第二章 5「休息の後は、また休息が欲しくなる」
あの後先にダンジョンから帰還した俺たちは、村長の元を訪ね、祠内の事の顛末を伝えた。主に隠し部屋とボスオークの侵入などを全部話した。
村長から特に隠し部屋については根掘り葉掘り聞かれた。が、俺たちがボスオークを倒したのは伏せることを条件に隠し部屋の詳しい詳細を教えることになった。
こちらの意図を察してくれた村長は頷き、せめても報酬で得たアイテムなどは持ち帰っていいことになった。加えて村長は俺らが泊まる場所がないので、知り合いの民泊への便宜を図ってくれた。
流石のアリサも疲れたのだろう、俺の背中にしがみついたまま瞼を閉じかけてウトウトしている。
そのまま教えられた民泊に辿り着けば、用意してくれた一室を泊まることになった。
一人用のベッドに寝かしたアリサの首元にあるアクセサリーに目がいく。このペンダントのおかげでアリサが魔法を行使できたのだろう。だがなぜ魔法を使えるようになったのだろうか。
考えられる点として、ペンダントに固有の魔法が入っていて、装備者が使用できるようにするタイプのアクセサリーということだ。だがそういったものには大抵本人の一定のレベルが必要だったはず。
おそらくだが、俺の血も要因の一つだろう。
村を出た頃のアリサのステータスを見た時はLv1、だが今はLv5になっている。ここからは推測だが、Lv99の俺の血を取り込んで、レベル格差をぶっ壊した上で、アリサ本来のレベルキャップが外れたのかもしれない。
エンデスや他ゲームでもそうだが、武器や魔法にレベル制限がある。アリサの場合でもそうだが、ダンジョンでの戦闘や報酬での経験値が溜まってレベルアップしたのだろう。
パワーレベリングしたような気がしたが、ますます俺たちの秘密をバラすわけにはいかない。捕まって血液タンクみたいにされるのはごめんだし、アリサを人質にさせるわけにはいかない。
ペンダントと遺物、それとドロップアイテムを得たが、何よりアリサが頑張ってくれたことを褒めるように頭を撫でながら、夜を明かしていく。
それからはゆっくりと村を観光していた。途中アリサの魔法の訓練のために、祠のダンジョンに潜ったが、他の冒険者からの追及は不思議となかった。
村長の手際に良さに感心している。おそらく知り合いの冒険者たちが倒したと流布したのだろう。村長と話す際に手渡したボスオークの大剣でうまく納得させたらしい。
そのボスオークが使っていた大剣はダンジョンの入り口へ隣に突き立てられ、ダンジョンへ訪れる冒険者への宣伝に活用された。まぁ真実を知ってめんどくさい詮索されるのも困るのだから、これで良い。
さらに数日後、アリサの表面の怪我もほとんど治りきったので、村長や世話になった人たちに挨拶を済ませて、俺たちはバラ村を出発した。
「意外といい村だったな。離れるのは名残惜しいけど、ここから何日か歩いたらいよいよ交易都市だ。街に着いたら色々忙しくなりそうだな。住む場所に、仕事、あとはアリサのこともだな」
「私は……お兄ちゃんのほうが大変になるかも?」
「だよなぁ……ただでさえ見た目ゴツい素性不明の全身鎧のやつとか怪しいわな。あとで着替えておくとして、メリネの名前出せば大丈夫って言ってたけど、話通じるといいんだけど……念の為準備しとくか」
二人揃って歩きながら話す、今後のことを気兼ねなく語り合うのは、なんだか冒険しているようでとても楽しい。
「お兄ちゃんみたいな身元不明な人でも冒険者になりたい人も来るって言ってたけど、交易都市は色々大変ってお父さんから聞いたことある。」
「ハハ、アリサは大丈夫だろうよ、可愛いし。で、ついでに俺もアリサの保護者って事で何事もなく通ればいいんだが。あっち側も何事もないならお互い楽だろ?」
アリサと談笑を交わす俺。現状今一番危惧してるのは自身の正体がバレた場合だ。最悪の場合にはアリサを巻きこんでしまうことになる。
どうか人外排斥国家所属じゃありませんように。心の中のか弱い俺は祈るしかないのだ。
己が危険に晒されるならその前にとんずらこくつもりではあるが、横にいるアリサは、何も悪くないので、俺の都合で危険を晒すわけにはいかないのだ。
お互い意気揚々と整備された街道を歩いている途中で、俺は話を遮った。
「で?いつまで見てるつもりだ?」
視線を感じたのはバラ村を出た数分の間。時は測っていないが、だんだんと無遠慮な視線が増えていったのだ。
そいつらは何もせず、それでいてずっと村を出たあたりからついてくるだけに、全く意図が読めない。
アリサを守るように自身の脇腹あたりに寄せ、背中の大剣に手を這わす。片手はアリサを抱き抱え、いつでも村の方角に戻れるようにしている最中に、妙な気配達は二人の前に姿を現した。
深緑の肌に人より長くエルフより短くとんがった耳。
ゴブリン、創作や、たいていのゲームでの認識的にはスライムと並んで雑魚敵である亜人。だが目の前のゴブリン達はどこか違って見える。
第一に目の前のゴブリンたちの装備が整っている。俺が村で見たゴブリン達は最低限の奴隷じみた身なりだったが、今に出てきた連中は武装していたし、皆精悍な眼差しで全くの別の生き物に錯覚してしまいそうだ。
それにこちらを襲ってこない点。集団でいきなり襲ってくるのがゴブリンだと思っていたが、目の前のゴブリン単独で背筋を伸ばし小さな軍旗を掲げ立っていた。まるで誰かを待つように。
それをみたとしてもゴブリンたちへの警戒は緩めずにいたが、森の方からこちらへ近づく強い気配を感じた。
カッ、カッ。森の中に最もふさわしくないであろう音。誰かが杖をつきながらこちらへ歩いてくる音とそれらの周りに複数の足音。
「(何者だ?ゴブリンの上位種か?あるいは支配者、しかしこれは……まるで軍隊みたいに規律正しい歩行……一体何者なんだ)」
謎の足音たちの到着を終始見守るだけで、後から来た連中はゴブリンの……一際目立つ女王と、親衛隊だろう複数の武装したゴブリン。
武装ゴブリンたちはエリートな感じでさほど驚かない。問題は女王だ、珍しく驚いてしまうほど女王はゴブリンらしからぬ顔立ちと所作を見つけてきた。
仮にもエルフの亜種といっても信じられるほどエルフ顔負けの端正な顔立ちで、親衛隊の連中もよく見ると兜の下はゴブリンというより人間的で精悍であった。
「(村にいた連中もこんな顔だったか……?)」
など思いながらも親衛隊の用意した椅子に座る女王は、警戒している俺たちの前に堂々と鎮座した。
「ごきげんよう黒騎士殿、お初にお目にかかるぞ」
微笑む女王に、俺は嫌な予感がした。 イベントってのは突発的に襲いかかってくるらしい。




