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第二章 4「癒しの祠 最下層 ボス戦」

 黒い塊。


 よく見るとそれは、さっきまでボスオークと交戦し、指揮を取っていた新米達の監督役の冒険者の一人だった。戦闘の練度の高かった彼が、時間を稼いでくれたお陰で冒険者達を助けることができた。


 なら今度は俺の番だな。そう思いながらオークの元へと向かおうとする俺を引き止めるアリサ。


 一瞬反応が遅れたが、横へと視線を移せば彼女は震えながら俺に手を握る。そこから俺への何かを魔法が伝わってくるがこれは……


「アリサ、お前さん魔法が使えるように……?」


「さっき、このペンダントが光って……助けなきゃって思ってたら、<小回復(ヒール)>ができるようになった、みたいで」


 なるほど、だからさっき倒れた冒険者の一人の顔色が良くなっているのか。そのせいか、アリサは少し疲れた顔だがそれでも気力を振り絞って俺を見つめる。


「大丈夫、俺が終わらせてくるよ」とするりと彼女の手から離れては、不安そうなアリサへ振り返れば


「その冒険者たちの手当てを頼んだぞアリサ!あとそこから動いてくれるなよ、守れなくなるからな」


「お兄ちゃん頑張って!」


 おう。と振り返らずにサムズアップを決めながら、こちらへ突進してくるボスオークの振りかぶった大剣の刃が眼前まで迫るが、こちらの大剣でオークの大剣を弾いた瞬間、目に映る。




《 疲弊した統率者のオーク》



 固有名はない。あくまで中ボスであることを視認した俺は、剣の柄を握り直す。


 戦闘に邪魔な冒険者達はすでに一箇所に集めてある。なら遠慮する必要のない。まるでニイィと生きてるような表情をした兜に、一瞬だけ怯みと恐怖によって隙を見せたボスオークの顔をガシッ!と掴む。

 

 オークも引き剥がそうと力を込めるが、俺はお構いなしに力づくで広場のど真ん中まで押し返す。


 お望み通りとばかりにオークを適当に放り投げては仕切り直し。

 雑魚も片付いたからこその、正真正銘のこの世界で初めてのボス戦に不謹慎だが、なぜか戦いにワクワクしているを客観視できた。


 「(ゲームじゃないってのに、癖ってやつなのかねえ)」

 

 体勢を整えたボスオークも怒り狂っており、唸り声を上げながら器用に涎を垂らしている。


 オークの統率下にあった魔物たちはすでに離散するように逃げ去っている。

 残るはボスオークだけ。そう、戦えるの一人と一匹のみのタイマンバトル。

 そして同じようにお互い一対一で向かい合いながら、徐々に距離と間合いを詰めていく。


「グォオォォォ!」


「おおおお!」


 そして攻撃するタイミングも同時での激突!


 お互いの武器を激しくぶつけて火花散らす。相手もボス格らしく、戦った下級オークに比べて、パワーもスタミナも桁違いでギチギチと軋む音で実感する。


 単なる中ボスだろうが、強敵には変わりない。それでも俺の頃は心が躍るぐらい滾っている。


 ガキンッ! ガッ! ガァン!


 それから幾度となく互いの大剣同士で激突しては離れ、また交差。


 最初は互いの牽制もあってか互角ではあったが、疲れと無縁なアンデッドである俺がわずかな動きで攻め立てていくのと、やつは疲れを地力のパワーを活かしてなんとか食い下がる。


 タイマンとはいえ、戦闘に若干慣れていない俺と、連戦であるオークで張り合っていた。


 だがボスオークは徐々に一歩ずつ後退する。動揺と焦りが見えるオークに本気でかかってこいよ、とわざわざ手招きして煽ってやった。


 そしたら奴は俺に吠えるように<戦士の雄叫び(ウォークライ)>を使った。物理攻撃力とパワーアーマー付与程度、どうやら俺の目には使われたスキル効果が見てわかるらしく、この体のありがみを知れたのだ。


 だがそんな目をもってしても奴がここまでの短期間でバテているのを捉えた。


 妙。何か他にもスキルを使ったようで、様子を見ているとオークは《死闘の一振り(ラストダメージアップ)》を発動させていた。


 自分のHPを削って、次に与える一撃がデカくするスキルらしい。現に攻勢を止め、回避に専念している。それを計二度使って、次の一撃で勝負を決めるつもりらしい。



 そして奴のHP減の原因はもう一つ、俺の持っている大剣の効果。

 確かにこのヨハネの大剣には攻撃成功時に、相手のHP/MPを吸う付帯効果がある。

 

 だがそれの発動には俺のHPが減っていることが発動条件であり、今の俺は無被弾のはず……ならどうして、と思っていたが、その答えは後ろにいた。


 どうやらアリサの<小回復(ヒール)>が原因らしい。直接的ではないが、魔法の行使にHPを代用しているようで、アリサのHPも減っているのをパーティー欄で確認できた。


 しかしアリサの体力で足りるわけもないから血の繋がった俺のH Pを代用して回復しているようだ。

 そのことをアリサは気づいていないだろうが、俺の負担でそれが解決するなら問題ない。


 まぁ勝手にHPが減ってたことに驚いたが、物の見方を考えればゲーム的な抜け道に繋げられることはゲーマーとしては喜ばしい。そんな思わぬ収穫に満足しながらもそろそろ勝負を決めにいこうとしていた。

 いくら奴が被弾してないとはいえ、今はただ、何度も剣戟を繰り広げているだけ。 


 疲れているとはいえ何も知らないボスオークは持久戦に持ち込むつもりらしい。


 そのために俺との拮抗のためにその後も何度もスキルも使用したが、そもそも最初から俺の勝ちは揺るぎはしない。奴が俺を一撃で倒せる技がなければだが。


 まあゲームによってはHP削って放つ技もあるだろうと警戒していたが、そもそもそんなHPすら残ってないだろうと、踏んでいた。


 ボスオークも俺に勝てないと悟ったようで、すぐさま狙いを後ろのアリサ達に変え、俺との鍔迫り合いを行う前に大剣を投擲し、俺からの戦闘からの逃走を図った。


「逃すか!<正戦決闘(スピリット・デュエル)>」


 俺は剣を突き立て、回復したHPバーの10%を削ってスキルを発動させる。対象になったボスオークは俺への攻撃を確実に一回行わなくてはならないように仕向けた。


 ボスオークはそのまま俺へ飛びかかるようにして爪による引っ掻きの攻撃をしてきた。だがそれを俺はわずかに左に動き、爪が兜をかすめていく。


 <死闘の一振り(ラストダメージアップ)>の効果が切れた奴を仕留めるために、腰の重心を下に、左足を前へ踏み込んだで大剣の一撃を振るう。


「<小斬撃(スラッシュ)>!」


「───!」


 振りかぶった大剣から放たれた斬撃は、飛ぶ斬撃となりボスオークを貫き、壁に斬撃の跡を深々と残す。


その光景に口あんぐり開けるぐらい唖然としながらも、アリサの方を向くと彼女もびっくりしていたのを見ると苦笑いが出た。


 そうして村のみんなの仇であったボスオークは絶命しながら俺の足元へ倒れ込んで戦闘が終わった。


「(ええええええええ。た、確かにヨハネには所持者のHPが増減した分だけを乗算して次の攻撃の火力が上がる付帯効果もあるけど<小斬撃(スラッシュ)>がこの威力?……こりゃあ……使い所考えねえと味方にも被害が出ちまうな)」


 壁に刻まれた傷跡(自作)に戦々恐々しながらも、新米冒険者たちはセーフティルームとなった広場に集め、アリサが頑張って治療を施して、一命を取り留めた。


 冒険者たちが目覚める前に、その場を離れ見守っていた。隠れなくてもいいとは思うが、ラストアタックした感じなので、成果は彼らに譲った方がいいんじゃないかと考えたからだ。


 まあ後日冒険者たちが成果を村に寄付したので、要らぬ心配事ではあったが。



「仇は取ってやれたかな」


「みんなありがとうって思ってるよ」


「そっか。それならいいか」


 顔も知らない村人たち、それにアリサの親父さんの仇を取れたのだから、それでいい気がしたようで、そのまま二人で、癒しの祠を後にした。

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