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第三章 ???「冬鳥」

 メリネ・フェン。それが私であり、それ以外には何もない。


 誇れるものも、私が勝るものも何一つなかった。私は貴族のフェン家の次女として生まれたが、我ながら大人しい子供時代であった。


 別に生まれに不満はない。親や家族が嫌いではない。むしろ皆のことが好きであった。貴族としての教育も己を磨く鍛錬も、衣食住が揃ってなお不自由がない貴族に生まれたことは幸福であろう。


 だけど歳を重ね成長していくことである歪さが隠せなくなってきた。


 一つ上の姉さんは、私よりも強く才能もあり、模擬試合や鍛錬では一度も勝てなかった。そんな姉はわずか11歳で騎士団に入団を果たした。そんな姉が憧れだった。


 だがその憧れは次第に私を苦しめていく。どれほど鍛錬を積もうが、時を削り捧げようが、その差が埋まることなく突き放されていく。


 自分勝手な苦しさのせいで、姉が若干17歳で団長になったのを聞いても素直に祝辞をあげず、顔も合わせられなかった。


 もう一人の上の兄は武の才ではなく、魔法の才があったらしい。両親は惜しむこともなく兄へ援助した。そうして兄はみるみるうちに頭角を出し、入学した王国の学院で優秀な成績を残し、フェン家初の魔法使いとなった。


 何よりも辛かったのは、二人が私に優しかった事。厳しく当たってくれたらよかったのに、二人して自慢の妹だと言ってくれる。耐えられない。


 そうして月日が経つごとに眩い二人への暗がりな気持ちは膨れていき、姉さんからの計らいである騎士団への推薦を無断に蹴って、家も何もかも、全てを捨てるように逃げ出したのだ。


 逃げ出した先は、今でも覚えていない。安っぽい訓練用の長剣と革服だけの小娘が、無謀にも魔物との戦いに身を投じていった。


 今思えばとんだ自殺願望だ。死にたがりでもそんな道を選ばないだろう。だが自分に残ったものは剣しかない。剣からも逃げたくなかった。逃げたら辛い現実に浸って溺れていくだろう。


 そこから誰にも負けない強さを求めた。ただ強く、誰よりも強く。私の中に残った人間らしい機微すらも、ただ強さを求めていく過程で剣以外の何もかも捨て去ったまで強さを追い求めた。


 貴族のメリネ・フェンではなく、ただのメリネとして。 


 そうして戦っているうちに旅の旅団から護衛として見込まれ、時には野盗やどもと戦いながらも、故郷から遠く遥か彼方の交易都市アリューンへと流れ着いた。


 流れのまま強さを求めていくには限界があった。それを知っていた旅団長からの推薦で兵士となった。だが戦う場所が変わっただけで戦い続けた。


 そうして兵士として勤めながらも実績だけが積み上がっていった。だけどそんなものでは満たされない。18になったときも都市の領主から剣聖立候補への推薦されそうになったけど、断った。あるのは直向きな強さ、私という個の強さだけをただひたすらに求めた。


 でも私の強さはそこで終わる。精々亜人や魔物の群れを一人で切り伏せる程度の強さに収まってしまった。所詮は小娘の足掻きに過ぎなかったのだ。


 もうこれ以上強くなれない。その事実は何もかも捨て去った自分へ末路としては妥当なのだろう。そうして自分を慰めるように、剣を無為に振るう日々を過ごしていった。


 ある時、街のはずれで一人で鍛錬している時に旅の占い師と出会った。その風体は外套で覆われ顔の半分しか分からず、ボロい布が生きているように動くようにも見えた。


「そこの剣士さん、占いはいかが?」


「占い?こんな人気のない場所で?」


「ほほう、あたしが見えるとは、どうやらお前さんが最後の客らしい。運がいいよ」


「なんの話?」


「なあに気にしなさんな。どうだい安くしとくよ?」


「……まぁ、いいけど」


 そうして占い師の前に座れば、唯一机の上にある水晶は淡く光っていた。


 占いなんてものは興味はなかったけど、その当時は物珍しさか、あるいは進展がほしかったのかもしれない。


「この針に指を軽く刺しな。血をおくれ」


「んっ……」


 出された小針に人差し指を軽く刺せば、指の腹から血が垂れていく。その血をわざわざ水晶にかけられていく光景に軽く驚いたものだ。


「ほうほう……。お前さんのことは、だいだいわかったぞい」


「……?」


「お前さんは迷っている。自らが向かうべき道標も道のりもみえなく、闇の中をただ彷徨うだけの哀れな飼い犬。いや野良犬じゃな。そうして遠いところまで逃げてきた。」


「……」


 途中は少しムッとしたが最後まで聞くと不思議と納得していた。何せ言い返せない。


 そんな自分の半生を見てきてような言い草に気持ちが揺らぐがその続きが耳に入る。


「気にするな、野良犬とていずれ運命からは抗えぬ。」


「運命……?」


「そう、運命は絶えず動いておる。何も得ずとも、何を成そうが運命は止められぬ。」


「……そう」


 だったら今の自分は止まってしまったのではないか?そんな想いが心を埋め尽くしていく。


「お前さんは止まっておらぬ。黒き剣、天より舞い降りし時、その漆黒の輝きとともに、汝と共に邪悪をうち倒さん」


 その言葉を最後に、気づけば占い師は霞のように目の前から消えていた。騙された気分であったが、傷口から垂れる血は、夢ではなく事実であったことを教えてくれた。


 「運命……」


 それから私は、変わった人達と出会った。彼と彼が助けた少女。


 私にはその時はそれで終わりだと思っていた、けどそれで終わらない。───戦争である。


 彼らと別れてから数日のうちに大きな戦争が始まったのだ。それもこの都市アリューンへの宣戦布告なしの襲撃。


 私が参加し、彼らと再び出会うことになる戦争、 亜戦アリューン事変と呼ばれる戦争の始まりであった。

 


メリネ視点①です

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