が無事なのは俺も嬉しいし、それにほら、世話になったのは俺らの方なもんで」
「へ?それはどういう……あーーーーー!あ、あんた、いやお前さんは!」
黒い鎧姿なんて、忘れるほど激闘だったのかと勘繰ってしまうと、目を見開いて驚く兵士たち。ようやく気づいたらしい。
「その節はどうも、みんなを助けに来たぜ?」
俺が笑うと、連動した兜に浮かぶ目元がニッと表情のように緩む。その笑みを見た兵士たちは俺を思い出してくれたようで、俺たちに再会できて大いに喜んでいた。
「おい、話し込むのはいいが、お前らの隊長を治療師の元へ運べ!ほら集まるんじゃない!今は戦争中だぞ、さっさと食って寝ろ!」
「「「了解!」」」
副隊長も無事で、動ける部下達に命令を下してメリネを連れて医務室へ向かう。手隙になった連中は散って戻っていった。副隊長も、こちらに簡単に頭を下げて、踵を返して戻っていく。
だが休む暇なく次の襲撃が来た。
「報告!さっきのデカブツと同じ巨人2体がこっちにきます!」
「何!?奴ら引いたわけじゃないのか!」
「総督どうします!?我々ではもう……」
負傷者も多い中今戦える奴らをかき集めても勝てない。そう思う総督へ、俺が手を上げる。
「なら俺が行こう。アリサは治療と……アンタは適当に任せる」
「うん!」「承知したぞ」
二人にここを任せたと告げて、門から出て行こうとする。
「く、黒騎士殿!?いくら貴公とて一人では無茶ですぞ!」
「総督さん、そうは言うがここは俺だけでも戦うしかないだろう」
「しかし一人だけでは……」
「だったらわたくしも行くわ!」
そう言い放った声の主はこちらへ駆け寄ってきた。
「(なんか増えた……)えーと、こちらの方は?」
「わたくしはレーン・バルザガ。義によって、ここで戦っておりますわ」
テンプレじみた金髪のお嬢様。それも義によって助太刀しにきたって、どこの任侠なんだろうかと思う俺を尻目に、先の戦闘でも、軽傷で済んだ彼女も同行することになった。
どうすると総督に視線を向けるが、首を横に振って仕方ないといった表情のドランを見れば俺は頷くしかない。
それからレーンを同行させた俺は、戦場に再び立つことになった。少しの間横目でレーンを物珍しそうに眺めていたが、レーンは口を開いた。
「メリネ共々あなたに助けられたと聞きましたわ。この場いうのもあれですが、お礼を申し上げますわ」
「気にするな。俺と家族がメリネたちに世話になったからな、助けに行くのは当然だろ?」
「あら義理堅いのねあなた」
戦場だというのに、そんなことを交えて話していると、意外そうな顔でレーンが感心した。
「それに妹や俺もメリネには死んで欲しくないってのもあるな」
「それはわたくしも同じよ。皆友達ですもの」
高飛車お嬢様と思っていたが、意外に柔軟で強か。そう思っていると、山が動いたように、巨人二体が亜人軍の残党を引き連れ、戦場へ姿を現した。
「どうやらおいでなすったようだが……ん?」
2体がこちらにくる前に前方の片腕を切り落とした巨人Aも立ち上がれば合計で三体になってしまった。
「あの野郎、生きてやがったか」
「どうしますの?」
「レーン……さんは、戦えるのか?」
「レーンで良いですわ、黒騎士様。私もある程度自衛できますわ」
レーンは首にぶら下げたタグを見せつけてきた。どうやら冒険者の証らしい。
「わかった。自己判断で任せる。俺はあいつらぶっ倒してくるぜ」
「……勝てますの?」
「勝つさ。さっさと戦争を終わらせねえとな」
「ならば援護の準備でもしておきますわ、ご武運を」
「おう。一つ必勝の祈りでも頼むぜ」
そう言い放った俺は手と足を地につけ、足を地面に沈ませるように力む。ふぅ〜〜〜と息を全部外で吐き出すように体勢を低く屈めて、脱力。
レーンが見守る中、目にも留まらないスピードで、巨人達の元へ、飛び込むように地を蹴り上げた。
弓矢よりも、魔法よりも、はるかに勝るスピードのまま、敵目掛けて飛び出していく。その速さは、冒険者として様々な人物を見てきたレーンにすら、規格外。そう思わせた。
まず初手は手負の一体。手負いの巨人Aから仕留める。
それに気づいた巨人Aは迎撃するように、残った一本の腕を俺目掛けて振るってきた!。
「メリネに代わって、引導を渡してやんよ!」
迫る拳骨を前転するように空中で身を翻しながら躱していく。その回転を活かすように背中の大剣を抜けば、タイミングよく巨人の頭ごと切り裂くように
ザァン!!!
と真っ二つに縦に切り裂いて巨人Aの後方に着地した。
頭を真っ二つに切り裂かれた巨人Aは膝をつき、無いはずの頭から噴水のように出血しながら絶命していた。
俺はそれをもろに浴びる形となったが、この身体であれば何事もない。
強いて言うなら漆黒の鎧が真紅の鮮血の噴水で彩られていく様は、エキセントリックでおどろどろしいものかな、と柄でもないなと。
血の雨を浴びるその姿は、見る側は怖いだろうなと同情してしまう。それに加え刹那の合間のたった一撃で巨人を沈めたことは双方の陣営が沈黙に包まれるのは容易であった。
かたや強者の凄まじい一撃。かたや敵対者による痛恨の一撃。
俺は城壁にいたドランと視線が合う。
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たった一人増えただけで、この瞬間よりこの戦争における戦況の優劣は大き傾き始めた。
その光景を見届けたドランは確信した。メリネを助けにきたあの者はやはりただものではない。自分たち、いや王国においてもはるかに強い、過去の神話に出る英雄的クラスの大英雄存在。
助からないと思っていたこの戦争においてあの御仁こそ勝利の鍵。ならば……
「動けるものは巨人どもに攻撃!とどめはかの御仁に任せよ!ここで我らは勝利を勝ちとりに行くぞ!」
ドランは兵士たちを鼓舞する。震え上がって恐怖に怯えた兵士たちも戸惑っていたが、ヴァルツに助けられたものたちが彼に続けと言わんばかりに動いた。それに釣られるように攻勢に打って出たのだ。
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残る二匹も左右に分かれ、城壁にいた兵士たちに手を伸ばそうとするが
「正戦決闘!」
俺にタゲ(ターゲット)集中のスキルを使われた巨人達は、変な挙動を繰り出していた。具体的には無理に俺の方へ攻撃しようと、身体を捻ったりしている。
なぜか2体のタゲを取ってるはずなのに、実際攻撃してくるのは一体だけである。
「……?どうなってんだ?効果は出てるが、1on1しか攻撃対象にならない……?」
「ちょっと!巨人が2体こっちにくるのだわ!」
「レーンは下がってな。ここは俺がやる!」
「えっ……!?」
レーンを庇う形で大剣の腹で巨人の拳を受け止めた。体格差ですらこちらを押し潰すことはできないとわかった巨人はすかさず、身体を捻りもう片方の右ストレートをまっすぐぶつけてくる。
「ちっ!おらぁっ!」
大剣を退けた俺は、巨人の右ストレートを大剣を持っていない手で迎撃するように拳で殴る。
手加減する余地もない全力で殴ったヴァルツの拳は、迫り来る巨拳を弾き返するほどで、力負けした巨人Bの拳ごと右腕がひしゃげ、その余波で体勢を崩す。
そのままヴァルツは跳躍し巨人の顔面目掛けて遠慮なく膝蹴りを放つ。
膝蹴りをモロに受けた巨人Bの頭部が風船のように破裂し、頭なき巨体はうつ伏せのまま地響きを鳴らしながら倒れた。
ハッとした俺は近くにいたレーンを巻き込まれないようにおぶってその場を離れた。
「グギルゥゥゥ……ギャウ!」
奴には勝てないと判断した小鬼の王は忌々しそうに唸りながらも、巨人Cに特攻命令を下し、王と共に軍勢ごと戦場から撤退していった。
「もう終わりかよ。いや……まだ肝心の巨人が残ってるか。ん……?」
巨人CはAとBの死体を引き摺っていた。おぶったレーンも俺を高台がわりにして妙な行動に目を光らせていた。
そんな視線も介させず、巨人CはAの遺体を躊躇なく貪り始めた。
「(うげええ死体でも食うのかよ…飢餓にでもなってんのかねえ?)あー……レーンは見ない方が……」
「え、えぇそうね。あんまり見てても良くないわ。けどさっきからあいつの魔力が増えてるように感じるのよ」
「何?あいつまさか、取り込んで強くなる気か?」
バキッボリッ、ジュプ、ゴリッ……。無心で喰らう巨人Cは、AとBを喰らい尽くした後は前よりも肉体が隆起し、背中やお腹から腕を生やし、頭も3個になっていて、すごく気持ち悪い姿になっていた。
「え、キモ。なんで腕とか頭を律儀に生やしてんだあいつ」
ボソリと呟くがレーンには聞こえておらず背中で慌てていた。
「あいつ前よりも強くなったわ!」
「あ、こら落ち着け!暴れるんじゃねえ」
「攻撃を来るのわよ!」
「いっ!?」
それを聞いた俺は後方へ飛ぶ。さっきまでいた場所に拳が振り下ろされ、地面にめり込んでいた。
多腕となった巨人Cは間髪いれず連続で殴りかかってきた。それをなんとか躱し、隙あらば腕をぶった斬りにして切り飛ばす。
が、切り飛ばした腕は再生し、元通りになる。幸い切り落とした腕は再生することなくその場に転がっていたが、本体の方は腕を生やしていた。
「ど、どうするのだわ!?あいつ何度でも再生してますわよ!」
「めんどくせやつだな。よしまずレーン、降りてもらえるか?」
「ご、ごめんなさいつい、安心感あって……」
「ん、気にすんな。こっちも悪い気はしねえよ」
レーンを下ろした俺は多腕と対峙する。どうしたもんかと顎に手を当て考えていたが、さっきまで巨人達が残した血の海を見て閃く。
そう決まれば多腕巨人の股座をくぐり抜け、誘導するように血の海に向かっていく。巨人も釣られる形で案の定俺を追ってくる。
そうして俺は地面に溝を作るように剣を引きずるように疾走していた。誘導しながら血の海までを誘い込めば円を描くように作った溝の最後を描き切る。
「まぁやれるかどうかわかんねえが、やってみるか。血よ!我に従え!!」
自らの拳を握りしめた俺は、まだ試したことのないそのスキルを持って、拳の隙間から自分の血を円に注いだ。このスキルはHPの10%を消費し主に武器などのエンチャントで使うスキル。
本来は武器などに一時的な出血属性の付与をつける効果だが、今回は別の使い方をした。
そう、自らの血を付与することは、血を操ることができるということ。
そうやってHPを削った自らの血を円の窪みに注いだのは、そこに貯められた巨人たちの血と混ぜ、それらを操るため。
「よし、思ったとおり、ここの血をまとめて使える。処女の抱擁」
そう唱えた途端、大量の血を操って多腕巨人の肉体を刺して、血の円全部から無数の血の糸で飛び出て奴を拘束した。
エンデスだと敵一体の行動回数を封じるだけの拘束技だが、実験がてらに用意した条件でとんでもない結果を生み出した。
「じゃあ、こいつでとどめだ。<血母神の歓喜>」
剣を円へと突き立て、大量の血に火が走る。フレーバーにはヴァンパイアたちの真相たる母神へ捧げる技らしいが、実際はこちらもただの炎エンチャントだ。
ちょっと工夫して対象は血だけに限定してみた。
このスキルも元のゲームだと大したことないが、今は血の糸を伝って多腕巨人を燃やす勢いで血の糸に導かれるように多腕を一瞬で燃やしていた。
「これじゃメイデンというより火刑あたりだな」
再生するタフなやつなら、どっとダメージ込みで燃やしてしまえ。どんなゲームでも面倒なやつはいたが、こちらの世界でも有効だったらしい。
待っている間にもレーンは追いついたようで、共に火のアートを眺めていた。
「倒したん、ですの?」
「あぁ、見ての通りだ。ちょいと派手にやりすぎちまったが、こうでもしねえとまた再生するだろう」
煌々と燃え盛る炎を眺めながら、小鬼の王も完全に撤退したようで、長い前哨戦には勝つことができた。だが依然として油断はできないままであった。




