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第二章 6「戦火の種火は、野に放たれて」

 何者だ?どこのどいつだ?敵か?


 そんなことを思いながら、丁寧な挨拶と共に女王はこちらへ驚くほどに文明的な行動をとった。それが余計に状況が全く飲めなくなった俺は、ひとつカマをかけてみることにした。


「はて?知らないな。生憎俺には人語話すゴブリンの知り合いなんていないもんでね」


「いいえ、妾の言うことに間違いなどありませんわ。ねぇラーゴ、そなたは信じてくれような?」


「陛下のおっしゃる通りかと。それにいかに貴様が誤魔化そうと、俺はあの時に村にいた者だ。お前のその桁違いの力と魔力は覚えている。それにその姿、忘れるにしては無理な話だろう」


「何……?」

 魔力、魔力だと……?魔法使いでもない俺に魔力だと?力ならば仕方ないが、この世界にはそういったものが知覚できるスキルでもあるのか?だが奴が出まかせを言ってそうだが、真相はわからない。


 俺にはこの世界においての情報のアドバンテージが一切ないのだ。間違いないと証言しているラーゴと呼ばれているゴブリン側が交渉のおいては、有利であったのだ。


 そしてラーゴ曰く、あの時の村にいた黒い騎士がオークたちを打ち滅ぼし、自分たちを逃したと者だとこちらにまで聞こえるぐらいに嘘偽りなく語った。


 わざとこっちにまで聞かせるように発言した辺り、あの日のアリサのトラウマで刺激する気かと思いたくなるぐらいで、少々…・いや、不機嫌になりかけた。


 だがそれよりも懸念点がある。”そんな逃げたはずのゴブリン達が何かしらの目的を持って此方に接触してきた事”だ。ゲーム的で言う、イベントフラグが立つ前触れに近い。


「で、その女王陛下様が俺らみたいな旅人に何か用か?」


と勝手に話を進めているゴブリン達に冷水をかけるように問い詰める。オドオドしているアリサを隠すようにしながら視線をラーゴから女王へ。


「そうじゃった、そうじゃった。ぬしに頼みがあって我ら一同ここまできたのじゃ」


「頼み?ゴブリンからの頼みなんざ、俺らに関係ねーとは思うが」


「そう言ってくれるな。そなたが警戒するのも無理はなかろうが、ぬしとて他人事ではない。実はぬしに……奴、小鬼の王(ゴブリンキング)を狩ってもらいたい」


「何……?」


 小鬼の王を狩る。それを同族の女王が言うことの意味を分かった上で一段と怪しくなった。そもそもこいつら自体なんなのかわからない上に、この感じ、俺の冒険(メインストーリー)の障害となるイベントに違いないと断定。


 しかし俺に関係あるのはどう言うことなんだと、話を続けろと視線だけで伝えては、女王は言葉を続ける。


「奴を狩る。妾が言うのもそうおかしい話だろうが、奴を討たねば、この辺り人間諸共地獄になると言えよう」


「……ひとつ聞かせろ。なぜお前達の王を狩ること、それを俺に頼み込むんだ。お前らの内輪揉めに付き合えとでも?来てもらって悪いが、リスクがでかし、そもそもそいつに俺が勝てるのか?」


「とことんぬしは用心者じゃのう、まぁ落ち着け。妾が話さなくては納得せぬじゃろう」

 

 それから女王は俺達に色々と語り始めた。自分たちが何者で、なぜこんなことを頼むかを。ゴブリンもとい魔種と呼ばれる種族は人種と同じ胎生だが、女王は親無くしてこの世に生まれ落ちた。


 あり得るのかと、隣にいたラーゴと呼ばれるネームドに尋ねるような視線を向けると、ラーゴは肯定するように頷いた。


 生まれ落ちた女王はゴブリンとは似つかない顔立ちで、酷く理知的であった。


 その後女王が生まれ落ちたのちにゴブリン達にも少しずつ変化が起きた。女王の配下となったもの達は、習うように彼らは醜悪なゴブリン顔ではなく、今の戦士のような顔立ちと肉体になっていったらしい。


 そうして女王が部族の長を継承する頃には、配下たちは他のゴブリンを優に超えていた。

 女王からすれば覚えているのは名も知らぬ神から自分は力を賜り、この世界に生まれ落ちただけに過ぎない。使命も信託もない

 ──神。だがこの世界の主神どもは滅びたはずと俺は思い、女王に問う。


「お前さんが会った神とやらは少女のような見た目か?」


「顔は見てないが、確かにそのような声色であったな」


 あいつは確か神どもの後任で、女王誕生に関わってもおかしくはない。となると女王は自然に生まれ落ちる存在ではなく……


「……バグか。」


「なんじゃそれは」

 こちらの言葉が気になる女王は、話を中断し興味津々に聞いてくるのを俺は払いのけた。


「いや、気にしないでくれ。独り言だ」


 女王は残念そうに落胆し、話を戻した。それからは長となりこの辺りの部族を纏め上げ、一勢力を築いた。

 それ以来この森ではできる範囲での文明圏を気づいていたところに今回の討伐依頼対象の小鬼の王とやらが、彼女の領地へ来訪したらしい。


 王は女王に自らの戦列に加わるように勧誘してきたが、女王はこれを断る。王も引き下がれずに武力をちらつかせ、執拗に迫った。


 だが小鬼の王ごとき、弁舌で勝る女王に勝てず、そのまま痺れを切らし、女王たちを大軍をもって包囲した。


 女王と兵たちは最後まで戦うつもりだが、捕虜となったラーゴたちを重じた女王は、王へ降伏し戦列に加わった。以降ゴブリンたちは兵役で働くつもりではあったが、奴隷として働くことになった。


 当然ゴブリン達は反旗を翻そうとしたが、女王の命は王に握られていた。それからも王の行軍で奴隷として働き、今となってはこれほどの数しか残っていないと女王は悲痛な顔もちで語った。


 つまりあの時のゴブリン達はすでに奴隷として働かされていたので、あれほど見窄らしい格好のままだったのかと納得した。


 オークを討ち滅ぼし、俺に見逃されたラーゴたちは束の間の猶予を持って、女王救出の作戦を決行。

 自分たちの生死が不明な今しかないと決死の救出を決行し、犠牲を払いながらも女王を救出。それ以来潜伏しながら、俺が村から出てくるのを待っていたらしい。


「妾たちはこうして生きておるが、束の間じゃ。いずれ奴が行軍を終わらせた際は、探し出して真っ先に始末されるじゃろう。」


 女王はやつの動向を聞かされていたらしく、今後どうなるのかを知っているようだ。


「行軍?そいつは一体何処へ?」


「都市へ向かっておる。目的地は交易都市アリューン、そこの占領である」


「なんだと……!?」


 驚く俺は女王の背後の遠くにあろう都市を見た。人間離れしている視力は、ぼんやりとだが、何が起きているのかもわかった。言った通りに戦争が起きていることが見てとれた。


 ──戦争だ。


 都市側にはメリネたち兵士たちがいるとすると相手は恐らく……


「小鬼の王であろうよ」


 俺の疑念に答えるように口を開いた女王は、そう断言する。


「どうやら今までの話はマジらしいな」


「ぬしに嘘をついてどうする。さて、長く話し込んでしまったが、早速だが依頼に移ろうかのう。改めて、ぬしには奴めを討ち取って欲しい。」


 そう言った女王は首を垂れたまま、頭を下げて頼み込んできた。周りにいる親衛隊も同じように頭を下げる。


「……一つ聞いてもいいか?そいつは強いのか?」


「並大抵では、ないな。おそらくは、かつてこの地にいたとされる魔王になり得る存在。だからこそぬしの力を見込んでじゃ頼んでおる。むしろぬし以外にやつに勝てるやつなど、今現在のここにはおらんわ」


「で、俺が受けなれば、都市は陥落し壊滅。人間達は皆殺し、その後に逃げ出したお前さんも殺される運命ってことか」


「察しが良いな。聞けば、ぬしらは都市に行くつもりじゃろう?まあ都市が滅ぶとなれば、その前に我々は逃げるから構わんが、ぬしの場合はそうはいくまい。」


 どうやら廃村でのやりとりなどを監視していたゴブリンがいたらしく、こちらの事情まで把握してるらしい。


「……確かにメリネ達には助けてもらった分の借りもある。それにアリサや俺も世話になったしな」

 

とアリサの頭を撫でてやりながら頷く。


「ならば助けてやらんとな。このままではそやつらは十中八九死ぬ、間違いなく」


「確かにな……」


 それを聞いて、廃村に来た兵士たちを思い出していた。最低限の革鎧と鉄防具。安っぽい直剣をもった最低限の兵士たち。

 メリネは鍛えた業物の長剣をもっていたがそれでも鎧は、普通の兵士の上程度だろう。


 あの武装が兵士のデフォルトであるならば、使っている武装は等級が低かったことを計算に入れてじは、大体把握できる。平均15前後に、メリネで20ぐらいだろう。


「お兄ちゃん……メリネお姉ちゃんを助けてあげて」


「アリサ……」


 アリサはこちら見上げ、不安そうであった。俺が返答を即答しないから、見捨てると思ったのだろうか、助けてあげてと懇願する眼差し。アリサを安心させるように女王に返答した。


「ま、行くしかねえな。そういうことだからアンタの依頼を受けるぜ女王さん。報酬はちゃんと用意しとけよ?」


 「恩人達の危機だ、助けてやらねえとな」

 そう呟くと、アリサが破顔したのを横目で見ながら、同時に内心ではゲーマーとしての直感が俺に囁いていた。


 これはいわばゲームでいう本筋のメインストーリーに見立てることができる。俺と知り合ったネームドNP Cっぽいメリサ一人。だがその他を見殺しにするのは、メリネに変なフラグが立ちそうでまずいと判断した。こういったメタ認知も強かったが、本音と言えば世話になった人たちのピンチならば、助けに行くつもりだ。


「うむ、心得たぞ。ラーゴよ、即座に準備をせよ…!妾たちで黒騎士殿をお送りするのじゃ!」


「御意」


 そう言ったラーゴたちは森へと消えていった。何かをとりに戻ったように見えたが……


「おい、何が始まるんだ。さっさと向かわねえと助けるもんも間に合わねえぞ」


「これよりぬしを戦場へ飛ばす」


「は?おいなんつった?戦場へ飛ばすだと?俺をか?」


 さっさと行こうとする俺を引き留めた女王は簡潔に答えた。


「ここからぬしが走ったところで間に合わん。そこで妾たちの秘策でぬしを戦場を送る。それぐらいはしてやらんとな」


「おぉ……魔法とかで飛べるようになるのか?」


「魔法?んなわけなかろう、これで飛ばす」


 そう告げる女王は配下達に森からあるものを持ってこさせた。資料で見たことあるカタパルトそのものだった。


「おいおいおい、冗談だろ……?」


「ちとオンボロじゃが、ぬし一人ぐらい飛ばすのはできるだろう、それに英雄は空から降った方が見栄えが良い」


「んなわけねえだろ!なんだそのこだわりは!」


 着々と準備が進むのを見るしかなく、人生初のスカイダイビングとはいかず、まさかの人間砲弾。


「……これで飛ぶのかぁ……まあいいのか?……女王はどうするんだ?」 


 場合によってはアリサのことを頼むかもしれないと。女王の動向を把握しておきたい。


「ぬしが参戦するならば、妾たちも腹を括るつもりじゃ。」


 時期をみて女王自らアリューンに向かうらしい。まぁ他のゴブリン達と違って、人型に近いから誤魔化しやすいのか?


「わかった。どう動くかは、お前さんに任せる」


「よかろう、あい分かった」


 アリサを女王へと預けてカタパルトのスリングに乗ろうとすると背後から声がする。


「お兄ちゃん!気をつけてね…」


「おう、アリサも気をつけろよ?。じゃ女王、アリサのことよろしく頼むわ。もしアリサになんかあったらお前さんどもを容赦しねえから」


「う、うむ、承知した。」


 アリサの安否を入念に念押して、女王は苦笑いで頷いていた。


 本来石などを載せる場所に座ってみるが、感覚としては幼い頃に公園での滑る前に座った滑り台に似ている。

 そんな妙な居心地のカタパルトは、ギチギチと軋む音がするが、不思議と今から飛ばされることに危機感を感じてなかった。


放て。

 

 横から聞こえたラーゴの合図で紐が放たれ、カタパルトが思い切り宙を裂いて、俺を弾き飛ばす。妙に落ち着いたまま俺は円を描くように飛んでいく。


 目安距離共に狂いはない。古参の戦士であり、投石機を用いたことがある豪語していたラーゴには、人程度を飛ばすなど容易いのだろう。


 無事に着くのだろうかと、祈ることが多くなった俺を、どこかでアシュは見守っている気がした。


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